Less Than JOURNAL

女には向かない職業

落合記念館もいいけどDavid Wax Museumもね。

 あまりにも遅すぎますが、あけましておめでとうございます。
 芋づる式、という言葉が脳裏に浮かんでは消える2011年です。
 音楽の話です。

 昨年くらいから、アメリカの音楽シーンが楽しくて楽しくてたまらない。ベテランもいい感じだし、ビックリするような新人もどんどん出てくる。こんなにワクワクしっぱなしなのは、久しぶりだなぁ。特にアメリカーナ/ルーツ・ロック系のアーティスト。とりあえずTボーン・バーネットジョー・ヘンリーあたりを手がかりに「ここらへんかな」と釣り糸を垂れると、ホントに面白いくらい次々とビックリする才能がドンジャラドンジャラ釣れまくるんですよ。一昨年あたり、個人的にしばらく弱っていた時期に、アメリカン・ロックはもういいやみたいな気持ちになったこともあったんだけど。いやいや、あきらめたらもったいない。と、ディランの来日前後あたりから、オレのリスナー魂は復活したのでした。なんかもう、古いものだけ聞いていればいいのかな……みたいな選択肢にいちどは落ち着きかけたんだけど。ステージ上のディランが、何だかわかんないけどめっちゃ笑いまくっている姿を見たら、音楽っていうのは演る側も聴く側も生きている限りは止まらないものだとわかったよ。音楽が好きだと思ったら、あとはどんどん自然と前に進み続けていくものだと。過去にとどまるという行為の中に、音楽は流れない。ということだよ。まじで。よくわかんないけど。うーむ、ちょび髭ありがとう! ちょび髭おそるべし!

 そして、昨日。グラミー賞のステージに、そのディラン先生が登場。かなり急に決まった話だったらしい。しかも、エイヴェット・ブラザーズとマムフォード&サンズとの共演!
 Tボーン旋風吹き荒れる中、リック・ルービンが漢の誇りをかけたプロデュース・ワークを炸裂させた『I and Love and You』で(オレ脳内の→)ルーツ・ロック兄弟/姉妹ブームの先がけとなったエイヴェット・ブラザーズ。そして、いよいよクライヴ・デイヴィス先生を後ろ盾にガチ&マジで米国制覇を狙う(←オレ脳内予想)21世紀のブリティッシュ・インヴェイジョン、マムフォード&サンズ。今、私がもっともお気に入りの若手バンド2組が仲良くグラミーで共演を果たしただけでも狂喜なのに、ここにボブ・ディランがジョイントしたのだから、もう、私としてはちょっと早めの冥土のミヤゲを貰ったくらいの達成感がありましたよ。つか、今のディランの気運というものが、彼らみたいな若手バンドによるムーブメントとしっかりつながっていることを、ディラン自身も確かに自覚している……ということが、最高にわかりやすいかたちで証明されたステージだったのでは?

 さて、そんなわけで。ここんところ、自分の中ではエイヴェット・ブラザーズ周辺が熱い。もちろん彼ら自身の勢いもすごいんですが。その周辺にいるバンドたちもまた、ホントに面白すぎて困っちゃう。マムフォード&サンズも、とても仲良しのバンドだそうだし。今、エイヴェット兄弟と共演したり、オープニング・アクトにブッキングされるポジションにいるミュージシャンっていうのは、概ねハズレなし*1。少なくとも私の中では、ものすごく旬な感じがする音楽だらけ。そういえば、ひみつ姉妹も彼らと共演しているしね。

 で、そんなワクワク状態の中で、現在、私のヘビーローテーションはデヴィッド・ワックス・ミュージアム(David Wax Museum)。エイヴェット・ブラザーズやOld 97'sとのツアーに抜擢されたり、このたびジョー・ヘンリーのプロデュース作でグラミー賞ベスト・トラディショナル・フォーク・アルバム部門を受賞した(おめでとう☆)Carolina Chocolate Drops'sとの共演などでも注目を集め、昨秋はニューポート・フォーク・フェスティバルでのパフォーマンスが評論家筋からも大絶賛されたボストン出身の男女2人組ユニット(ライブでは基本的にバンド・スタイルの模様)だ。

☆☆DAVID WAX MUSEUM 公式サイト☆☆
http://www.davidwaxmuseum.com/Site/Home.html


 実は、初めてバンド名を聞いた時にはマリリンマンソンみたいな人たちなのかと思った。だって、だってワックス・ミュージアム。蝋人形館ですよ(笑)。ところが、これはメンバーであるデヴィッド・ワックス君の名前だった。

 すでに米国国営ラジオNPRも大プッシュ中で、多くの有名アーティストが出演しているアンプラグド・セッションのシリーズ“Tiny Desk Concert”にも登場している。いわゆるアメリカーナとかフォーキー系に分類されている。が、彼らの特徴は何と言っても、アメリカン・トラッドとメキシコ音楽を融合したユニークな折衷サウンド

 デヴィッド君はメキシコのギター、ハラナなどの弦楽器を担当。特にハラナで繰り出す極太リズムが、バンドの心地よいグルーヴの要になっている。相棒のスージー(Suz)・スレザックは見事なフィドルを弾き、キハーダというロバの顎骨を乾燥させたメキシコの民族楽器でギロやウォッシュボードのような楽しいリズムを刻む。ライヴではバンジョーやドブロ、ドラムキット、ウッドベースなど腕達者なプレイヤーも加わって、パッと見はジャグ・バンド版エイヴェット・ブラザーズ!? 編成を生かしたノスタルジア・ミュージック的ニギヤカ・サウンドをソン風アプローチでやってみたり、ダンサブルなラテン・ビートにブルーグラス風なフィドルを加えてフシギなフォークロックに変身したり。
 バイオグラフィーによると、デヴィッド君は学生時代にメキシコの農場でバイトをしたことで、メキシコ音楽に親しむことに。その後、ボストンのハーヴァード大学で学位を取得。で、その後、メキシコの民族音楽をより深く研究するため、奨学金で1年間メキシコへ。それがきっかけとなり、メキシコのサウンドを融合したバンド・サウンドを探求してゆくことになったそうな。一方のスージーは、バージニアで農場を営む父親の影響でアイリッシュトラッドやオールド・フォーク、クラシック…など、さまざまな音楽に親しんで育ったそう。大学卒業後は、テキスタイルの勉強のためにワトソン奨学生として世界中を旅して回ったとか。で、それぞれアメリカに帰国した頃にボストンで出会い、バンドを結成することになったそう。おそるべき高学歴インテリバンド((((;゜Д゜)))。


 特異な民族楽器がメインに使われていると、なんとなくフォークロアっぽい雰囲気と先入観を抱いてしまうし。それがアメリカン・ルーツ音楽と融合しているとなると、先鋭的なワールド・ミュージックみたいな生真面目さも想像しがちだ。でも、デヴィッド・ワックス・ミュージアムは、たぶん、想像しているよりもずっとポップ。そして、さまざまな音楽を気ままにミックスしているようでいて、実はちょっと計算高いのかな(笑)、音楽的な土台がとても丈夫でどっしりしている。デヴィッドはメキシコ系サウンドについて知り尽くしているし、スージーアメリカン音楽の部分をしっかりと担っている。いろんな音楽の要素があるのに迷いがないというか、ブレていない感じがいい。よく「音楽性の違い」で解散するバンドがいるけど、このふたりの場合、音楽性の違いによる役割分担がとてもよくできているように見える。


 ボストンの音楽シーンはよく知らないのけど、やっぱり文化的な水準も高そうだな(←と、ものすごい先入観で投げかけております)。彼らのちょっとクールな融合感覚は、さまざまな音楽が日常的に交差しているニューヨークやLAとか、まぁ、ナッシュビルとか、そういう土地から生まれる音楽とも、何となく違う匂いがする。たとえば音楽性の中心にある「ラテン」というジャンルのとらえかたにも、コンガを叩いてマラカスを振ってボヘミアンを気取っていた50年代のビートニクたちに近い美学がありそう……と思わされる側面がある。異国情緒がクール、みたいな。まぁ、基本的にはものすごく親しみやすい音楽なんだけど、ところどころスノッブ。絶対、どっかにスノッブな視点がある。でも、それがイヤミじゃないし。ただ陽気なだけではない、ひんやりとした心地よさを醸し出している。


 て、言葉で説明してゆくと難しいのですが。公式サイトに載っているニューポートでのセッション映像を見れば、たぶん一目瞭然。理屈抜きの楽しい雰囲気がイッパツで通じると思う。このライヴ映像を最初に見た時、個人的には「アメリカ版ロッテンハッツ?」と思った。そして、同じくサイトにあるビデオクリップを見ると、こちらはカラフルでキュートな魅力満載。スタイリッシュなビジュアル面では、スージーのセンスが大きいようだ。


 彼らは今月、3rdアルバムにあたる「Everything Is Saved」をリリースしたばかり。とか偉そうに言ってますが、実はアルバムを聞いたのは今回が初めて。で、興味を持って過去作品も遡って聞いてみると、以前はメキシコっぽい要素は今作と同じように色濃かったものの、もうちょっとアメリカン・フォーキーつーか、SSWっぽい感じが前面に出ていたようだ。が、この最新作では、これまでやってきた要素がよりじっくり煮込まれているというか。特異な持ち味であるメキシカン・サウンドを、より印象的に大胆に使いつつ、ジャグやカントリーの味わいも損なわず、しかも、そうすることでかえってSSWとしての自我がぐぐっと浮き彫りにされている、そもそも楽曲もぐっと成長している様子……と、万事がジャンプアップな感じ。今までのローカル・カレッジ・バンド的な素朴な魅力が、いいカタチで“攻め”の姿勢に転じたような仕上がり。
 プロデュースを手がけたのは、ラングホーン・スリムやジョシュ・リッターらを手がけるSam Kassirer(なんと読むかわかりません・笑)。そういえば……と確かめてみると、最近、この人がらみで好きな作品が多いな。T先生やJ先生ら大御所の仕事とはまたひとあじ違う、現場感覚の鋭いプレイヤー/プロデューサー仕事なのか……彼の存在も、今後ますます楽しみです。


 ちなみに、アマゾンでは今のところ、最新アルバムはMP3販売のみのようですが……。

Everything Is Saved

Everything Is Saved


 このバンドのことは、我らがディラン先生も大好きに違いない。うん、どう考えても好きに違いない。しかも、女の子の名前がスージーときてる。それも“Suz”というのですから……あわわわ。めちゃくちゃフィドルが巧くて若くてべっぴんなスージーさんが、ディランのバンドにスカウトされないことを祈るような、祈らないような(ドキッ)。

 そういえば、彼らのライブ・ステージがバンド編成であることは書いたけれど、サイトによるとドブロ、マンドリン担当がJiro Kokubuさんという方。日本の方でしょうか。より親しみを感じますね。


 で。以下は、本題と関係ない余談になりますが。
 ここまで書いて、ちょっと思い出したことかあるので、書き捨てておきます。昔話すぎて歳がばれるんで恥ずかしいんですけどな〜。個人的な記録として、忘れないうちに。

 15年くらい前、ナッシュヴィルのAOR系で非カントリー系のラジオ局のプロデューサーと話したことが今でもすごく印象に残っている。
 当時はまだ、ジャンル別ラジオ局で曲をかけてもらえるかどうかが今よりずっと重要な時代だった。特に、カントリーっぽい要素がある音楽だけどカントリー・ミュージックではない……という音楽になると、ナッシュヴィルでは確実にダメ。どれくらいダメかというと、イーグルスやポコのメンバーがやっているカントリー・ロックっぽい(つまり、カントリーでもロックでもカントリーロックでもない新しい音楽)バンドなども「カントリー局を選ぶかロック局を選ぶか、はっきりさせない限りはデビューさせない」と言われていたという状況だった。フェイスブックどころか、インターネットもようやく一般的になってきたような時代でしたから(笑)。

 で、そのプロデューサーに「ワタシが最近好きな音楽は、そういうラジオではかからないような音楽ばかりデース」と言ったら、彼女も「ワタシもソウデース」と。その時に「でも、これからはそういう音楽もニーズも増えてくるはず」だと。それで、最近は全米で“アメリカーナ”という言葉を使うところが増えてきたと教えてもらった。もちろんアメリカーナという言葉はずっと以前からあったのだけど、それは主に、もっとフォークロアとかネイティブな音楽を指す言葉のイメージがあった。だから、最近使われている意味での「アメリカーナ」のムーブメントについて知ったのは、その時が初めてだった。あと、当時どんどん伸びてきているラジオ局のジャンルとして《AAA》という言葉も彼女から教わった。これからはIT産業がどんどん成長して、クルマや電気製品メーカーにかわって音楽業界の大きなスポンサーになる時代が来る。そして、そういう新しい業界を支える富裕層というのはイーグルスやドゥービーズ、さらにはグランジ・ロックを聞いて育った世代。そういう流れが今後どんなふうに広がっていくのかが、今は非常に面白い……という話を、その時は「へぇ〜」とひたすら感心して聞いていただけだったのだけど。今になってみると、あれは時代が変わるものすごく大きな瞬間のことだったのだなぁと思う。

 しかし、こうやって思い出してみると、たかだか十数年といっても、もはや戦前の話をしているみたいな……時の流れに身を……流されっぱなし(笑)。

*1:当たりハズレ感には個人差があります・笑