Less Than JOURNAL

女には向かない職業

池波正太郎『男の作法』

粋だ。
昭和56年の発行だが、今の時代に読んでも全然古びていない。というか、むしろ、今の時代に足りない“スタイリッシュ”の本質について指摘している本に思える。
男たるものアレを食えコレを食え、こーゆー服はこーゆー風に着ろ……とかいうマニュアルではない。もっと深い哲学。食べること、着ること、読むこと、考えること……などなどに関する、男としての“矜持”が書かれている。
若者に向けてわかりやすく、という意味ではまさに“男のお作法本”みたいなマニュアル的側面もある。しかし、決して若者たちの世代に自分の考えを押しつけることなく、あくまで自身の美学というものについて書き、そこから何か学べるものがあれば勝手に学びなさいという距離感がまた粋。

昔の男の子には、こういうことを教えてくれる男の“先輩”がフツウに周りにいたはずだ。それは男に限らず、女でもそうだけど。今は、そういう“先輩”の立場であるはずの年齢に達した男も『LEON』をバイブルに、チョイワルとかチョイモテとかをめざしている修行中の身だったりするわけで。その好奇心をどーこー言うつもりはないが。いい歳して、あんな男になりたい、こんな男になりたいとか本気で熟考しているひとたちは、若いころにどんな男になりたいと思っていたのだろうか? と、好奇心から考えたりする。

結局、この本に書かれていることは一貫してて、実はすごいカンタンな話で。
“年相応”ということ。
若い時にできることは若いうちに、歳をとってしかできないことは歳をとってから。
で、それを守っていたら自然とちょっとずつ「男の作法」は身に付くものなのだ。
やっぱしね、若い頃から自分を高めてきたオッサンとゆーのは、フツーに気さくにレストランとかバーにいても何か他と違う雰囲気を漂わせているものだし、逆に立ち食いソバをすすってても何かエレガントだったりするわけで。40過ぎてから必死にグルメだダンディだと勉強してるツケ刃のひとは、どんなアッパーな店にいてもどこかコドモっぽく見えたりするし、極端な話、エレガントな立ち食いソバは絶対ムリ。ムリでも問題ないけど。

本の中で、ドストエフスキーでもトルストイでも若いうちでないと読めないんだ……ということが書かれているくだりがある。40過ぎたら根気がなくなって読めなくなるぞと。セックスばっかりしてるよーなエネルギーがあるなら(笑)、それをちょっとでもいいから将来の自分を高めるための何かにも使ってみろと。そのとおりでございます。年末年始の休みに、時間のある時に読もうと思っていた本なんか触ってもいないわ。そういえば。朝から駅伝→昼寝→ごはん→紅白のメイキング特番(?)→ミリオネア→はじめてのおつかい……で、今まさに1日を終えようとしている自分には、そのくだりは慰めとも励ましとも解釈できるものである。が、若い時だったら「そうだ、そのとおりだから友達との飲み会に行かずにドストエフスキーを読もう」と素直に思えたのかというと……それはわからないなぁ。わかっちゃいるけどやめられない、というのも青春の摂理だからな。というわけで、それを「やったひと」と「やらないひと」の差は歳をとった時に出てくるものよのぉ、と、ひとり深くうなずく「やらなかったひと」であったことよ。おやすみなさい。

男の作法 (新潮文庫)

男の作法 (新潮文庫)