やればできる子
《前川清 meets 前田憲男》
Jazz & Pops スタンダードの華麗な世界
@文京シビックホール 大ホール
前田憲男先生率いるビッグ・コンボをバックに、前川清がジャズ/ポップスの名曲を歌います……というインフォメーションだけで、「なぜ、そーゆー組み合わせ?」とか「なぜ、今ジャズ/ポップスを?」とか、まったくわからぬまま待つこと数ヶ月。そしてコンサートが終わった今も、なんでこーゆーコンサートが実現したのかよくわからない。が、それでもいいのです! 昨秋のデビュー40周年公演でクールファイブと歌い踊ったオールディーズ・メドレー*1でのイキイキ☆キラキラぶりが忘れられない者としては、今回はいったい何を歌うだろうと妄想しているうちにたちまち半年くらい経ってしまいましたよ。そして、こういう企画だからこそ実現したであろう初挑戦曲を多数含む前川流カヴァーの新境地を堪能してまいりました。
二部構成で、後半は「雪が降る」のイントロが「雪列車」に続いてゆく……みたいな、ベタというかエヌエチケーっぽいセルフカヴァーなども色々とあったのですが。CRT巡回団としては(笑)、とりいそぎ洋楽カヴァー曲について報告しておく。
第1部
・「ムーンリバー」(アンディ・ウィリアムス)
・「太陽は燃えている」(エンゲルベルト・フンパーディンク)
・「デライラ」(トム・ジョーンズ)
・「ヤング・ワン」〜「コングラッチュレーションズ」(クリフ・リチャード)
・「誰かが誰かを愛してる」(ディーン・マーチン)
・「ザ・シャドー・オブ・ユア・スマイル(いそしぎ)」(トニー・ベネット? アストラッド・ジルベルト? もしくはフンパーディンクかな)
・「この胸のときめきを」(ダスティ・スプリングフィールド)第2部
・「思い出のサンフランシスコ」(トニー・ベネット)
・「君は我が運命」(ポール・アンカ)
・「アンド・アイ・ラブ・ユー・ソー」(コモつーか、概ねエルビス)
どうですかッ!!
興奮しませんかッ!?
わたしは、今、こうしてリストにした曲目を見ただけで再びメラメラと興奮してきましたぜ。
選曲については、MCから推測するに(←なんかモゴモゴと、事情ありげな様子)前川さんや前田先生ではなく、演出側からの提案で決まっていった模様……よくわからないけど。なぜかフンパーディンク色が濃いのは(笑)、選曲した人の影響なのかな。それでも昨年の40周年コンサートに続くクリフとか、前から聞いてみたいと思っていたトム・ジョーンズとか……ふだんはありえない、スペシャルなアナザー・サイド・オブ・キヨシであり、同時に個人的にはいちばん聞きたいキヨシでもあったので、むふふふーと嬉し笑いがこぼれっぱなしでした。
まぁ、ごらんになってわかるように、もっとたくさんあると思ったエルヴィスがなかったのがちょっと意外だった。MCではエルヴィスが大好きで、もう、カヴァーするのは申し訳ないと思うくらい好きなんでー、だからクリフを歌います(笑)みたいなジョークを言っていたが。「ラブレター」とか、ナマで聞いてみたいのになー。そういえば、今回は、楽しみにしていた「アハハン♪」も封印されていたし。しかし、まぁ、エルヴィスは歌わないと言いつつも、各曲それぞれエルヴィスが入ってましたよ。ノリノリで迎えたラスト2曲は、もう、RCA!ラスベガス!っていう電飾看板が脳裏でチカチカするくらい70年代エルヴィスへの思慕を感じるものでしたよ。あと、もちろん第1部ラストの「この胸のときめきを」こと「うぇなせい」。これは、もちろんキヨシ・エルヴィスの真骨頂ナムバーなわけですが、前川さんのMCによれば、選曲した人(演出家?)の意向として「今回はエルヴィスではなく、ダスティ・スプリングフィールド版でやってくれ」といういらんことリクエストがあったらしい。
前「なんか、プレスリーじゃなくて、ダスティ……スプ……スプリング? スプリングなんとか?」
客席で、思わずずっこけました。
前川さん、最高ですっ! いっそ「スプリングスティーン?」とかゆってくれてもよかったくらいのもんで。前川さんにとっての「うぇなせい」は、エルヴィスの「うぇなせい」しかないんですね(T_T)。てゆーか、結局、歌い始めたらダスティどころか、最初のひとこえからいきなりエルヴィスだったので、もう、ホントにうれしかったです。で、途中の「ビリーブ・ミー〜」のところはちゃんとダスティ版で歌っていたけど、なんか歌いにくそうだった。当然ですよ。「今回はダスティで」とか、いかにも意味のないヒネリは前川清の唄に対して失礼と思います。
前川さんの唄が喜ぶ、そういう音楽さえあればいい。
そーゆーことなのだと、あらためてしみじみ思った。
あれだけ栄光の歴史がありながら、フシギなことに前川さんはいつも人前に出ると緊張するとか、帰りたいとか、野球をやっていた子供の頃から「ブルペンでは絶好調でマウンドにあがるとダメなタイプ」だったと言い、ヘロヘロになり、あげくワケわからないことを言い始め……と、おもしろいくらいにステージ上で自信をグラグラさせていて。でも、なんか途中でだんだん、自分でも楽しくなってきているのがこちらにも伝わってきたりするのがホントにいい感じで。まぁ、すごく特殊な歌手なのだと思いますが(笑)。今回もまぁ、ずっとブツクサブツクサ言いわけしながらも、最初からけっこう楽しそうだったのが印象的だった。メインアクトでありながらも、チャレンジングな内容で、メンツ的にも非常にアウェー感がある企画で、だけど楽しそうな前川さんがよかった。とちゅうでだんだん、だんだん嬉しくなってちゃってる感じとか、あとはアウェーの恐怖感?なのか何なのか、前田先生にムチャブリしまくったり、唐突にシモネタぶちかましたり、いきなり森進一のモノマネまでするという(笑)、あらゆる局面でレアな前川清が見られたし。で、やっぱり特にクリフとか、「この胸の〜」とかでの、嬉しい気持ちが唄にもキラキラと反映されている感じがすごくよくて。あと、特筆すべきは最後の「アンド・アイ・ラブ・ユー・ソー」! 前川さんの英語はかなりカタカナなんですが、そういうところもすべて含めて、何か他にはないワンダフルなワールドを醸し出していて。いいなぁ、本当にいいなぁ。と、ひたすら幸せな気持ちになるのですよ。洋楽なんだけど、洋楽でもないし邦楽でもなくて前川さんの歌だけが持つ世界がギュッと凝縮されている。カヴァー曲なのにね。ていうか、カヴァー曲だと、その歌声に出身地・長崎が持つ独特の《洋風日本》な空気感が漂っていることをよりハッキリ感じられるような気もしてくるし。
ものすごくマジメで完璧主義な人だから、自分が自信をもって得意だと言えないことをやるのはヤだというのはわかる気がするし。これだけキャリアのあるスターに対して、あーしろこーしろとか、こういう前川清を「あると思います」とかきっぱりジャッジをするのは難しいだろうし。新しいことをやるのは、想像以上に大変なことだとは思う。ただ、ときどきこんなふうにこっそりと新しい実験的なことをやってみて、楽しかったらちょっと続けてみたり……という、そういうことをやってくれたらうれしいなー。と。
コンサート見ながら、ふと、わたしがいちばん好きなエルヴィス・ソングのひとつ「The Girl of My Best Friend(奴の彼女に首ったけ)」をいちどでいいから前川清の歌で聞いてみたいなと思った。すごく似合うと思うんだけど。フィル・スペクターにヒット作のハウツーを教えたといわれる、女性ソングライター=ベヴァリー・ロスの大傑作。極上スイートなエルヴィス・ポップ。前川さんも絶対に好きな曲ではないかと。
あと、カヴァーといえば。まぁ、これはいろいろ事情もおありでしょうから絶対にムリだとわかっているんですけどね、かなうことならば、宇多田ヒカルの「Flavor Of Life」をカヴァーするのを聞いてみたい(T_T)。てゆーかね、わたし、この曲を脳内で前川清のボーカルで再生するとしばらく止まらなくなるほどピッタリくるんです。想像してみてくださいよ、♪なんだぁかせつな〜い……のくだりとか。最高でしょう(T_T)。そもそも「Automatic」からずっと、宇多田カヴァーはかなりいけるとひそかに思っていたのです。いやー、これってDNA関係ないのにね。なんだろうね。やっぱ、琴線がつながってる?
余談だが。文京シビックホールは、日本語のロック愛好家の皆様には《文京公会堂》としておなじみかと思いますが。このホールでは文京アカデミーという、志はわかるが実質的にアカデミックなのか何なのかよくわからない謎の財団法人*2の主催による、どう見ても採算無視っぽい豪華な単発コンサートがときどきあって。仙波さんとデーモン閣下とか、順とマチャアキとか、ひらたく言えば「お役所仕事」と「意味不明」のジャスト中間点みたいな《Vs.》シリーズが続々とある。しかし、本日のコンサートのような奇跡企画に出会うことができるのも、こういうシリーズあってこその幸運なわけで。ビバお役所仕事。てなわけで。
- アーティスト: エルヴィス・プレスリー
- 出版社/メーカー: BMG JAPAN
- 発売日: 2009/01/08
- メディア: CD
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↑ああ、やっぱしこのアルバムを全曲カヴァーしてもらいたくなってきた!
うん、全曲いけるぜ! 「サッチ・ア・ナイト」とかもいいんじゃないのー??