Less Than JOURNAL

女には向かない職業

新春オールディーズをどり・英国編


●Findlay Brown / Love Will Find You (Verve Forecast)



 なんだか、あまりにも久々でブログの書き方も忘れてしまったんですが。新年、初買いCDがことごとく大当たり。こいつぁ春から縁起がよい。書きとめておかないと。


 なかでもFindlay Brownはビックリ!した。とにかく、ビックリという形容がぴったり。2007年にデビューした時には、正直ほとんど印象に残らなかった。いかにも今どきの英国系アコースティック・シンガー・ソングライターで、ややカントリー・フォークっぽい味わいもあって。まぁまぁイイ雰囲気だなぁ、くらいの感じで。でも、その後はレーベル絡みなのか、エレクトロ系のピコピコなコラボしたりしてるし。やっぱ、オールディーズ好きのおばさんには、イギリスの若者のやることはよくわからんのぉ…ということで、すっかり存在そのものを忘れていた。


 ところが。新春に発売(US盤)された新作『Love Will Find You』のジャケットをふと目にした瞬間、なぜかモーレツに気になった。ただならぬ気配を感じたのだった。ビバビバアメリカ、ビバノンノン感満載。クリス・アイザック経由エルヴィス調(?)のリーゼント・ヘアと、60年代ミュージシャン・ルックの服装。おまけに、彼のいる部屋の窓ガラスにはボンヤリ、心霊写真のように自由の女神まで写りこんでいるではないか。そしてレーベルは、ここのところジェシ・ハリスやエリザベス&ザ・カタパルト、レット・ミラー、そしてコステロも…と信頼度の高い名盤を次々と送り出しているVerve Forecast。何かゾクゾクっと予感めいたものを感じて、あわててMy Spaceをチェックしてみてビックリギョウテン。そして即、お買い上げ。


 言うなれば、現代英国版「ロンバケ」みたいなアルバムなんである。

 冒頭、ロイ・オービソンばりのセンチメンタルなメロディを「Be My Baby」のリズム・パターンに乗せた「Love Will Find You」。これがもう、いきなり悶絶卒倒モノ。よく練り込んだ60'sアイテムを、シャープでモダンなウォール・オブ・サウンドに構築してみせる。続く2曲目の「Nobody Cared」もスペクター・サウンドなんだけど、今度はライチャス・ブラザーズの「アンチェインド・メロディ」的アプローチでやってみたり。アメリカの様々な60年代オールディーズを丁寧に、綿密にしっかりと編み込んでいったような世界観は見事。近年のイギリスものでも、ブライアン・ウィルソンのソロや『ペット・サウンズ』を経由したスペクター調は珍しくないけれど。そういう、間にワンクッションはさんだオールディーズ・アプローチではなくて。60年代をそのまま反映しているストレートさが新鮮。しかも、頭でっかちなオタクっぽさはなくて、若々しさがあって躍動的。オービソンをスカ・アレンジで、スプリングスティーンばりのグロッケンを加えてチャーミングに仕上げてみたり…とか、アレンジに詰め込んだアイディアは膨大なんだけど。サウンド面での過剰な遊び心が鼻につかないのは、それ以前にメロディメーカーとしてかなり頼もしいから。「If I Could Do It Again」は、エルヴィスが60年代の主演映画サントラで歌っていたような感じの“いい曲”路線だし。ニール・セダカ的なコード進行でぐっとせつなさを醸し出したりもする。これを、30歳かそこらの若者が書いているというのは驚き。


 全編がアメリカン・ルーツなんだけど、とてもイギリス的でもある。つまり、アメリカ人のやるオールディーズ・サウンドではなくて。イギリス人好みのアメリカン・オールディーズなのだ。だから、いかにもエヴァリー・ブラザーズのキュートなカントリー・ロッキン・ナンバーっぽい「That's Right」にしても、どこかデイヴ・エドモンズとかの匂いがするし。そして1曲目に象徴されるように、オービソンの影響がけっこうあるんじゃないかと思う。イギリス人的な感覚でとらえるオービソンというのは、たぶんオペラチックな面というか、荘厳さみたいなものが前面に出ているように思う。彼のような若い世代にとっては、クイーン的なものの先にあるオービソン…という位置関係に見えるのかも。それに加えて、映画音楽っぽいスケール感も躊躇なく取り込んじゃうのも英国風味を出しているのかな。ちょっとやりすぎかと思うほどの、タガの外れた荘厳さ(笑)がところどころにあって、それも奇抜で面白い個性になっている。あと、エヴァリー・ブラザーズのようでもありウォーカー・ブラザーズのようでもある…みたいな、強欲なエエとこ取り感覚とか。このあたりはイギリス人ならではのセンスかも。で、イギリス人好みのアメリカン・オールディーズというのは、すなわち日本人好みでもあるということ。そのあたりが、なんとなく現代の「ロンバケ」と連想したツボなわけで。ロンバケに限らず、杉真理佐野元春浜田省吾をはじめとする日本の60'sマニアック・ポップスとの共通項もあちこちに感じる。サビの“胸キュン”感とかで、かなり日本人好みなクスグリも満載で。今どきのJ-POPシンガーがそのまんまカヴァーしたら大ヒットしそうな曲もある。「All That I Have」という曲なんかは、ビートルズの「今日の誓い」と思わせつつ、実は「デル・シャノンか!?」というオチがありつつ、しかし日本人が聞いたら一瞬「えっ、哀愁でいと!?」と惑わされるかもしれないくらい歌謡フレイバーに近い味がするし。


 ちなみにプロデューサーは、今もっともノッてる英国人プロデューサーのひとりでもあるバーナード・バトラー。元スエードさんの。それで、彼と一緒にバンド活動もしてきた日本人ドラマーのマコ・サイトウさんも参加している。だからよけいに日本人好みのポップ・グルーヴが……なんてことは全然カンケーないと思うけど。全体像の作りかたが、めちゃめちゃうまい。とっちらからず、ちんまりせず。斬新でいて、スタンダード的。どのあたりまでがフィンドレイ・ブラウンの意図で、どのあたりまでがプロデューサーの手腕なのかはわからないけれど。さすがいい仕事するな〜。やっぱしイギリスの音楽シーンも油断して見過ごしてはいけないとしみじみ思いました。

 とにかく、これはすごい。自分の中では、去年のダイアン・バーチに匹敵するくらいの歓喜大爆発な一枚。今年のお正月、いきなりこんなアルバムから始まることができてすごく嬉しかった。日本でも人気出そう。ラジオとか西新宿とか百人町とかで。



●Findlay BrownのMySpaceあります。なかなかのナル男くんかも?
http://www.myspace.com/findlaybrown

Love Will Find You

Love Will Find You