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女には向かない職業

【ミラノ・スカラ座来日記念特別演奏会】

ダニエル・ハーディング指揮ミラノ・スカラ座管弦楽団@東京文化会館

 昨日、ダニエル・ハーディング指揮『ファルスタッフ』で幕をあけたスカラ座ジャパン・ツアー。本日は公演2日目、そして俺のスカラ座開幕である。
ヴェルディ&ワーグナー生誕200周年ということで、当初はドゥダメルヴェルディ・ガラで、ハーディングがオール・ワーグナー演奏会という企画もあった気がするが、前半は『運命の力』『椿姫』『ウィリアム・テル』『道化師』『マノン・レスコー』と名曲集いろいろ。後半は『トリスタンとイゾルテ』『パルジファル』のワーグナー×2。

 スカラ座とはいえ今日は歌手は出ないコンサートなわけだが、オレに言わせれば今日はインストのコンサートである。そして、そういう意味では「スカラ座はまさにクラシック界のエリアコード615だな」という、オレにとっては最高最大の賛辞を送りたいコンサートを経験した。究極の伴奏上手のオーケストラは、つまり最強の名手軍団でもある。その、オーケストラとしての底力をがつんと見せつけられるところからオレのスカラ座は始まった。なんという幸運。

 どんな曲を演っても、よく歌うこと歌うこと。そして、のびのびと楽しげ。さすがイタリア。ふくよかで、渋くて、甘くて、妖艶。そして、粋で伊達。どこか、いい意味での「バンドマン」的な陽気さもあって、それもまた色っぽくて魅力的。関係ないけど、燕尾服なのにズボン腰穿きの楽団員とかいるのもイタリアだなーと思ってテンションあがりました。
 前半の名曲集も素晴らしかったんだけど、ワーグナーへの美しいアプローチにはノックアウトされました。ワーグナーの、ああいう美しさというのは……初めてナマで見るので比較はできないけれど、あれがまさにスカラの色なのだろうと思った。「暗さ」にも「彩り」がある。スカラの演奏は音源でも映像でもたくさん聴いてきたけれど、やっぱりナマで見て初めて感じることもある。いちど贅沢を知ってしまうと好きになりすぎてしまうから(笑)という経済的な理由で、なるべく来日オペラは見ないようにと努力しているわけですが(爆泣)。今回ばかりは、オレの世界最強ツートップ、ハーディング&ドゥダメル+スカラという顔合わせを見逃すわけにはいかなかったのである。やっぱ、今、この若い2人が率いるスカラは観ておかなければ!と。すごいことだよ、32歳と38歳の若き天才(しかも、どちらもラトルとアバドの愛弟子)がスカラの看板を背負って来日なんて。

 ハーディングが観たくて新日本フィルも何度か足を運んだし、それも楽しいものだったし。とてもいい関係だということはわかるけれど。やっぱり、私にとっては、そこでのハーディングは「教師」の顔に見える。今日のハーディングは、まさしく、これまで世界の檜舞台あちこちで見てきたハーディングの顔をしていた。気鋭の、次の時代を担う38歳。威厳もあるし、頼もしく、楽団をびしっと統率しつつも、でも、時には指揮者が楽団に身をゆだねるような圧倒的“伝統”を実感させたり。時には百戦錬磨の楽団に若造が「かわいがり」されてる感wもあったり。互角だからこそ、互いを高め合える。今日はすごく前のほうの贅沢な席だったので、舞台上の様子もよく見えた。で、終始、ハーディングはスカラを指揮することの楽しさを享受しているなぁと感じた。『ウィリアムテル序曲』のラストで激しく振り上げた指揮棒を飛ばした瞬間は、ピックを投げたロック・スターのようでもあり、涙の復活弾でバットを投げた原辰徳のようでもありw、もう、カッコよくて泣きました。次はいよいよ本題の『ファルスタッフ』。シェイクスピアヴェルディを、ハーディング+スカラで。いや、もう、なんというパーフェクトなプログラム。初日も素晴らしかったそうなので、楽しみ楽しみ。

 ここのところ、いろいろとストレスと忙しさでつぶれそーになっていたけれど、音楽はすごいね。
 音楽は、どんな時も、何があっても、絶対に私の味方でいてくれる。