Less Than JOURNAL

女には向かない職業

政治のことはわからんが。

 ディクシーチックスや、あのパール・ジャムでさえもコンサートでブッシュ批判をして大事件になったのが、ほんの数年前のことだったなんて信じられない。政治的な活動には関わらないというスプリングスティーンまでもが《Vote For Change》キャンペーンに参加したけれど、結局、何も変わらないのかなと思っていたのもつい最近のことだ。そういう風に考えると、本当に感慨深い。だってさ、ディクシー・チックスは、彼女たちのC Dを集めて焼くまつりまで開催されたんだよ。焚書ならぬ焚盤ですよ(でもな、C Dは燃えねーんだよー。ざまみろ。あ、今は燃えるゴミか)。
 そんな時代もあったね……ってゆっても、ほんの数年前のことなんですよ。まぁ、そんなことを言ったら、我々の大好きなビーチボーイズがデビューした頃にはまだアフリカ系アメリカ人は、法律によって堂々と虐げられていたわけで。アメリカの歴史というのは本当にめまぐるしく、ものすごい勢いで進んでゆく。

 たまたま出かける前に、CNNでオバマの勝利宣言スピーチをライブで見られた。本当に、なんとわかりやすい言葉で、感動的な演説をする人だろうかとしみじみ聞き入った。言葉はもちろん、声の素晴らしさも神様の贈り物なのかもしれない。ものすごく深いところまで響く。さすが、朗読C Dでグラミー獲っているだけのことは(笑)。

 黒人が大統領になるとか、フツウの主婦が大統領になるとか、コメディアンが大統領になるとか、そういう定番フィクションは、今後、オバマ大統領の誕生と同時に一気に色あせてゆくだろう。911を境に、アメリカ本土が攻撃されて大戦争という空想小説がすべて荒唐無稽に見えてきたように。ベルリンの壁が崩壊して、魅力的なスパイ小説が懐メロ小説になったように。

 そして。あのオバマの演説に全米が涙を流して熱狂した後の世界に向かって、音楽は何を歌うのか。ニール・ヤング、ディラン、スプ、それにエディ・ヴェダー……これから彼らが出す新しい音楽には、非常に興味がある。ある意味、アメリカの政治に対するわたしの興味というのはそこがピンポイントかもしれない。

 言葉の端々に、キング牧師を始めとするアメリカの偉人たちのスピーチに対する意識をにじませ、そして勝利宣言のために檀上に一家四人であらわれた映像がまさにジョン・F・ケネディ一家をほうふつさせたのを見ながら、ふと、なぜだか、ウディ・ガスリーを始めとする先達に連なる道の最先頭に躍り出た瞬間のボブ・ディランのことを思い出した。進化する者にとっては、歴史と伝統という重荷を背負うことは義務であり特権。というのは、音楽だけの話ではないのだな。あと、そのあたりは日本の音楽がいつまでたっても軽んじてることだなと、今日、日本を騒がすもうひとつのニュースを見ながら再認識。

 そういえば、さっきCNN.comを見たらトップページにドカーンと「World celebrates Obama's win」って載ってて。ヨーロッパとかアフリカとか(たぶん)、世界中のいろんな人種が「いえーい! おめでとー! ビバアメリカー!」みたいな笑顔でセレブレートしてる写真が載っていた。超アメリカン映画『インディペンデンス・デイ』で、アメリカの老兵がひとりでカミカゼ特攻して宇宙人をやっつけるというペキンパー調の場面の後、世界各国でいろんな人種の人々が「ありがとうアメリカ!」状態で喜ぶベタベタな場面を思い出したよ。ま、そういうとこも含めて、今、アメリカをJ−POPで表現するならば「思いきりアメリカン」って感じかな。えへ☆ で、それはそれでいいんだけど。小浜市の人たちが泣いて喜んでいるのはいったい……オバマ氏を名誉市民にするとか、就任式にはホワイトハウス前で「おばまガールズ」が祝福のフラダンスをする計画もあるらしいけど、やめたほうがいい、ほんとに、悪いこと言わないから。つか、やめて、お願い。とりあえず、オバマへのグリーティング・フロム・ジャパンは、こないだのノッチさん突撃(←これは不覚にも感動した・笑)でフィナーレってことにしようよ。頼むから。

Yes We Can: Voices of a Grassroots Movement

Yes We Can: Voices of a Grassroots Movement

オバマ議員の演説を使用した《エクスクルーシブ・オバマ・バージョン》が多数収録された豪華オフィシャル・コンピレーション。
日本盤は12月に。