Less Than JOURNAL

女には向かない職業

ユジャ×ドゥダ

ついに出たぜ。
ユジャ・ワン×ドゥダメル×シモン・ボリバル響。


先月末にYouTubeで公開された、この新作CDのトレーラーに収められた短い演奏シーンを見た瞬間に「やばいっ!」と声に出して叫んでしまった。それくらい、もう、いきなり期待度200パーセントくらいでした。

去年、LAでやったユジャ×ドゥダ×LAフィルも大絶賛で(ただし、露出度高めのLAでもユジャっちのステージ衣装は賛否あったようですがw)、個人的にはてっきりそれがマーラー9番に続くドゥダ×LAPのアルバム第二弾になると思い込んでいた。マーラーも素晴らしかったのだが、今のLAPの真骨頂という意味ではちょっと物足りなかったというのもあって、ユジャとのアルバムを出して欲しかったなぁというのもあった……ので、正直、ベルリンの次はまたシモン・ボリバル響だと聞いて軽く残念だったのは確かだ。


でも、残念がってすみませんでした!>ドゥダっち様。


トレーラーで紹介されているカラカスでの演奏シーン、そしてユジャ×ドゥダのインタビューを見た時点ですでに猛省。そして、実際にアルバムを聴いてからは、もう、今、この組み合わせで録音された音楽が世に出たことをひたすら感謝します。もう、すごすぎる。濃厚すぎる。ダイナミックすぎる。美しすぎる。なんなんですか、いったいこの演奏は!
まだインクの渇いていない譜面を弾いているようなフレッシュさ。
ドゥダメルがいつも好んで使う言葉を借りるならば、彼もユジャも作曲家が曲を書いた瞬間の意識に直接「コネクト」しているような躍動感。
ああ、素晴らしすぎてけしからん。




このインタビューを含む予告編の他に、ラフマニ/プロコそれぞれの演奏シーンのダイジェストを収めた映像と3パターンが公式に発表されているが。今回、インタビューでのふたりの様子がものすごく印象的だったのだ。


前々から、というか、世に出てからずっと、ドゥダメルにはちょっと独特の“つれない”感じがある。
と言うと、語弊があるかもしんないけど。
もちろん彼はいつでも誠実で、気さくで、フレンドリーで、情熱的で、誰に対しても他人行儀ということを知らない天性の人なつっこい雰囲気がある。ただ、これは、希有な天才である人たちに対して感じる共通の空気感みたいなものなのだが……あまりにも音楽というものを知りすぎているがゆえに、音楽に対して人並みはずれて謙虚で、だから音楽を語る時に“我”を出す瞬間がなさすぎる。と思う。
自分の奏でる音楽については全身全霊をこめて熱く語るけれど、「オレをわかってくれ」というエネルギーはほとんど使っていない感じ。どこか、自分は音楽を宿す肉体にすぎない……ということを無意識のうちに自覚しているような。そんな感じ。
でも、その感覚というのはたぶん、ほとんどの人には絶対に実感としては理解できない感覚。だから、ある意味“つれない”というか、話してもわかってもらえないことをわかっているがゆえの距離感があるのだと思っている。ただし、それは悪い意味でなくて。ある種のノブレス・オブリージュの心なのだと理解して、好感を持っている点ではあるのだが。


で。ユジャ・ワンもまた、そういう面ではドゥダメルとすごくよく似た印象がある。
ステージ上でのエキセントリックな様相からは想像もつかないほど普段の語り口はあたたかく穏やかで、誠心誠意、チャーミングだ。でも、それだけに彼女が自分と音楽との関わりについて話す時の超日常的な感覚にいつも驚かされる。にこにこしながら、演奏をしている時に作曲家の声が聞こえてくると語る彼女を見ると、本当に、なんというか、音楽の神様に選ばれた人なのだと実感する。

そんなユジャ×ドゥダが並んで新作を語る、映像インタビュー。

こうやってふたり一緒に話しているところは初めて見たけど。並んでいるとよけいに、どっちも本当の天才ならではのとびきり明るいオーラに包まれているのがよくわかるし。ふたり揃って放つ“別モノ感”のハンパなさにも圧倒される。と同時に、ふつうの若者みたいに無邪気にリラックスして喋っている雰囲気に驚き、そしてちょっとほのぼのする。孤高の天才が最も自然体でいられるのは、互角の相手といる時だけなのだなぁ……と、しみじみ思う。

インタビューの中でドゥダメルは、どんなにかユジャとの共演を待ち望んでいたかを嬉々として語っている。このアルバムは自分と、ユジャ、そしてシモン・ボリバル響という“同世代”が作ったんだということを、力強く語っている。

ユジャも同様で、今回、ふたりとも《同世代》ということへの意識が想像以上に強いことが、このトレーラーを含むあちこちのインタビュー記事からわかる。

さらに言えば、この演奏が録音されたのはベネズエラ・カラカスにあるエル・システマのホール。このホールも、いわば“同世代”なのだ。
ベルリンやウイーンのように歴史的なホールでもなく、あるいはLAのディズニーホールでもない。ドゥダメルシモン・ボリバル響の活躍によって実現した夢の城。映像にもあるが、この建物は本当にすごい。エル・システマの練習室や楽器工房や何から何まで揃った超近代的な本拠地。自分たちが作ったこの場所での録音というのも、ドゥダメルにとっては本当に誇らしく嬉しい出来事だった様子。

しかし、こんなにも“自分”を前に出して話すドゥダメルはまじで新鮮。これまでもしっかりと丁寧に佳作を作り続けてきたけれど、彼にとって今回のアルバムは他の作品とは違う意味があるのだ……ということが、音だけでなく発言からも伝わってくる。

単なる同世代なら、いくらでもいる。
でも、ユジャ×ドゥダ×シモン・ボリバル響が並ぶことに意味がある。これは、滅多にありえない惑星直列みたいなもの。あるいは、ゴールデン・トライアングル。
こうして同世代で互角に全力を出し合える場所というのは彼らにとっても本当に特別な、運命の贈り物みたいなものなのかも。

恥ずかしながら、昨年、サンフランシスコ・シンフォニーと共に来日した時に初めてナマでユジャ・ワンを聴いて、たちまち大ファンになった。あの気難しいマイケル・ティルソン・トーマスですら、もう、ユジャのことが可愛くて可愛くてしかたないって笑顔で見ていたのも納得。神がかって精緻で、なおかつ野性的にしなやかで自由。何しでかすかわからないようなハラハラ感もあるのに、絶大な信頼感もある。知的で野生児……て、そこもドゥダっち同様だな。
こないだも、ティルソン・トーマスが芸術監督を務めるフロリダ・マイアミビーチのニュー・ワールド・シンフォニーでとてつもない熱演をやってのけたらしくて、終演後、パーカッション・チームに横抱きされるユジャ女王様の写真を、マエストロ自らがツイートしていた(笑)。

そんなこんなで、今、もっとも旬なライジング・スターであるユジャ・ワン。しかも、今回収録されたのはラフマニノフ♯3とプロコフィエフ♯2というテッパンもテッパン、いわば両A面シングルみたいな最強選曲。もう、どんなビッグ・ネームとの共演だって考えられる。が、この時期に、この曲で、ドゥダメル×シモン・ボリバル響とのゴールデン・トライアングルをびしっとカタチに残してみせたというのがカッコよすぎる。あまりにジャストのタイミングで、これ以上は考えられない顔ぶれと演目。本当にやばい。これは音楽のジャンルとか関係なく、今、音楽シーンにおけるもっともホットなパフォーマンスだと思う。

前回のエントリーでシモン・ボリバル響を、あまりにもよくトレーニングされた……と書いたけど。ソリストが加わった時に見せる、彼らのコミュニケーション力はすごい。まるでオーケストラがひとつの人格のように、ソリストと親しげな会話を始める。「音楽で会話を交わしているような」という慣用表現があるが、たとえ話ではなく、この演奏はホントに音楽どうしが話をしているのがわかる。びっくりする。「演奏者たちの表情が見えるような」という表現があるけれど、この演奏は“演奏者”ではなく“演奏”そのものの豊かな表情が見える。それくらいダイレクトに、音楽そのものが聞き手にまっすぐ届いてくる。

もともとふたりは仲のいい友達だというのも、よくわかる。絶妙。呼吸ぴったし。しつこいようだが、スカラ部屋ぶつかり稽古を見た後だけに……というのもあるのだろうけど( ̄∇ ̄)。


↑こんなー。ユジャっち、普段着です。


それにしても、ほんとにほんとにほんとにドゥダっちはユジャが大好きなんだなー。ということが、あらためてよくわかりました。なんかもう、きゃっきゃっしてるし。
ユジャっちのほうを見るたびに、すっごくうれしそうだし。子供オーケストラ以外に、こんなに他人に心を許しているドゥダメルを初めて見ました(笑)。
まぁ、どっちも存在としては超能力者みたいなものだから、こう、テレパシーでふつうにお話しできる仲間に会えるとうれしい……みたいなものなのかなぁ。
とにかくこれだけドゥダっちが「大好きー\(^o^)/」状態なのは、ユジャっちがものすごい演奏家だということの証である。

あと、今回のCDジャケ見てびっくりしたのは、インナーで使われている写真が全部「ユジャをチラ見してるドゥダっち」パターン。て、なんなんだこれ。
それも、こう、エロチックな意味でなく、ユジャっちに「なついてる」感が満載(笑)。




「わーい!ユジャっちだー!うれしいなー!ユジャっちー( ・∀・)」





「よぉ、大熊猫。またでかくなったんじゃね?」






あ…………そうだよ、忘れてた。
パンダだからか!








「わーい!わーい!ユジャっちだいすきー( ・∀・)」


あ、そういえばアルバムの内容についてほとんど書いてませんでした。また今度書きます−。
でも、本当にものすごいアルバムなのでびっくりしますよー。

なお、以下の尼リンクに行くと、ブックレットにも使用されている「ユジャっちになついているドゥダっち」公式写真も2点ほど見ることができます。きゃっきゃっ。

※日本盤は12月4日発売予定らしいです。

Piano Concerto No.3/Prokofiev: Piano Concerto No.2

Piano Concerto No.3/Prokofiev: Piano Concerto No.2