Less Than JOURNAL

女には向かない職業

ある種、ドラちゃんのポケット

整理整頓が苦手なジェーン・バーキンは身の回りのもの一切合切、子供のおむつまで全部を籐のバスケットにパンパンに詰めて世界中どこにでも行っていたという。ある時、飛行機で隣に乗り合わせたエルメス社の社長だか偉いひとが彼女のバッグを見るに見かねて「もしよろしければ、その荷物がぜんぶ入るバッグを作ってさしあげましょう」と申し出た。それが、有名なバッグ“バーキン”の始まりだという。ウワサでは。

しかし、ここで間違えてはいけないのは、エルメスがそこまで言うのは相手がジェーン・バーキンだったから、なワケで。そもそも、整理整頓ができなくて身の回りの荷物をすべて持って歩いている……という逸話を聞いただけで「うーん、コケティッシュ!」「さすが小悪魔」とか思うのも、それがジェーン・バーキンだからなのである。
その証拠と言ってはナニだが、去年、なんかの雑誌に載ってたマーク・ジェイコブズのインタビューで、最後に「若者たちのファッションについて何かアドバイスをするとしたら?」と訊かれた彼の答えはズバリ、
「何でもかんでも持ち歩くな!」
だった。
「あなたの雑誌、あなたのケータイ、あなたのiPod、あなたのミネラルウォーター……全部カバンから出しやがれ!どうしてみんな、全部バッグに詰めて持ち歩きたがるんだ!? バッグレディじゃあるまいし!」と、相当トサカに来ているらしいファッション・アイコンがブチ切れてるっぽい様子が面白かった。ちなみに記事の内容はウロ覚えなので全然正確ではありません。あー、面白いからスクラップしとけばよかった。雑誌もウロ覚え、アメリカのファッションかカルチャー誌。
確かに、バッグレディとはよく言ったもので。ジェーン・バーキンならカワイイけど、そうでなければ……ねぇ(T_T)。そもそも、非ジェーン・バーキンの人がそんな大荷物を抱えて、しかもファーストクラスでなくエコノミークラスに乗り込んできたら、えらい迷惑。まぁ、隣の人は「バッグを作ってさしあげる」以前に「げっ。席、移りてぇー」ですわな。

で。なぜ、そんなことを思い出したかというと、今日、ガルシアマルケスのバッグを買ったからなのです。なんの関係があるかは、後述します。
このバッグ、最近では高橋きゅーちゃん愛用で知られているそうですが。前々から知り合いのギャルたちがやたら持ってて「すごーくいっぱいぃ〜、なんでもはいるしぃぃ〜、いろんな大きさあるしぃぃ〜、かわいくないですかぁぁ〜?」と、よく見せびらかされていた。まぁ、確かにかわいいとはいえ、自分で持ちたいとは思わないなぁと、特に購買欲をそそられることもなかったのですが。つい最近になって、何かのはずみでひとつ買ったら、これが!実に!よく出来ているではありませんか。内側の仕切りポケットがいっぱいついてて、なおかつドサドサッといろんなものを放り込めて、さらには「大荷物がかわいく見える」というカタチなんですよ。ジェイコブズ先生には申しわけないが、さすが「何でもかんでも持ち歩く」世代に大流行だけのことはあるというか。大きめのガルシアバッグを持ってるコが次から次へといろんなもんを中から出してくる様子を見てると、わたしはどーしてもドラえもんのポケットを思い出さずにはいられないのですが。でも、自分で持ってみて実感したけど、いっぱい荷物を持っててもわりとかわいく(←「わりと」が重要)見えるっていうのは、たぶん、このバッグならではの“魔法”なのだと思う。もはや似たようなカタチのバッグはいっぱい出ているし、柄とか仕様も他にいろいろよいものがあるとは思うのだが、なぜだかやっぱし結局、オリジナルが最強。その証拠に(証拠というか、弁明ですが)、いっこ買った後に違うカタチや大きさや柄が欲しくなり、そして新柄が出るとまた……と、気がつけばけっこうな所有数になってしまいますた(てへへっ)。ちなみにわたしの場合「CDをいっぱい持ち歩けるバッグ」というのは生活必需品。なので、底辺をさえぎる仕切りがなくて、重量に耐えられて、持ちやすい……という条件を満たす、ベターなアイテムは常にあれこれ探し続けているわけですが。身の回りの一切合切を持ち歩けるバッグというのは、当然のことながらCDキャリーとしてもたいへん優秀なのです。おすすめです。ただし女子限定で。

さて。で、今日、さっそく買ったバッグに、サイフとケータイとポーチとデジカメと文庫本とCD……などなど、ジェイコブズ先生もビックリの一切合切を「わーい♪まだまだ入るぅ〜」と詰め込んでいる時、ふと、思い出したのでした。そもそもガルシアマルケスというブランドというかセレクトショップの、もともとのコンセプトが確か「ジェーン・バーキンの自宅のクローゼットの中のようなショップ……」というようなものだったとゆーことを*1。となると、このバッグはものすごく理にかなった、ブランドを象徴するアイテムではないか? 事実がどうなのかはわからないけど、これってつまり、ジェーン・バーキンのバスケットみたいなものだから。てことは、ものすごく機能的な「現代のバーキン」ってことかも。ホンモノのバーキンって、実は、ホントに何でもかんでも入れるとものすごく重い。やっぱし、ジェーン・バーキン仕様なのよ。ドアトゥドアで、自分で荷物を持って歩くことがない人用のカバンなわけで、まちがっても全財産を詰めて満員の山手線に乗るためには作られてはいないわけです。となると、エルメスバーキンを作った発想はそのままに、お値段グッとリーズナブルで、より機能的……というバッグを作ると、こうなるのかも。なんてことを想像して、感動もあらたに、さらに一切合切を詰め込む作業を黙々と続けるワタクシなのだった。
あ〜、あえてグチャグチャに詰め込むのが、なんかカワイイにゃ〜。つか、楽しい。自分が、歩くドンキホーテもしくはマツキヨになったような気がする。いや、ようするにこれがバッグレディってことか(号泣)。

あ!

余談ですが。そういえばボ・ディドリーさんも、ギター・ケースに全財産詰めて歩いてるってゆってたなぁ。彼の場合は、貯金通帳とか、土地の権利書とか、まさに読んで字のごとく全財産。全人生、と言い換えてもよかろう。昔、騙されたり、いろいろ苦労したから、すべてを身につけて持ち歩いてないと落ち着かないらしい。ちょっと泣ける話。

*1:すいません、これもウロ覚え。少なくともショップには、そーゆーコンセプトがあったかと