Less Than JOURNAL

女には向かない職業

 ホンキートンクの逆襲2011〜ランディとスコッティ〜

アメリカン・アイドル シーズン10』で優勝したスコッティ君をめぐる話です。が。昨日から続いている話でもあります。つながってる、ということについて。

 先日ファイナルを迎えた、今年の『アメリカン・アイドル』。
 番組の名物ジャッジ、英国人のサイモン・カウェルが前シーズンで降板。もはやこれまでか…という前評判もあったが、新ジャッジにスティーヴン・タイラージェニファー・ロペスという超大物を迎えての再スタートは大成功。ジャッジがビッグ・ネームなのも勝因だろうが、音楽的な面からいえばジャッジが全員アメリカ人、しかもアメリカのショービズ界を知り尽くした人たちだったことが何より幸いしたように見える。コンテスタントに対する評価の基準、方向性もガラリと変わった。そこがよかった。結果については賛否両論ございましょうが。個人的には、今までのシーズンでもっとも楽しいシーズンとなった。

 とりわけ――ここが最大の賛否両論ポイントでもありますが――今回は、誰がどう見たって全体的にカントリー色が濃かったのも嬉しかった。決勝は、ふたりともカントリー系だったし。以前だったらあり得ない。サイモン・カウェルはアクが強くてキレ芸人みたいで面白いんだけど、いかんせんカントリー音痴。しかも、ビックリするほど。パッツィ・クラインもドリー・パートンもよく知らない(英国人だから、というよりも個人の嗜みの問題だと思うが)。アメリカ的なカテゴライズから外れることが“世界に通用するアーティスト”の資格というビバEU主義な思い込みも、まぁ、極端で面白いからいいんだけど。カントリーが足りないと、結局ロックンロールも足りなくなるのが問題なんだよッと、そこがまぁ、いつもモヤモヤするポイントだった。ただ、アメリカはアメリカで、そういう英国流“上から目線”が嫌い嫌いも好きのうち……だったりするわけで。と、英米の価値観の違いにヤキモキしつつも、英国中年にネチネチいじめられる純真な米国娘を応援したりするのが楽しかったのですがね。キャリー・アンダーウッドというカントリー・ディーヴァを輩出したわりに、その後カントリー系の才能はことごとくスルーされているのはいかがなものかなぁ……と(`Д´)。

 と、愚痴はさておき。

 シーズン10の優勝者、スコッティ・マクリアリー(Scotty McCreery)君はミルウォーキー予選に登場した瞬間から全世界に衝撃を巻き起こした。当時16歳(あれ、もう17歳だったかも?)、見た目はスポーツ刈りの典型的トッチャンボーヤ。性格は超生真面目。もちろん、シャツはジーパンにIN。まるで'50年代のアメリカのホームドラマに出てくる優等生みたいな風体で歌うのが、カントリーのスター、ジョシュ・ターナーの曲。それを、もう、バリバリにコブシの回った超絶ホンキートンク歌唱でぶちかましたからビックリ。それも、まさにランディ・トラヴィスばりの渋い低音でセクシーに決めてみせた。見た目とのギャップにジャッジ達も思わず爆笑、彼らのアンコールに応えてトラヴィス・トリットの曲まで歌ってみせて大喝采を浴びた。

 他にも、今回は予選の段階からシュガーランドやブルックス&ダンをフツーに歌う若者たちがけっこういたりして。最近のヒット・チャート事情をリアルに感じつつ、番組としてのテコ入れ方策としても、シーズン10はカントリー系を強化するつもかなとは思っていた。が、まさか、まさか、いくらなんでも、流行のブラッド・ペイスリーとかキース・アーバンみたいなカントリー・ロックではない、正統派オールド・スタイルのホンキートンカー(しかも、トッチャンボーヤ)が優勝候補として出てくることは想定外だった。

 「カントリーの復活だ! まるで君はランディ・トラヴィスのようだ」

 と、何回目かの放送でジャッジのランディ・ジャクソンが叫んだのには、思わず日本のお茶の間から「禿同!」と叫び返しましたよ。

 コドモのくせに、ランディ・トラヴィスみたいな歌。
 なんなんだそれは。おもしろすぎる!

 最初の出会いから爆笑&爆泣。そんな私がスコッティ君を応援しないわけがない。
 ただし、さすがにトップ10までは残れないかなぁとは思っていた。あまりにも凄いんだけど、あまりにもコテコテ。あまりにもカントリーすぎるから。
 が、番組が進むにつれ、もしや……という流れになってきた。音楽的な技術面では、無敵だった。どんな課題曲を与えられても、彼の歌にはまったくホコロビがないのだ。歌うのは当然、カントリー・ソングだけではない。ビートルズがあったり、モータウンがあったり、キャロル・キング作品があったり……でも、どんな歌も自分のスタイルで押し切った上で、見事にモノにしてしまう。サウンド面ではドン・ウォズがプロデューサーとして関わって、今どきの洗練されたルーツ・ロック風に仕上げたりもした。が、そんな時でも、ジョニー・キャッシュかエルヴィスかという見事な歌声を聴かせる。タフな子だなぁと、いつも感心させられた。さまざまな時代やジャンルをカメレオンのように器用に歌いわけるのではなく、いつでも自分の土俵に引き込む。そんなガンコなスタイルに、ものすごくロックンロールを感じた。

 「ブルックリン娘が、カントリー歌手に恋するなんて!」

 ある回で、感極まったジェニファー・ロペスがナミダ目で言った。それを聞いた時に、ひょっとしたら、ホントにスコッティの優勝があるかもしれないと思った。
 ある種の奇跡だ。
 これだけ歌唱も表現力も完璧ならば、本来ならばマイナス要素であるコテコテのカントリーという前提も何かのきっかけでプラスに働き出すことがある。
 「ジャンルを超える」という言葉は、ジャンルがあってこそ成立する。はなからジャンルというものを意識しない、無視することで超えられる……という誤解をされがちなのだが。ホントの意味では、そうじゃない。ひとつのジャンル=芸を極めることで初めて、ジャンルという外殻を突き破ることができる。

 スコッティの場合も、おそろしく時代遅れのカントリー・スタイルという《弱点》を、ジャンルの殻を破る《武器》へと変えた。最初は誰もが「あまりにもカントリーすぎる」と思った。カントリー歌手としては成功するかもしれない。けれど彼のようなタイプの歌手が《アメリカン・アイドル》という全米最大のショービズ・ギャンブルを制覇するという前例がなかったから、想像がつかなかった。もとからカントリーの枠にこだわらないポップ志向のキャリー・アンダーウッドとはちょっと違うのだ。

 ここで思い出すのは、やっぱりランディ・トラヴィス
 彼の場合はどうだったか?

 昨日も書いたように、彼もまたデビュー前には「カントリーすぎる(Too Country)」と言われていた。そのアルバムが300万枚を売り上げることになるなど、誰も想像ができなかったからだ。でも、彼の歌は世の中を圧倒した。そして、彼もまた自らのスタイルを妥協して変えることなく、カントリー・ミュージックという殻を破った。

 すごく重なるなぁ。単に声が似ているだけでなく、ノスタルジアをモダン・ポップとして響かせる存在感も含めて重なるところがたくさんある。
 ランディ・トラヴィスだけでなく、アラン・ジャクソンとかジョージ・ストレイトとか、そしてスコッティ君のアイドルであるジョン・マイケル・モンゴメリーやジョシュ・ターナー……。デビュー前だというのに、すでに90年代以降の正統派カントリーの系譜にしっかりとつながっている。ものすごい逸材がいたもんだ。近代カントリー好きとしては、嬉しくて泣けてくる。

 私がそこまで思うくらいだから、当然、全米のカントリー愛好家のみなさんが“第二のランディ・トラヴィス”をおおいに期待していることは想像に難くないわけで。きっと、テレビを見ながら、私と同じく「スコッティのことを、ランディはどう思っているんだろうね」などと語らっているはずで。で、なんと、米国版“TVガイド”誌は先月、トラヴィス師匠を電話で直撃(おいおい、大胆すぎだろ!)。

 あまりにもランディ、ランディ言われるので、モノマネの人について訊かれすぎて「オレ、あんな風にしゃべってるか?」と軽くムッとしている織田裕二平泉成モードだったかどうかはわからない。というか、まぁ、面白いのでちょっとムッとして欲しい気もするんですが。とにかく、ランディさんいわく……

「ボクの耳には、スコッティはむしろジョシュ・ターナーそっくりに聞こえるけどね。まぁ、何人かの人にはボクそっくりと言われたよ。でも、more Joshだよ」

 ……と。あ、やっぱりちょっと、オレと比べるのにはまだまだ青いぜ。的な?
 いや、もしかしたら「どーせどーせオレみたいなオッサンよりジョシュ・ターナーの方が好きなんだろ?」というジェラシーだったりして。むふふ。

 と言うのも、スコッティは最初のミルウォーキー予選でも、ハリウッド予選の決勝でもジョシュ・ターナーのレパートリーを歌っている。ファイナル直前におこなわれる恒例の“里帰り”ライブでは、ターナーの曲を歌っているところに本人登場のビッグ・サプライズ。その途端、いつもはクールで物怖じしないスコッティ君も「おーまいがー!おーまいがー!」と大興奮。「僕には歌えない、あなたが歌ってください!」とアタフタしながら一緒に歌うという微笑ましい場面もあった。
 それほどまでにスコッティが憧れるターナーも、大先輩の前では後輩……て、アタリマエだけど。彼は、昨日紹介したランディ・トラヴィスのデュエット・アルバムにも参加しているのだ。スコッティがジョシュを敬愛しているのと同様に、ジョシュのスタイルはランディ・トラヴィスから大きな影響を受けている。けっこう共演も多くて、今回の25周年記念盤のプロモーションのためにランディがTV出演した時、ジョシュも一緒に歌ったりしているし。そういえばスコッティが番組で歌ったジョシュの「LONG BLACK TRAIN」を、ランディが一緒に歌っている映像もある。



 いいですね。もう、この映像なんか見ていると、先輩を前に初々しく嬉しそうなジョシュの表情がスコッティみたいだ。こうして、カントリー・ミュージックのタスキはつながってゆくのですな。

 そして、昨日のエントリー記事ではランディ・トラヴィスキャリー・アンダーウッドによる「I Told You So」のデュエットを紹介したけれど。今シーズンのアメアイではスコッティと、準優勝のローレンとでこの曲を歌っている。




 やっぱり、ワタシのようなオールドおばちゃんファンの目には“more Josh”というより“more Randy”に見えてしまいますが。

 スコッティの才能については、もちろんランディも太鼓判。けっこう番組は見ているようで、ステージ度胸もベタ褒め。
 「まるでステージでのライブを経験してきたベテラン歌手を見ているようだった。まだ17だろ? あの年頃のボクは、ステージで立って歌って帰ってくることしかできなかった。客席に話しかけるなんて、とんでもない。それなのに彼は、客を指さしまでしている! 才能のある子だよ」と語っている。

 ちなみにランディはローレンのことも、かつてのリーバ・マッキンタイアを引き合いに出して、ステージ・パフォーマンスでの魅力を褒めていた。でも、シーズン10でいちばんのお気に入りは、高音炸裂のヘビメタ少年・ジェームズ君(わたしはイナバ君と呼んでおりましたが)だって(^_-)-☆

 スコッティ君は1993年生まれ。若い。この年齢であの歌声とは、いくら見た目がオッサンでも若すぎる。
 その、彼が生まれた93年にリリースされたランディ・トラヴィスのアルバムといえば『Wind In Wire』。カントリー・チャートで最高17位、一般的にはそれなりのヒット作といえるのだろうが、当時のランディにとってはそうも思えなかったはず。実はこの作品、初めてチャートのトップ3を逃したアルバムだった。この頃から彼自身は迷いの時期に入ってしまい、世の中ではガース・ブルックスを始めとする若手たちによる世代交代が始まる。つまり、彼はランディ・トラヴィスの全盛期をリアルタイムで経験していない。両親の世代のスーパースター、ということだ。我々にとってのジョニー・キャッシュジョージ・ジョーンズくらいの、偉大なオールディーズという感覚だろうか。比較するには世代が違いすぎる。
 アメリカン・アイドルで《自分が生まれた年の曲》が課題となった時、スコッティはジョン・マイケル・モンゴメリーの曲を歌った。そういえばワタシも、JMMが登場した時には「ついにRT世代の次が始まったな」と思ったことをよく覚えているので、スコッティの選曲は感無量だった。オレも遠くまで来ちったもんだぜ、と思いますた。まぁ、そりゃ、ついこの間まで10代だったリアン・ライムスちゃんが、前夫とのセックステープがあるのないのとゴシップ誌で騒がれている今日この頃ですから。いやぁ、月日は確実にズンズンと流れてゆきますがなー(T_T)。

 最終予選で《優勝した時に、デビュー曲となる新曲》として初披露されたオリジナル曲『I Love You This Big』は、先日、ビルボードのカントリーチャートで初登場32位を記録した。実力本位かつ保守的なカントリーチャートとしては快挙で、90年にビルボードが現在のチャート集計方式を採用して以来最高のポイントを獲得したデビュー曲だという*1
 そして。いよいよ、プロとしてのキャリアもスタートする。マーキュリー・ナッシュヴィルがファースト・アルバムの契約を結んだというニュースも入ってきている。ふむふむ、マーキュリー・ナッシュヴィルとは悪くない選択だと思う。かつてはシャナイア・トゥエインやビリー・レイ・サイラスのような異端児をも大スターにした、ミュージック・ロウの中でも“攻め”のうまいレーベルだ。彼のためにどんなプロダクションを持ってくるのか。今から楽しみ。

 結論。スコッティ・マクリアリーは、オールド・ファンが期待するような《第2のランディ・トラヴィス》にはならないだろう。でも、そんな目先の師弟関係だか兄弟分だか、細かいところはどうでもいいのだ。大きな視点で見てみれば、つながっているのだから。

 スコッティ・マクリアリーとランディ・トラヴィス
 実は、ふたりともノース・カロライナの出身という点も共通しているのだ。
 何にいちばん驚いたかって、この偶然。よりによって同じ州だなんて。
 そのことに気づいた時、ものすごくいい予感がした。
 ちょっと運命的なものを感じない?



Vol. 1-10th Anniversary-the Hits

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*1:たしかiTunesとかではもうちょっと高い順位だった気がします。要確認→★追記:ポップチャートでは初登場11位。iTunesで1位、ビルボード・デジタルチャートで3位を記録しています。