シンシナティ・ポップス・オーケストラとアメリカーナな仲間たち

 1918年11月11日、第一次世界大戦終結して今年でちょうど100年。パリでは記念式典が行われ、各国首脳が集まっている様子(と、トランプ大統領マクロン大統領にめっちゃきびしいこと言われてると思しき映像)をさっきニュースで見た。

 この終戦100年記念にあわせて、11月9日、シンシナティ・ポップス・オーケストラによるライヴ・アルバム《American Originals: 1918》がリリースされた。これは昨年おこなわれた、終戦(1918年)の頃に流行した音楽を集めたユニークなコンサートの録音。ゲストにはリアノン・ギデンズ、ポーキー・ラファージュ、スティープ・キャニオン・レンジャーズ。まるで当時おこなわれていたスター歌手たちとオーケストラのコンサートをラジオで聴いているようなレトロな雰囲気で、これが本当に素晴らしい。アメリカって、こんなローカル・コンサートがひょいと企画され、こんなアルバムがひょいと出るから油断なりませぬ。

 

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 シンシナティ・ポップス・オーケストラは77年に結成されたクラシカル、ポップス、ジャズとジャンルを問わないオーケストラで、現在の音楽監督は指揮者のジョン・モリスラッセル。というか、実質、主要メンバーは名門シンシナティ交響楽団の団員という“ほぼシンシナティ響(ほぼシン)”で、メインのオーケストラがシーズンオフとなる夏の間にあれこれ楽しい企画コンサートを開催して人気を博している。ボストン・ポップスとか、ハリウッド・ボウルオーケストラと同じような仕組みですね。シンシナティ・オーケストラといえば1895年に創設された、全米で6番目に古いオーケストラ。ちなみに前音楽監督は現・N響首席指揮者のパーヴォ・ヤルヴィ。クラシックとの区別もあるのか “POPS” という略称で呼ばれている。なんだかキュート。

 モリス監督によれば1918年というのは終戦の年であると共に、アメリカの文化にとっては“目覚め”の年になったという。世界で初めて民間業者による商業ラジオ放送の認可が下りたのはアメリカで、それが1920年のこと。ラジオの発展もあいまって、戦争の終わりと共にジャズ、カントリー、ブルースといった音楽スタイルが全米に広まり、浸透し、融合し、やがてアメリカン・ポピュラー音楽へと結実してゆくわけだ。で。このコンサートはつまり、その“目覚め”の時を振り返るもの。現在のアメリカ音楽の原点、アメリカで生まれた“アメリカン・オリジナル”の原点を再現しようという企画だった。

 まぁ、古きよき時代を振り返るレビューや名曲ガラのようなファミリー・コンサート的な催しは、アメリカに限らず決して珍しいものではないけれど。このコンサートはひと味違う。いわゆる現在のアメリカーナ・シーンのキーパーソンとなるゲストたちが登場し、オーケストラをまじえてソウル、ゴスペル、ジャズ、カントリーといった音楽を検証。いまだなかなか定義が難しい“アメリカーナ”という言葉の源流へと遡るマニアックさもありつつ、ポップス・コンサートとしてのエンターテイメント性も通常運転、というところがものすごく素敵だ。遠い国でひっそりとアメリカ音楽を愛する者としては、こんなコンサートの模様がライヴ盤になるなんてありがたい限り。

 

 このアルバムにタグづけするならば……

アメリカーナ
・フォーク
・カントリー
ブルーグラス
・ジャズ
・ブルース
・ブロードウェイ・ミュージカル
・ボードヴィル
ブラスバンド
・クラシカル

 

 ……うーん、まだまだありそう。勇壮なマーチング・バンド風の行進曲とか、ウディ・アレンの映画に出てきそうなノスタルジックなイージー・リスニング風、あるいはアーヴィング・バーリン作「God Bless America」の気高き演奏……などなども含めて、何から何までアメリカです。自分がノーマン・ロックウェルの絵になった気分(ちょっとウソ)。これが今どき“アメリカーナ”の原材料、てことなのだなぁ。

 

 個人的にいちばん印象的だったのは、やはり……というか、もともと彼女の歌がいちばん楽しみだったので当然っちゃ当然なんですが、リアノン・ギデンズ。フィナーレでの「I Ain't Got Nobody」を含めて4曲で登場。
 なかでも特筆すべきナンバーは、黒人ヴォードヴィルの作曲家たちによって書かれたブロードウェイ・ミュージカル『Shuffle Along』の劇中歌「I'm Just Wild About Harry」(1921)。2016年にはこのミュージカルをベースに、当時の制作の裏側をもまじえて描いた舞台『Shuffle Along, or, the Making of the Musical Sensation of 1921 and All That Followed』がブロードウェイの女王オードラ・マクドナルド主演で上演された。で、ですね、なぜこれが“特筆すべき”かというと、この2016年のミュージカルは、オードラ女王様がご懐妊のため途中降板。その後任として大抜擢されたのが、当時まだノンサッチからメジャー・ソロ・デビューしたばかりのリアノンだったのだ。ミュージカル初挑戦、しかもオードラ様の後任という超プレッシャーの中、歌も踊りもセリフも、重要な見せ場となるタップダンスもリアノンは死ぬ気のド根性で頑張った甲斐あって前評判は上々、で、めでたく初日を迎え……るかと思ったら、ブロードウェイは残酷なもので、なんと初舞台に立つ直前にまさかの打ち切り!閉幕。さすがにリアノンもそうとう落ち込んだらしいが、その努力はきっと明日への燃料になると信じて気持ちを切り替えたという。その後、真摯なメッセージがこめられた渾身のセカンド・アルバム『フリーダム・ハイウェイ』を発表。そして、ミュージカル経験との関連があったかどうかはわからないが、人気ドラマ『ナッシュヴィル』で女優にも初挑戦。日本では放映されていないので詳しくはわからないけど、注目度は高く全国的な知名度を獲得したそうだ。さらには2017年、このコンサートが行われる少し前には、米国の“天才賞”ことマッカーサー・フェローを受賞。と。いやぁ、人生に無駄な回り道はない……というお手本のような姿を見せてくれた彼女。実を言いますと、私、このブロードウェイのリアノン版を見に行くべく、チケットまで買っていたのです。まぁ、そんなわけで、もうひとつおまけの“特筆すべき”事柄として、リアノンだけでなく、オレも傷心だったのです(笑)。でも、いつまでもグダグダ悔やんでいてもしょうがない、リアノンを見習って前を向いて進まねば。と、そんな私を励ましてくれるかのように、今回、ここでついに幻のミュージカルからの曲を聴くことができました(o゜▽゜)oわーい。しかもタップまで……と最初は思ったんですが、これはリアノンではなく、タップダンスの名手であるダンサーのロビン・ワトソンさんが華麗なタップを披露したとのこと。両者の華麗なコラボは、映像でバッチリ見られます。

 


Cincinnati Pops presents American Soundscapes: I'm Just Wild About Harry

 

 もともとオペラ歌手を志していただけのことはあって、リアノンはこういう舞台が本当によく似合う。登場の仕方も優雅にして艶やか、ちょっとキリ・テ・カナワ様なんかを思い出させる、歌劇場の名花のごとし。かっこいい。最近では全米各地のオーケストラとの共演で、黒人音楽の歴史的なものを含めた組曲オーケストレーションはパンチ・ブラザーズのゲイブ・ウィッチャー!)を演奏するコンサートも多いが、その時のたたずまいも映像で見る限り本当に堂々たるもの。
 オーケストラとの共演ならではのナンバーとしては、「Swing Along」(1929)も素晴らしかった。この曲は、すべて黒人が書き、演じた初のブロードウェイ長編ミュージカル『In Dahomey』(1903年)で知られる作曲家ウィル・マリオン・クック(彼はナショナル音楽院でドボルザークの教え子でもあった)が書いた別のミュージカル作品からの曲で、黒人コミュニティのアンセム・ソングとして長らく愛されていた曲でもあるそう。このパフォーマンスも素晴らしい。でもでも、ブルースの女王ベッシー・スミスの「I Ain't Gonna Play No Second Fiddle」も、来日公演の時のリアノンを思い出せるような彼女らしさがあって魅力的。とにかく全部素晴らしい。

 


Cincinnati Pops presents American Soundscapes: I Ain't Gonna Play No Second Fiddle


 そして、もうひとり、ワタクシ的には超うれしかったゲスト。それは、ドラマ『ボードウォーク・エムパイア』のサントラに参加したことでお茶の間でも人気者になったというポーキー・ラファージュ。そのルックスからも、ジャック・ホワイトのアナログ溺愛偏愛レーベルThird Man Recordsからリリースしたことのある経歴からもわかるように、タイムマシンで現代にやってきたかのようなオールドタイミーなミュージシャン。しかしブルース、カントリー、フォーク、スウィングと幅広く柔軟な音楽性とか、キャッチーな音作りのオルタナパンク感は今どきの若者ならでは。ちなみにCRTの“カントリー・ロックの逆襲”ナイトでは、しょっちゅうかかりまくってる常連さんでーす。このライヴ盤での白眉は、なんといっても「Prairie Lullaby」だろう。ジミー・ロジャーズでおなじみの名曲をオーケストラと共に歌う姿、映像でもぜひどうぞ。

 


Cincinnati Pops presents American Soundscapes: Prairie Lullaby

 

 他にも「As Time Goes By」で知られるハーマン・フップフェルドの「Night Owl」でみせる銀幕ソングふうのゴージャス・ワールドも素晴らしいし、彼の通常モード(?)にかなり近い感じの「メンフィス・ブルース」でのいなせな歌唱もいい。リアノンと同じく、意外と……といったら失礼な言い方になってしまうけれど、インディーロックな魅力がありつつもこういう大舞台が似合うメジャー感がある。で、こういう両面性のあるミュージシャンたちが増えてきていることも、実は最近のアメリカーナ・ムーブメントの鍵だったりする。

 

 アーサー・フィールズの「How Ya Gonna Keep 'em Down on the Farm (After They've Seen Paree?)」(1919)は第一次世界大戦中の兵士たちの愛唱歌で、戦後になってポピュラー・ソングとして大ヒットしたという。この曲を演奏するのは、スティープ・キャニオン・レンジャーズ。おなじみ、バンジョー奏者としてのスティーブ・マーチンが活動を共にしている腕ききバンドだ。

 

 ジュディ・ガーランドが唄うこのシーンでも有名な曲ですが、

 


Judy Garland Stereo - How Ya Gonna Keep 'Em Down on the Farm - YMCA Montage - For Me and My Gal

 

 スティープ・キャニオン・レンジャーズが歌うと、こんな感じに!


Cincinnati Pops presents American Soundscapes: How Ya Gonna Keep'em Down on the Farm

 

 アルバム収録曲をYouTubeで検索してみると、オリジナルSP音源や古い映画の場面、曲をBGMにした当時の人々や流行の写真のコラージュなどが出てきたりするので、当時の音源との聴き比べしながら聴いてみるのも面白い。YouTubeありがとう!

 

……と、細々と映像クリップをまじえてご紹介してみましたが。実は!気前のいいシンシナティ・ポップス・オーケストラ、公式チャンネルでは各曲クリップだけでなくコンサート全編の映像も公開されているのです。

↓↓↓こちらっ!


Cincinnati Pops Performs American Originals: 1918 Live

 

 オーディオ(ライヴ盤)とは少し内容が異なりますが、音楽監督ジョン・モリスラッセルが、指揮の合間に曲や時代背景を解説してくれたりゲストを紹介したりするところもたっぷり見ることができます(´∀`=)。旬のミュージシャンたちによるブルースやジャズやカントリーが、名門オーケストラのサウンドと美しく調和するオーディオ音源も超おすすめですが。映像のほうも、ノスタルジック音楽好きにはくつろぎ定番にばっちり。ゲストの演奏はもちろん、指揮棒とマイクを忙しく持ち替えてノリノリなラッセル監督や、バンドやオーケストラの表情、そして歴史ある古いホールの内観など隅々まで楽しみながら晩酌などしてみたいものです。お正月あたりには……て、ずいぶん先だな(´・ω・`)