Less Than JOURNAL

女には向かない職業

ベースボール・シンフォニー

ボストン・レッドソックス、ワールド・チャンピオンおめでとう!
最後、上原が登場した時のカッコよさ!勝負が決まった瞬間、感極まった表情の美しかったこと!
クールなコメントで全米の心をワシづかみにした愛息カズ君の、グラウンドで彼を抱き上げた上原の頭をなでなでする図の愛らしさにも涙が出そうでした。

思い起こせば1999年のルーキー・イヤー、20勝のかかった神宮のマウンドでペタジーニ敬遠のサインに涙を流して土を蹴り上げた姿をナマで観戦しておりました。その時の光景を、今も昨日のことのように記憶しているオールド野球ファンとしても感無量。
上原もすごかったけど、満塁で出てきた田澤もすごかった。
日本人として、本当にうれしく誇らしく思います。

ボストン・マラソンでの爆弾テロ事件以降、ボストンの街はBOSTON STRONGを合い言葉に心を寄せ合ってきた。そんな中での優勝へ向けての躍進は、どれだけ人々の心を勇気づけたことだろう。
しかも、レッドソックスが本拠地でチャンピオンになるのは大正7年以来だとか!
ニール・ダイアモンドも、ジェイムズ・テイラーも大喜びしていることでしょう。




さて。そんな歴史的勝利に沸き返るボストンですが……。



世紀のワールド・シリーズまっただ中の10月24、25、26日。
若き気鋭の英国人指揮者が、名門ボストン交響楽団でのデビューを果たした。





ボストン・グローブ紙の記事からお借りしました。



本ブログではハルディングおにいさんの愛称でおなじみ(じゃねえよ)の、
ダニエル・ハーディング。(38さい)


首席ゲスト指揮者を務めるロンドン・シンフォニーを始め、ウイーン、ベルリン、ミラノ・スカラ……と、すでに欧州では数々の名門オーケストラとの共演をかさね、絶大な信頼と人気を得ている俊英。そのハーディングがついに、米国ボストン響との共演を果たしたのだ。


いやぁ、しかし、それがまさか、ねぇ。

ワールド・シリーズと重なるとは……(T.T)。


しかもハルディングおにいさんは、英国人ですから当然サッカー好き。それも、ウィキペディアにわざわざ記されるほど、「バカ」……じゃなくて「超」がつくほどの、大のマンU党として知られている。

それが、ただでさえ全米でもダントツにやきうバカ含有率の高いボストンで、よりによって大正7年以来の本拠地優勝を賭けたワールド・シリーズのまっただ中にデビューとは、その心中察するにあまりある。



「あまりありますとも」



が、しかし、3日間にわたるコンサートは大成功。

LSOで初演された、BSO共同委嘱作品であるマーク=アンソニー・タネジの新作「Speranza」米国初演と、マーラー大地の歌」というハードルの高いプログラムを、持ち前のダイナミックでブリリアントな表現力をもって見事に描きあげた。
何かにつけて辛口なボストンのメディアでも、コンサートは概ね大好評。
演奏は地元のラジオ局ストリーミング放送で耳にしたが、さすがハーディング。もともと、ものすごく相性は良いだろうという期待はあったので、それだけに逆に品良くしっくりまとまりすぎる危険もあるのかな……なんて心配もしていたが。なんのなんの。美しいエネルギーがむんむん。溌剌としてパワフルで、英国と米国それぞれらしい繊細さと豪快さが巧みなバランスで調和していたように感じた。


さて。ところで。
このコンサートが始まる前日である23日、フェンウェイ・パークに観戦に訪れた小澤征爾氏の姿が日本のメディアを賑わした。試合前に上原と田澤を激励し、観客席ではファンから田澤のお父さんと間違えられたと語って報道陣を笑わせた。

ボストンで最も有名な日本人であり、もちろん長年のレッド・ソックス・ファンである小澤氏の激励は両選手にとっても心強かっただろうな……と思うと同時に、ふと、そういえば今はハーディングもボストンにいるのだなと思い出した。
言うまでもなく、ボストン響は小澤征爾が長年にわたり音楽監督を務めたホームグラウンド。そして、ハーディングにとって小澤氏は最も敬愛する師匠のひとりだ。昨年のサイトウキネン・フェスティバルでは、療養中で登壇のかなわなかった小澤氏のたっての希望でメインアクトのひとつ『アルプス交響曲』を指揮した。そんな可愛い後輩がボストン響でデビューするのだから、もちろん小澤もハーディングを訪ねることだろう。そして上原や田澤にしたのと同じように、指揮台というマウンドへ上がる彼に激励の言葉をかけたに違いないし。百戦錬磨のおにいさんといえども、これほど心強いものはなかったはず。と想像していた。


とにかく、こんな時期にこれだけ緊張感あふれる演奏をよくぞやりました
と思うのです。
だって、わざわざ、小澤氏までもが愛するレッドソックスの優勝を見届けるためにボストンに駆けつけるほどの歴史的事件の真っ最中。そこにマンUのイギリス人が乗り込んで、驚くべき集中力と冷静さをもって、いかにもイギリス人の現代作曲家とマーラーの作品を振ったということをワタクシはおおいに評価したい。

しつこいようですが、たぶんオーケストラの方々もずぇったい気もそぞろだったと思いますよ。





※以下は個人の妄想です。実際の人物や出来事とはいっさい関係ありません。






「はじめまして。さっそくリハーサルをはじめましょう。まずマーク=アンソニーの……」←初オケ、米国初演、そして街の異様な雰囲気によって少々ナーバスになっているおにいさん。



「マーク=アンソニーって何番?」




交響曲の何番か、という意味ですか?」




「ちゃうちゃう、打順だよ」





「え?だから、あなたがたボストン響が委嘱したマーク=アンソニー・タネジのSperanza……」




「スペラン……て、多村かよ(*^O^*)」
「タネジ?種田の間違いじゃなくて?」
「打者じゃないのかー。でも、マーク=アンソニーなんて投手いた?」





「あれ、そういえばブラス・セクションの方々がいないようですが……」







「えーと。屋上でやきうの応援を……」











「………………はい? 今、なんと言いました?」










「ですから、や、や、やきうの応援…………」










「いいですか、みなさん。あなたがたは伝統あるボストン交響楽団ではないんですか。たいせつな演奏会のリハーサルを放り出して、やきうの応援?……このことをマエストロ・オザワが聞いたら、いったいどれだけボストンに失望することでしょう」








「えーと、だーかーら、エストロ・オザワがやきうの応援するからって……」













「あ、ダニエル〜ヽ(^。^)丿。わりーね、ちょっとブラス貸してね(^з^)-☆」











「………………」









で。本日の本題。
この映像↓ たぶん、そういうことだと思います。



World Series Fever: BSO VS. SLSO!



いやー、最高。もう、最高すぎて10回くらい見てしまった。

ボストン響とセントルイス響のガチンコ応援対決。

たまたまワールド・シリーズの対戦が、それぞれ名門オーケストラを擁する街だったという。そんな偶然もまた、今年のワールド・シリーズの奇跡。このふたつのオーケストラだからこそ実現した企画。しかし、こんなことをやっちゃう(できちゃう)アメリカのオーケストラっていいなぁ。すごい。


もちろん、何よりすごいのは《世界のOZAWAの出オチ》ですけどね。


基本的に、長嶋茂雄と同じようなオーラが……(笑)。
天才のなかの天才。だから、太陽のような人なんですね。


小澤氏は、本ブログでおなじみ(じゃねえよ)ニューヨーク・フィルソフトボール・チーム《フィルハーモニック・ペンギンズ》にも、レニー・バーンスタイン監督時代に参加していたというし。とにかく、あの野球帽の似合い方がすべてを物語っているように本当に野球が大好き。
OZAWAがボストンに帰ってきて、かつての手兵を率いてレッドソックスを鼓舞した。
ものすごいことですよ。やきうと音楽を愛する者として号泣。

しかも、まさにハルディングおにいさんがボストン・デビューしたシンフォニー・ホール屋上での演奏。
シンフォニー・ホールで愛弟子がデビューを迎えようとしている時に、屋上で「TAKE ME OUT TO THE BALL GAME」を渾身の力で指揮する世界のOZAWA。
まぁ、最強日本人助っ人OZAWAが登板した時点でソックスの優勝は約束されていたのかもしれない。とはいえ、よく見るとカージナルスのほうもバットで指揮してるのがすごいが(逆ゲルギエフwww)。


ちなみに今日の決勝戦も、小澤氏は観戦に訪れたそうだ。ニュース映像の中で、インタビューに答える小澤氏が「オレがいた頃には優勝なんてしてないからさー」とか「僕みたいに古いボストニアンはね……」とさらりと話していたのが、なんだかぐっと来てしまった。なぜなら、数日前、ちょうど彼がボストンに暮らし始めた頃の映像を見たばかりだったから。


これは野球が好きでアメリカのオーケストラが好きな人間の身勝手な妄想に過ぎないのだが、
やっぱり《野球が好きな思考回路の音楽》ってあると思うんだわ。

たとえば先発からセットアッパー、そしてクローザーが登場する継投のワクワク感とか。
交響曲をひとつの試合にたとえるならば、そういう野球脳で構築する《絵》って絶対あると思う。
プレイヤーひとりひとりがどうこうじゃなくて、なんとなく土地柄とか、街の人々の作り出す空気感とか、そういう中で暮らすうちに育まれるものって、独特の色を持ったオーケストラなら何か関係があると思う。というか、ないはずないと思う。

逆に言えば、もちろんサッカーが好きな思考回路というのもあるわけで。
たぶん、ヨーロッパのオーケストラはアメリカよりもサッカー的な構築力がある。

ヨーロッパとアメリカのオーケストラの違い、あるいは観客の好みの違いって、実はホントにそういうものから語ることもできるかもしれない……と、最近ちょっと考えている。

だから私は、こんなにもアメリカのオーケストラが好きなのかもしれません。