Less Than JOURNAL

女には向かない職業

女デ・ニーロ

と言っても、レネー・ゼルウィガーの話ではない。

映画『シリアナ』では、ジョージ・クルーニーが役作りのために体重を16キロも増やしたというのが話題になった。『レイジング・ブル』でデ・ニーロが演じた役ならわかるが、別に“デブ”という設定が必須の役じゃなし、そんなに太る必然性もないだろうに……と、映画を観る前は思ってた。が、実際に観てみてナルホド納得。フツウのくたびれたオッサンとして中東の一般社会に溶け込んで暮らすエージェント、という雰囲気がものすごーくそれっぽく出ていた。さすがだ。パッと見の印象のみならず、「あのひとも昔は精悍なイケメンだったのに、長いスパイ暮らしですっかりよれよれになっちゃってー」みたいな、絶妙なデブ感……とでも申しましょうか。確かに、あのイケメンのままのクルーニーが演っていたら、ピアース・ブロスナンハリソン・フォードの芸能ガバメント映画(笑)と同じになっちゃって、ああいうリアリティは出せなかっただろうなぁ。ちなみに、太ったジョージ・クルーニービリー・ジョエルに見えてしょうがなかったです。そうかぁ、つまりイタリア系デブおやじかぁ。でも、それはそれでどっちもカッコいいなぁ。本場のチョイワルおやじ、という感じで。で、その熱演により、クルーニーさんはめでたく助演男優賞を受賞。ビリー・ジョエルにまでなって(笑)熱演した甲斐があったとゆーものです。しかも、グラミー賞の授賞式ではすでにすっかり元のイケメン体型に戻っていてビックリ。

「役作りでものすごく太ったり痩せたり」という役者魂を語る上では、やっぱし今なおデ・ニーロが永遠の金字塔なわけで。つまり、「デブったり痩せたり」界の『風街ろまん』みたいなものだと考えるとわかりやすい(わかりやすくねーよ)。ジョージ・クルーニーだけでなく、デ・ニーロ以降の「太ったり痩せたり」で役作りをした俳優は必ずデ・ニーロと比較される宿命にある。ハリウッドだけではない。日本でも、そーゆー役作りをした俳優はなんでもかんでも「和製デ・ニーロ」と言われたりする。

さて、ようやく本題。本日は、わたくしが生涯忘れることのできない「和製デ・ニーロ」をご紹介したい。や、正確には「和製女デ・ニーロ」なんですが。
かれこれ10年くらい前のVシネマで……しかも、タイトルも、内容も、その人の名前すら全然おぼえていないので、正確にはぜんっぜん紹介にならないんですが……。
実をいうと、そのビデオが発売されるというチラシを見たことがあるだけなんですよ。
それはダイエットに関するメーカーだかエステの協賛企画による、意図がよくわかんないVシネで。ものすごく太っていた主人公の女の子が、頑張って痩せてどんどんキレイになって恋に仕事に大奮闘! みたいな物語だった(はず)。主演女優は新人(というか、その企画がらみで選ばれたかなりふつうの人)で、そのチラシには撮影のために×キロから×キロまでド根性で体重を落としたというエピソードが載っており、なんと……
「まさに女デ・ニーロ!」
と書いてあった。
あ、あ、あきらかにまちがっている!
それって女デ・ニーロじゃなくてフツーのダイエットでは……。
その衝撃があまりにも大きくて、今でも「女デ・ニーロ」のコピーだけは鮮明に覚えているのです。あれはおそらく「減量=デ・ニーロ」というまちがった記号を、世界でいちばん大雑把な発想で使った宣伝コピーだったのではあるまいか。

すいません、それだけの話なんです。ただ、どうしても忘れられなくて。いつかどこかに書き残しておきたくて。すいません。すいません。本当にすいません。
そして和製女デ・ニーロさん、今はどこでどうしておられるでしょうか?