Less Than JOURNAL

女には向かない職業

秘密のかけら

  • 『秘密のかけら』WHERE THE TRUTH LIES(2005・カナダ/イギリス/アメリカ)

ひょっとしてAORの神様に呼ばれているのか? 
たまたまTSUTAYAで見つけて、パッケージに「50年代のショービズ界を舞台にした、ケヴィン・ベーコンのエロティック・サスペンス」なんて書いてあったら、そりゃ見てみたいと思うわけですが。これが思わぬめっけものだった。なんと、ルパート・ホームズ原作の映画化だという。
そういえば近年のルパート・ホームズは、自ら音楽と脚本を手がけた舞台でトニー賞史上初の同時2部門を受賞したり、あとはミステリ作家としてもエドガー賞を2度ももらっていたりと、そっち方面で大活躍している……という話を聞いたことがあるのを思い出した。転身、ということではないだろうが、あのAOR歌手時代とは違う才能での大成功を収めているわけで。「懐かしの歌手」と思ったら大間違いらしい。

物語の舞台は1972年。若く野心家の女性ジャーナリストが、50年代に国民的人気を博したコメディアンのコンビ=ラニー・モリス(ケヴィン・ベーコン)とヴィンス・コリンズ(コリン・ファース)の伝記本を書こうとしている。15年前、このコンビはナゾの殺人事件に巻き込まれ、それをきっかけに突然コンビを解消していており、大スクープを狙うジャーナリストはその事件の真相に迫ろうと2人に接触するが、やがて彼女自身もショービズ界の闇へと引きずり込まれてゆく……。

……みたいな。で、場面は50年代の回想シーンと70年代の「現在」を行ったりきたり……。という、まぁ、2時間ドラマにありそうな話ですが、実際、話の筋としては2時間ドラマみたいな感じです。エロティック・サスペンスと言いつつ、実際はいちおサービス場面として濡れ場もいれておきました〜的なところも含めて(ただ、あえてサービス場面っぽく仕立ててるクサイところが手練れ)。そういえば、ルパート・ホームズの音楽も『パートナーズ・イン・クライム』だの何だの、2時間ドラマっつーか昼メロみたいなのが多かったですからね(笑)。
でも、主人公の人気コンビが出演する、当時の国民的行事であったTVのテレソン特番とか、ナイトクラブでのショウとか、ホテルのスイートや空港でのスーパースターたちの様子とか、50年代のムードが些細に再現されていたり。さらには「現代」も1972年という設定なので、そっちもきっちり再現されてて。50年代と70年代の風俗とかファッションとかの違いもハッキリ出ていて、ものすごく豪華な2時間ドラマという感じ。あと、火サスと違って最初からわかりやすくあやしいヤツが犯人だったりする心配もないし。劇中劇で「不思議の国のアリス」が出てきて、それがストーリーにもうまく絡んできたり。ストーリーの根幹は無難だけど、凝りまくりの映像の美しさと、丁寧に練った演出とで想像していた以上に楽しめた。知的に「俗」をやっているオトナな映画というか。ありがちな、ひねりすぎて肩すかしくらう映画ではないし、かと言って予想通りってこともなくて、軽〜く「おっ!?」みたいな心地よい後味でイイ感じ。

で。このモリスとコリンズという架空の人気コンビ。これはたぶん、ジェリー・ルイスディーン・マーティンをモデルにしているんじゃないかなぁ。と、思われる。ただし、原作では両方ともアメリカ人のところを、映画の中ではディーノと思われるほうを「イギリス人」という設定に変えているのだが(まぁ、変える理由は納得←ネタバレになるので詳細自粛)。似せてるのは国民的大スターのコンビという設定の部分だけとはいえ、実際のマーティン=ルイスもずいぶん長いこと絶縁状態にあって、しかし近年ジェリー・ルイスが自伝の中で、他の誰にも理解できないであろうディーノとの固い友情(というか愛情)について初めて語った……なんてことも思い出しながら映画を見ると、50年代ショービズ好きにはますます面白い。時代的には、ちょうど『ビヨンドtheシー』の最初のほうと重なる感じ? セットで観ると、なお楽しい映画だと思います(あくまでわたくし的に、ですが)。ケヴィン・ベーコンがナイトクラブのショウで「ジャスト・ア・ジゴロ」を唄ったり、ナニゲに器用に唄って踊ってるシーンが多かったりするのはさすが「フットルース」(笑)。

実は去年、ヒッポセレクトからルパート・ホームズの豪華コンプリート・ボックス『CAST OF CHARACTERS:THE RUPERT HOLMES SONGBOOK』が出ていて「誰が買うんじゃ?」と思っていたら、夫が持っていました(笑)。いやー、タイトルからして“キャスト・オブ・キャラクターズ”ですもの。とことんショウビズの人だなぁ。ブックレットでは、舞台作品のことや小説のこととかも本人がブイブイと詳しく語っているので、ご興味ある方はぜひ。90年代以降の、テレビドラマのために書いたテーマ曲とか、ミュージカルのためのデモとかも入ってます。

秘密のかけら [DVD]

秘密のかけら [DVD]