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女には向かない職業

ガーシュインもびっくり。バビューン!

《Viva!! ガーシュイン!》@なかのZERO大ホール(14:00開演)

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指揮:金聖響
ピアノ:山下洋輔
管弦楽東京フィルハーモニー交響楽団

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 先月のCRTはジャズ特集で、最後は山下洋輔さんで締めくくった。そして今月は、いよいよブライアンのガーシュイン作品集が出るのでガーシュイン特集なのである。本当に偶然なのだが、そんなCRTとCRTの合間に、山下洋輔さんが弾くガーシュインを聴きに行く……というのは、もう、赤い糸を感じずにはいられないわけである(誰とだ?)。


 今回は全曲ガーシュインという、クラシックのコンサートとしてはちょっと珍しいスペシャル企画。
 いやー、きてるわ、ガーシュイン(ひとりごと)。


 最初に東フィルの演奏で、ロマンティックな味わいの「パリのアメリカ人」があって。その後、金先生と洋輔さんの短いトークをはさんで、ピアノソロ。「Summertime」「Someone to watch over me」「I got rhythm」と名曲3連発、これがもう、いきなり素晴らしかった。
 が、やはり圧巻は、休憩を挟んでの「ピアノ協奏曲ヘ調〜山下洋輔バージョン〜」。
 洋輔さんのガーシュインは以前、スペシャル編成のビッグバンドを率いての「ラプソディ・イン・ブルー」を観たことがある。ただ、その時は、NYトリオも一緒だったし、そもそもビッグバンド・ジャズだし、わりと洋輔さんの土俵上での“十八番”としてのガーシュイン…という印象が強かった。
 が、今回は、ご自身もこれがまだ2度目だという「ピアノ協奏曲」。しかもそれを、以前にもガーシュインで共演している金聖響指揮で、東フィルと演奏するという初めての試み。音楽的にも、企画的にも、かなり刺激的な試みだ。なので、ものすごく楽しみにしていた。

 素晴らしかった。第一楽章からして、終わった途端に予想外の拍手喝采がわき起こるほどの大迫力。いちお大人の礼儀で「カデンツァ」とか言ってますけど、完全にアドリブの嵐である。ガンガン、ガシガシ、攻めまくりのガーシュイン
 第二楽章もセンチメンタルかつビューティホーな世界観に恍惚としていたら、途中でいきなり「But Not For Me」がまるっと挿入される。ピアノソロの時にもずいぶんと聞かせてくれたんだが、もう、この、1曲だけじゃ気が済まないってな勢いでどんどん名曲フレーズをはさんでゆくガーシュインマトリョーシカ状態が最高! うれしくてニヤニヤしちゃう。
 でも、そもそも自曲を引用したり…と自分大好きガーシュインなわけで、これもまたひとつのリスペクトってことなのかもしれない。
 そして第三楽章、終盤の凄まじさは想像以上。カッコいいなー、洋輔さん。どこにいても、どこに行っても自分のスタイルで自分の仕事をする。にこやかに、おだやかに、相手に敬意をはらいつつ、やる時はバッサリ斬りつける。そういうSなところが、もう、素敵すぎて泣けてくる。相手のスタイルに合わせない、対等なコラボレーションとはこういうことだ。と見せつけてくれる。

 「ピアノ協奏曲」は1925年、ガーシュイン27歳の時の作品。前年に発表した「ラプソディ・イン・ブルー」の敷衍版のような位置づけもされているが、彼が初めてクラシックの音楽理論書を買って正式にアレンジを勉強して書いた(笑)といわれていて、そのせいか、演奏によっては「負けてたまるかこのヤロウ」的な尖った攻撃性が表出する。ここんところ、70年代にプレヴィンがロンドン交響楽団とやったバージョンをよく聞いているのだが、これがもう、プレヴィンのドヤ顔がありありと脳裏に浮かぶ爆裂系弾き振りバージョンで。そりゃ、もう、当時のプレヴィンといえばミア・ファローと結婚したばかり。シナトラの元妻をモノにして、ロンドン交響楽団音楽監督にも就任したばかり。クラシック界のゲンズブールみたいな超モテ色男だったわけで。なんというか、そういうイケイケ状態だからこその、あえて伝統の境界線を踏み外す無頼っぽさ……みたいな魅力が最高。が、今日の洋輔さんのは、なんていうのでしょうなー、もっと精神的な意味で、境界線という概念すら超越した高みで戯れているような感じ。
 音楽の魂とガチで対峙する手段としての、そして、ガーシュインという存在に対する深い敬意としての、「壊す」という衝動。

 もし、今日の演奏をガーシュインが見たらどう思っただろう。

 まぁ、ビックリはするでしょうな。

 ガンガン、ガンガン肘打ちまくり。
 美メロ、メッタ切り。
 1920年代に、あんなピアノを弾く人はいないもの(笑)。

 でも。

 ものすごく喜ぶんじゃないかな。きっと。

 ガーシュイン作品の中にある熱情を、演奏家はそれぞれ自分のコトバで「通訳」して我々に伝えてくれる。「ピアノ協奏曲」にこめられたガーシュインの衝動、突き抜けたいと願う欲望が、山下洋輔のスタイルを通じて伝わってきた気がするもの。

▼このラプソディ・イン・ブルー、観ました。

ラプソディ・イン・ブルー プレイズ・ニューヨーク コンサート[DVD]

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▼この頃のプレヴィン、ほんとに色男すぎる。

ガーシュウィン:ラプソディ・イン・ブルー、パリのアメリカ人、ピアノ協奏曲ヘ調

ガーシュウィン:ラプソディ・イン・ブルー、パリのアメリカ人、ピアノ協奏曲ヘ調