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女には向かない職業

おめでとう25周年、ランディ・トラヴィス

 1986年に発売された、ランディ・トラヴィスのメジャー・デビューアルバム『Storm Of Life』。300万枚を超えるメガ・セールスを記録し、ネオトラディショナル・カントリー旋風を巻き起こすきっかけとなった。このアルバムから25年を記念して、超豪華な面々をゲストに迎えたデュエット・アルバム『ANNIVERSARY CELEBRATION』が発売された。おなじみの名曲を中心に新曲を加えた、新録ベストの趣向でもある。これが素晴しくて、ここのところずっと聴いている。

Anniversary Celebration


 私はやっぱり、ランディの声がいちばん好きだ!
 すべての現役カントリー歌手の中でいちばん好きだ!
 初めて彼の声を聴いた時、カントリー界のジェイムズ・テイラーだ!と思った。それには賛成しかねるなーと、JTマニアの萩原健太さんには今でも言われるけれど(笑)。私にとっては、やっぱり今でもJTと並ぶ最強まろやかヴォイスなのだ。あの声にはもう、永久に無条件降伏だろうな。

 そもそもカントリーにのめりこむきっかけが、ランディ・トラヴィスだった。
 セカンド・アルバム『Always And Forever』(1987年)がビルボードのカントリー・チャートで43週連続ナンバーワンという記事を見て、さらにファースト・アルバムもド級のヒットだと知りビックリしたのだ。単純に。日本ではまったく知られていないシンガーが、アメリカでは社会現象級のブームになっている。この歌手がそれほどすごい人なのか、もしくはカントリー界がおそろしく封建的なせいなのか……という好奇心から、それまであまり聴いたことのなかった最新カントリー・ミュージックに興味を持つようになった。

 あまりにも人気が凄すぎた80年代の余波なのか、90年代以降のランディは常に迷走ぎみだった。ランディに続くスーパースターとして一世を風靡した、あのガース・ブルックスやビリー・レイ・サイラスも同様であったように。

 鳴り物入りで移籍したドリームワークス時代もまったくパッとせず、カントリー・ゴスペルのほうに行ってみたり、俳優として頑張ってみたり。そういえば、3年前のアルバムではディランの「くよくよするなよ」をカヴァーしていたっけ。と、いろいろやって来たものの、結局のところ、なんとなくベテラン懐メロ歌手的なところに落ち着いてしまった感があった。もちろん、それもまた素晴しいことなんですけどね。歌唱力は衰えず、抜群だし。これだけたくさんのヒット曲があれば、それをずっと歌い続けてゆくこともまた彼の使命だと思うし。ゴスペル・アルバムも素晴しかったし。でも、世間の印象としては、いわゆる悠々自適スタンスというか、日本で言う演歌の大御所に近い存在感になりつつあったような感じがする。
 本音を言えば、これがホントに彼自身の望むあり方なのだろうか……ということも、いつもちょっとだけ感じていた。まぁ、日本にいると、なかなか活動の様子も伝わってこないし、本国でどんな風に評価されているのかもわからないし。あくまでも、単なるファンとしての勝手な妄想ではあるのだけれど。

 でも、この『ANNIVERSARY CELEBRATION』の中にいるランディ・トラヴィスはとてもいい。変わらぬ艶やかさと、音楽に対する前向きさと、年齢を重ねた包容力と、今までになくリラックスした人間くささも伝わってきて、うれしくなる。
 RT is Back! そんな感じだ*1。私は、この歌声が大好きだ。好きで好きでたまらない。と、あらためて思った。80年代の大ヒット曲だけでなく、90年代以降の名曲ものびのびとして、いかにも彼らしい華やぎに包まれている。
 ベテラン歌手の中には、老若男女あちこちのアルバムやライブにゲスト出演する社交的なミュージシャンも多い。が、ランディの場合は、わりと孤高のスタンスを守り続けてきたというか。そんなに頻繁に競演ものがあるわけでもなくて。それだけに、今回の全曲デュエットというのは新鮮だし。若手から大御所まで、次々とさまざまなタイプの歌手と歌うことで、ランディ・トラヴィスの本来の引き出しの多さというのも端的に見えてくる。

 さて、アルバムの内容。この曲目と顔ぶれを見れば、もう説明不要ではあるのだが……。

1. Everything And All (Feat. Brad Paisley)
2. A Few Ole Country Boys (Feat. Jamey Johnson)
3. Forever And Ever, Amen (Feat. Zac Brown Band)
4. He Walked On Water (Feat. Kenny Chesney)
5. T.I.M.E. (Feat. Josh Turner)
6. Love Looks Good On You (Feat. Kristin Chenoweth)
7. Better Class Of Losers/She's Got The Rhythm (And I Got The Blues)(Feat. Alan Jackson)
8. More Life (Feat. Don Henley)
9. Can't Hurt A Man (Feat. Tim McGraw)
10. Promises (Feat. Shelby Lynne)
11. Is It Still Over? (Feat. Carrie Underwood)
12. Road To Surrender (Feat. Kris Kristofferson & Willie Nelson)
13. Diggin' Up Bones (Feat. John Anderson)
14. Someone You Never Knew (Feat. Eamonn McCrystal)
15. Too Much (Feat. James Otto)
16. Didn't We Shine (Feat. George Jones, Lorrie Morgan, Ray Price, Connie Smith, Joe Stampley & Gene Watson)
17. Everything And All

 オープニングはいきなり、今をときめくブラッド・ペイズリーとの「Everything And All」。さすが、いかにも今どきのスピード感あふれるカントリー・ロッキン。ノリにノッてるブラッド君の勢いに、ランディも刺激されているよう……とも聞こえるけど。最後に収録されている同曲のソロver.を聴くと、こちらはものすごくランディっぽいサウンドに響くのが面白い。最近の若手カントリー・ヒットも、見る角度をちょっと変えてみれば、80年代にランディがやっていたタイプのカントリー・ミュージックとがっちりつながっていることを再認識できる。もはやスタンダード・ナンバーの大名曲「Forever And Ever,Amen」も、ザック・ブラウン・バンドと歌えば旬のノスタルジアアメリカーナ風かと思えてくるほど。ちなみに、このカヴァーも大秀逸だ! 曲の終わりにランディが「Zak Brown,Ladies and Gentlemen」と言うところは、なんだか、名曲というタスキが次の世代へとつながれていく瞬間を目撃したような気持ちになる。

 80年代初め、故郷からナッシュヴィルに出てきたランディは、デモテープを持ち込んだ音楽出版社に片っ端からダメ出しをくらった。関係者のひとりは、彼の歌について「Too Country」と評したという。カントリーすぎる、時代遅れだと。カントリーの本場でそんなことを言われたなんて、信じられない。その数年後、ランディは“Too Country”の歌声で大旋風を巻き起こし、ナッシュヴィルという街を再び活気づかせることに貢献した。現在のナッシュヴィルは、カントリーという枠組みに縛られることなくポップ・ミュージックの重要な拠点となっている。ブラッド・ペイズリーもザック・ブラウン・バンドも、カントリー界に籍を置いていても、音楽的には《カントリー》の枠を超越している。最近のカントリー・チャートを眺めていると、80年代のネオトラディショナル・ブームからは遠くに来てしまったなぁ……と思ったりもするけれど。こうして、新旧世代はかたくシッカリとつながっているのだ。
 世代をつなぐリレーといえば、もうひとつ。やはり若手のジェイミー・ジョンソンと歌った「A Few Ole Country Boys」。これは、'90年にランディがジョージ・ジョーンズとのデュエットで放ったヒット曲。当時はジョージ大先輩の胸を借りて歌ったヤング・ランディが、今回はは見事なジョージ・ジョーンズ・スタイルの歌唱を聴かせる。そういえばジョンソンは、ちょうど当時のランディと同じ年頃か。
 《アメリカン・アイドル》出身のキャリー・アンダーウッドは、ランディの「I Told You So」をカヴァーして大ヒットさせた。09年のアメアイで、彼女とランディがゲストとして登場して一緒に歌ったこともある。そして、このアルバムにも「I Told You So」のお礼(?)とばかりにキャリー・アンダーウッドが参加して陽気なウェスタン・スウィングの名曲「Is It Still Over?」を一緒に歌っている。キャリーちゃん、歌うまくなったなぁ。ちょっとトリーシャ・イヤーウッドを思い出させる。リンダ・ロンシュタットからつながる、ウェストコースト経由カントリーらしいサンシャインな感じ。ランディも、心なしかウキウキした感じで(笑)。



 若手との共演も、女性シンガーとのデュエットも素晴しい。が、個人的には気心知れた男どうしのデュエットが好きだなぁ。すごくリラックスしている感じが出ていて。共に80〜90年代のホンキー・トンク・リヴァイバルを盛り上げたアラン・ジャクソンと歌う、共作曲「She's Got The Rhythm (And I Got The Blues)」と「Better Class Of Losers」のメドレーも最高。やっぱ、この二人が一緒に歌うと華がある。輝きが違う。あと、イーグルスドン・ヘンリーとのバラード「More Life」もおおいに泣けるし。今やカントリー歌手のような気がしてならないクリス・クリストファーソン(笑)と、ウィリー・ネルソン翁をダブルゲストに迎えた「Road To Surrender」も出色の出来。男どうしの泣けるデュエットって、カントリーの最大の武器だと思う。

 と、ジョージ・ジョーンズを始め、ロリ・モーガン、レイ・プライス、コニー・スミス、ジョー・スタンムレイ、ジーン・ワトソン……と揃い踏みのフィナーレまでノンストップで盛り上がりまくり。こういった豪華デュエット・アルバムという企画そのものは珍しいものではないかもしれないけど、これは抜群です。アニバーサリーとか、御祝儀の枠を超えた名盤だ。

 あ、ランディ・トラヴィスと言えば……と、またひとつ思い出したことがあるのだけど。それはまた、次回に書きます。こうやって書いていくと、いつまでも終わらない。そして、いつまでもアップしない。そして、また何ヶ月も経ってしまう気がするので。

Anniversary Celebration

Anniversary Celebration

*1:ちなみに、80年代のRTといえばリツイートではなくランディ・トラヴィスですからね(笑)