夜のグス太は、ちょっとちがう。
《どこまで続くかわかりませんが、旅の覚え書きシリーズ【4】》
〜グス太の北米縦断だいぼうけん/後編〜
「にいさん、アメリカの夢ってどこにありますのん?」
GD/LAP2デイズ、初日はマチネでしたが2日目はソワレ。
なので、昼間は近所をうろうろ。この日は、ちょうどセント・パトリック・デイ。こんな素敵な日にマンハッタンにいられるなんて、ラッキー。
で。世界最大規模といわれる5番街のパレードを見学したり。
ロックフェラーセンターのスケート女子見学したり。
いや、もう、楽しいったらもう。
おのぼり上等!観光名所最高!
でも。。。。
夜のリンカーン・センターはもっと最高(o゜▽゜)o
2014年3月17日 at 8:00pm
Lincoln Center presents 2013/14 GREAT PERFORMERS
Symphonic Masters
- -
Los Angels Philharmonic
Gustavo Dudamel,Conductor
Yuja Wang,Piano
DANIEL BJARNASON 'Blow bright'(2013) New York premiere
RACHMANINOFF Piano Concerto No.3 in D minor(1909)
- -
BRAHMS Symphony No.2 in D major
オープニングを飾ったダニエル・ビャルナソンはクラシックよりも、たぶんポストロック/エレクトロニカ方面での活躍のほうが知られている。もっとも有名なのは、シガー・ロスとのコラボレーション。あの壮麗なオーケストレーションの数々を手がけていた人だ。11年にはベン・フロストとのコラボで、映画『惑星ソラリス』をリ・イマジンしたアルバムをアイスランドのBEDROOM COMMUNITYレーベルからリリースして話題になったし。ボーダーレスな活躍を続ける、アイスランド屈指の音楽家。そうだ、原田知世さんのアイスランド録音にもプレイヤーとして参加しているらしい。
今回の'Blow bright'はLAフィル委嘱の新作で、昨年末にドゥダメル/LAフィルで世界初演。タイトルはフィリップ・ラーキンの詩'Night Music'から取ったものだが、曲は詩の内容と関係なし。“海”がひとつのテーマになっていて、アイスランドのビャルナソンさんにとっては“海は海でも太平洋と大西洋では全然違う”というのがあって。で、アイスランドに暮らす作曲家が描いた“海”を、LAのオーケストラとベネズエラの指揮者が演奏するというのは、なかなか興味深いでしょ。ということだと思います。
なんか、そういうとってもモダンな難しいテーマなんですが。オレに現代音楽語らせるのはハードル高杉。これ以上書くと墓穴を掘るので勘弁してください(啜泣)。
とは言いつつ、曲はたいそう面白かった。10分くらいの中にいろいろな物語が詰まった、とてもスリリングな作品。ビャルナソンがふだんスタジオでエレクトリカルなエフェクトを使って得ているインスピレーションを、アコースティックで再現したらどうなるか。という試み。リバーブの響きをオーケストレーションに置き換えて再現するとか、ちょっとオーロラみたいイメージがあったし(プラシーボかもしんないけど)。LAフィルのパキッとした音色と、ドゥダメルの迷いない指揮や本来のエネルギッシュな爆発キャラ(笑)が相まって、若い作曲家が内包するロック的エネルギーまでも見事に体現していたように思った。
そんなに数多く聴いてるわけじゃないけど、ドゥダメルは現代モノに対するアプローチも明快で美しい。ものすごくわかりやすくて好きだ。
最後にビャルナソンさんもステージに登場したけど、すらっとカッコよかった(て、感想、それだけかよ)。
2曲目は、ユジャ・ワンを迎えてのラフマニノフ ピアノ協奏曲3番。これは、すごく楽しみにしていたのだ。去年、ユジャ/グス太/シモンボリバル響ヴァージョンが出たばかりという旬の演目。毎回とても好評なLAフィルとの共演、そして同世代の天才ドゥダメル&ユジャが共演する機会を今、ナマで見られるなんて。
ドゥダメルも、大好きなユジャとのツアーを楽しみにしていたに違いない。
「わーい!ユジャっちーヽ(^。^)丿 今日もユジャっちと合奏うれしいなー」
「だ……壇蜜さん?」
最近のユジャっちが、とてもいい感じだと思いますの。
一昨年サンフランシスコ・シンフォニーとの来日で、初めてナマのユジャを聴いた。その時の彼女はまだ、おてんば娘の面影があったというか。何をしでかすかわからない的なドライヴ・クレイジーっぷりが魅力的で、マイケル・ティルソン・トーマス巨匠もそんな彼女を可愛くって仕方ないという表情で眺めていた。が、ここ2年、私の中では彼女の印象がどんどん変わってきている。超人的に正確無比なウルテクの魅力は変わらないけれど、等身大の人間味がぐっと前に出てきたような。演奏の中でふっと見せる、エモーショナルな表情がすごくいいなと思う。ますます近寄りがたい感じなのに、時々、じゃりン子チエが突然ぐっと色っぽいまなざしになるような奇妙な魔性がね。漂うんですよ。ちょっとフシギな感じ。そこがカッコいい。いろんな意味で、独自の道がますます深まってきたのではないかと。
で。ドゥダメル/LAフィルとのラフマニノフ。
凄まじかった。現在はニューヨークがホームタウンということもあるのか、ユジャは物凄い気迫。攻めっぱなし。ひと音、ひと音が浮き上がって見えるようなヴィルトゥオーゾの気迫と、3年煮込んだ味噌煮込みうどんのごときこってり感。ただの爆弾き系とは違う。野蛮な振る舞いの中から、このうえないエレガンスが匂い立っているような……。ちょっとビビッてしまう系の、カッコいい美しさ。演奏が終わった次の瞬間、客席がいっせいにハジけるように立ち上がったスタンディング・オベーションは壮観だった。
シモン・ボリバル響との共演盤では、指揮者、オーケストラ、ピアニストが対等なパワーでぶつかりあって火花を散らす“同世代トライアングル”としての魅力を見せてくれたけど。今回の主役は完全に、ユジャ・ワンそのものの魅力。LAフィルは、どちらかと言えば彼女の熱演をがっつり“支える”カッコよさを見せつけた。オーケストラとしての“我”をごりごり主張するのではなく、ピアノを生かす“包容力”という個性で魅了した。時に彼女の激走に合わせるような場面もありつつ、ちょっとセッション風の面白さもあったり。颯爽とレッドカーペットを歩く若き美女の背後で、ダンディなオトナの男が見守っているような感じ。しびれるー。
ええ。ドゥダっちも、こういう時はさすがにオトナっぽくて素敵です。
ピアニストのエモーショナルな瞬間を確実に捉え、丁寧にバランスを計りながらもダイナミックに演奏を運ぶ。風雲児のイメージとは裏腹。指揮台に立つ彼はよく、“あれ?”と意外に感じるほど穏やかなオーラを漂わせている。去年見たスカラ座来日公演の時は、きっとアウェーのせいだと思っていた。でも、LAフィルと一緒の時も同じ。
休憩はさんで、後半は、ブラームス2。
コリリアーノに始まって、いろいろと新鮮な驚きのあった2デイズ。でも、いちばんびっくりしたのは、最後のブラ2だったかも。びっくりというか、想定外というか。
これ、なんていうウィーン・フィルですか?
みたいなブラームスでしたよ。
まじで。
優美で、典雅。
ドゥダメルは、LAフィルをこんな風にも鳴らすのか!と。前半とはがらっと世界の変わった美しさにうっとり。そして、意外性も含めてのインパクトに大興奮(o゜▽゜)o。
いわゆる“フラ拍、フラブラ”というのは、日本ではとてもいけないこととされていますが。TPOだと思うのです。このブラームスで巻き起こった、ものすごい絶妙タイミングでの“フラ拍”がめちゃめちゃカッコよかった。私も心の中で、同じタイミングでうぉーっ!と叫んでいたもの。指揮棒が下ろされるのを待ちきれずに、嵐のような拍手と歓声。そしてもちろんスタンディング・オベーション。ドゥダメルが《ロックスターのような》と評されてきたのが、こういう風景を見るとよくわかる。
典雅なブラームスが連れてくる、とことんロックな高揚感。
もぉ、ドゥダっち、漢だわ!(o゜▽゜)o
以前から薄々感じていたことではあるのだが、あらためて思った。ドゥダメルのアプローチというのは楽譜に対する“解釈”というよりも、魂ごと作曲家に近づいてゆくような……つまり、読んで字の如く“接近”という意味でのアプローチなんだな。そうに違いない。
マーラーにもブラームスにもジョン・アダムズにも体当たりどすーん。
みたいな。※画像はイメージです。
もっともわかりやすい“ドゥダメル”のイメージを体現するかのようなチャイ5と、それとは対極ともいえる意外性のブラームス。その“幅”を見せることも、今回の北米ツアーにおけるひとつのテーマだったのかもしれない。新境地開拓という感じではないけれど、ドゥダメルにはこんな面もあるのだという“幅”をあらためてきっちりとアピールする意図があったようにも感じる2日間のプログラムだった。
しかし、それにしてもLAフィルはうまい。変幻自在に鳴らしてみせるドゥダメルはもちろんすごい指揮者なんだけど、彼のイメージや要求に対してきっちりと応えていくオーケストラの腕前あってのドゥダメルなわけで。そういう意味では、やっぱり今、いちばん彼のアプローチを体現するオーケストラっていうのはLAなんだと思う。たぶん、けっこう無茶な要求もしている感ありありなんだけど。LAフィルは、そこも含めてドゥダメルのスタイルだということを深く理解しているように見えた。そうじゃなかったら、ロックなビャルナソン、ユジャとのラフマニ、ウィーンみたいなLAフィル……なんていうカラフルな3本立ては成立しない。
今回のニューヨーク行きを決めたのは昨年、スカラに続くドゥダメルの来日がウィーンフィルと聞いた日のことだった。ようやく実現した本格的な日本デビュー戦が、スカラという超スピンアウト企画(笑)。しかし、まぁ、それはそれで面白いとしても、次はさすがにLAと来るだろう、それがダメでもせめてシモンボリバル響……と思っていたら、ウィーンだという。まぁ、なるほどなーという展開だし、それはそれで悪い演奏のはずもないのだが。ただ、まだLAでの仕事を見ていないのに、またしても今のドゥダメルの本質とはちょっと違う仕事を見るのかなぁ、というのと、ごく個人的な好みとして私はウィーンフィルが苦手なので(理由はいずれ書く)、とにかく、自分の中ではスカラとウィーンの間にLAを挟まずにはいられなかったのだ。
が。しかーし。
結果として、ドゥダメル&LAフィルにとって非常に重要な勝負どころだった今回の北米ツアーを見られてよかったし。何よりも、驚くべきことに、この“LAをウィーンみたいに鳴らすブラームス”を聴いているうちに、あんなに憂鬱だったウィーンフィルとの来日も楽しみになってしまったではないか。
はーいヽ(^。^)丿。
嗚呼。鬼のようにいぢわるなオバサンの心もみるみる溶かす、ドゥダっちの魔法の杖。ああ、財布の紐もみるみる緩むのである。
これがカリスマ性っていうものなのでしょうか。彼の音楽に触れると、なんというか、すごく素直な気持ちで音楽と向き合える。フシギ。本当に、自分が小さい子供になったような気持ちで「音楽っていいなぁ」って無邪気に思える。
わざわざニューヨークまで来て、よかったなぁ。*1
指揮者として世界的に活躍するようになって約10年、LA音楽監督も5年目。ドゥダメル自身は、そろそろ最初の曲がり角に差し掛かっている感じはある。天才子役の正念場、みたいな。公私ともに、彼を取り巻く状況も変わりつつあるし。いろいろと気になることはあるけど。どうか、このまま彼がのびのびと活躍を続けていけますように。できれば、もうしばらくはLAでお願いします!※個人の願望です。
【おまけ】
「(^^)/~~~」
エイブリー・フィッシャー・ホールのエレベーターに乗りこんでツアー最終日のステージへと向かう、レジェンド・グスたん。
※前回のLAP公式ツアー・ブログより。
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*1:そういえば、そもそも最初はLAフィルじゃなくて、その1週間後にドゥダメルが5年ぶりにニューヨーク・フィルを振る公演を見に行こうかとひそかに計画を立てていたのだった。なんたってNYフィルでドゥダメルって、なんかもう、オレにとってはウニイクラ丼みたいな豪華カップリングですから。しかもブルックナー。でも、そんなわけでスカラとウィーンの来日公演の間にどうしてもLAフィルをはさまねばならない個人的な事情(笑)があって、日程的な関係でNYフィルは断念してLAを見ることにした。そしたら、なんと、その後ドゥダメルは北米ツアー終了後にインフルでダウン。NYフィルとの共演をドタキャンしてしまったのだった。いやぁ、なんだか、やっぱりLAを見る運命にあったのかのぉ。