Less Than JOURNAL

女には向かない職業

ステイ


ふーーーーーーーーーむ。
なるほどねぇぇぇ。

正直、見終わった瞬間は「………………え?」という肩すかしにも近いオドロキがあり、しばし呆然だった。が、その後、じわじわ、じわじわと満足感が押し寄せてきて、「思い出し笑い」ならぬ「思い出し感動」みたいな面白さ。そういう意味でも、謎解きサスペンスというよりも、連想ゲームというか、自分のイマジネーションを使ったRPGというか。おもしろかったなぁ。
これほどリアルに「じわじわ」が来る映画ってものすごく久しぶりに見た気がする。
ひとことでゆって“敷居の高い「バニラ・スカイ」”だ、な。
キャメロン・クロウ版「バニラ・スカイ」をさらに幻想的にして、あえて分かりづらいようにすることで、見る側の想像力がグルングルンにもてあそばれる映画という感じ。

ちなみに……

数々の謎が隠されている本作は、1度ご覧になっただけで100%理解するのは不可能!? そこで、2度3度とお楽しみいただくために「ステイ」のチケット半券を掲示していただけた方は、もれなく2回目より1000円でご鑑賞いただけます。(恵比寿ガーデンシネマにて「ステイ」上映期間中のみ有効)

と、いうことになっている。
最初から「いちど見ただけでわかんない映画」というのを提示しているのは、どうなのかしらんとも思うが。確かに、最初は「???」状態を楽しんで、だいたいの事情をのみこんだうえで(?)もういちど見たら面白いかもしんない。
さらには、今のところ恵比寿ガーデンシネマ限定のようだが、本編が終わった後に出てくる「キーワード」を公式サイトに行って入力すると、映画の中に出てくる数々の謎が解けるというアフターサービスもついている。で、さっそく行ったみた。そうなのかなぁ、たぶんそうじゃないかなぁと思いながら見ていたことが“答え合わせ”みたいに出てくるので「ああー、やっぱしそーだったのね!」と、おバカなあたしもホッと安心。たとえるならば「王様はハダカ……なんですよねぇ」と、ちょぴり不安な庶民に自信を与えてくれるサービスなわけです。
で、そこでは映画の宣伝にも出てくるいくつかの「謎」の答えも解説されていて。その「謎」のひとつに、
「なぜ、サム(主人公)のズボンの裾は短いのか?」
という「謎」があるのですが。
「それは、サムがマイク☆ラブのファンだからでぇーーす!」
と、映画を見る前から自信まんまんだったわたしの推理は見事にハズレでしたよ。
↑あたりめーだ。
映画の中でもずーっとズボンの丈が気になって気になって「マイク、マイク」と思っておりましたところ、なんと、実はものすごくシリアスな理由があったのですが。わたくしにとってはそのホントの理由よりも、この「謎」は笑うところじゃなかったのか!というのが何よりも衝撃でしたよ。

監督は『チョコレート』や『ネバーランド』のマーク・フォースター。『ステイ』は、ちょっと『ネバーランド』とつながってるのかな。ファンタジーというものを永遠の少年とかいう綺麗事で片づけるのではなく、成熟した大人の中にある、行き場のないイビツな魂の破片として認めている映画という意味で。フツウの人々が決して外に出すことができないヒミツの感性みたいなものを、不特定多数に向けて発信される映像というメディアで表現できるってすごい。フォースター監督は70年生まれという若さだけど、どの作品からも、年齢に関係なく何かを「わかってる」人特有の繊細さと、おおらかさと、悲しみ……みたいな感じがものすごーく漂ってくる。大人になっても「不思議の国のアリス」の世界から追い出されない人というのは、こーゆー人なんだろうなぁ。なんてことを考えていたら、『ステイ』の隣ではテリー・ギリアム版「不思議の国のアリス」の『ローズ・イン・タイドランド』が上映ちゅうだった(笑)。そうだ、そうそう、テリー・ギリアムもそーゆー人だぁ。
ネバーランド』を見た時に、「こっちの世界」に来られる人と来られない人との間には何か絶対的な違いがある……という、芸術家(=フォースター)だからこそ言える残酷な真実みたいなものがサブ・テーマとして流れている映画だと思った。経験や努力でも手に入れられない、説明してもわからない人には永遠にわからない、たぶん生まれながらの資質というかDNAみたいなものについて明言してるような側面がキッパリと描かれている気がした。で、フォースターもギリアムも、映画を見てると「あっちの世界」に行くことを許された人が「こっち」の人たちに「あっち」を見せてくれてるような気がしてくる。こういう人たちは、たぶん、映画監督とか画家とかミュージシャンとかいう職業につかなくちゃいけないことを神様と約束してから、この世に生まれてきた人なのだ。凡庸な人間からすれば、それはちょっぴりうらやましいような気もするけど、やっぱし、ホントはうらやましくない。たぶん自分が神様から「約束を守れるなら、ものすごーい映画監督になる人として生まれていいよ」と言われていたとしても「や、めんどくさいからイイっす」と断っちゃてる気がするよ。絶対に。だって本当に大変そうだもの。

追記。他にも、ものすごーく近い感覚の映画があったような気がして気がして気がしてならなかったんですが。思い出した。ティム・ロビンス主演の『ジェイコブス・ラダー』(1990年)だ。ニューヨークを舞台にした悪夢映画、といえばコレ。感覚が近いというよりも、映像的にも、ストーリー展開的にも、ひょっとして実際『ステイ』はこの映画を意識したとこがあるんじゃないかという気もしてくるほど。意識したかどうかは別としても、作り手の意識を含めて、いろんな要素がものすごく近いとこに位置してる作品だ。いやー、あれはなんだかモノスゴイ映画だったなー。ちなみに、監督はエイドリアン・ライン。『フラッシュダンス』と『ナインハーフ』と『危険な情事』の後に、こんな映画を撮ったんだ〜というのが、最初はちょっとフシギに思えた。が、ああいう大ヒット作連発の後に撮ったいうことで、よけいスゴいのかもしれない。という、なんつーか、ブラックホールみたいな吸引力のある、かなり特別なスタンスの映画だった。ああ、近い。ものすごく近い。考えれば考えるほど近い気がしてきた。おもしろー。