Less Than JOURNAL

女には向かない職業

Carole King Is Beautiful

 楽しかった旅から帰って、もう1か月以上経ってしまいました( ̄。 ̄;)。あとひと息!


《どこまで続くかわかりませんが、旅の覚え書きシリーズ【5】》

 この日はリンカーン・センターではありませぬ。ブロードウェイをくだって、43丁目の劇場街へ。

 じゃんっ! 

3月18日 at7:00pm @STEPHEN SONDHEIM THEATRE

 Beautiful -The Carole King Musical-

 キャロル・キングの自伝を原作としたミュージカル“Beautiful”。昨年9〜10月にサンフランシスコでプレ・ブロードウェイ公演、続いて11月からはブロードウェイでのプレビュー公演がスタート。プレビューをご覧になった“Misoppa's Band Wagon”主宰のmisoppa氏から「なかなか面白かったよ」と聞いて、さっそく3月のチケットを購入。けっこう話題にはなっていたし、そこそこお客さんも入っているということだし、これは正式オープン後の3月も上演しているに決まってるでしょ…と思いきや、どんなに評判がよくても必ずしも無事にオープンまでこぎつけるとは限らないらしい。ブロードウェイ、きびしいっすなぁ(´・ω・`)。misoppa氏の予測では、ホリデー・シーズンが終わって観光客ががくっと減る時期を持ちこたえられるかどうかが勝負であろう…と。そんなわけで、もう、チケットも買ったのですから無事に幕よ開いてくれよと年末年始はパトロン気取り(チケット1枚買っただけなのにw)で祈っておりましたが、めでたく1月12日には正式オープン。新聞ほか各メディアの評もおおむね好意的で、まずまずのスタート。というわけで、無事に3月の観劇が実現しました。ラッキーヽ(^。^)丿




 いきなり余談ですが。開演前にトイレに行ったら、女子トイレで整理係をしていた黒人の女の子が♪ケ〜セラ〜セラ〜ワッエバーウィルビーウィルビー〜と、小さな声で口ずさんでいた。なんかもう、彼女は現代のリトル・エバなの? と、ここからミュージカルが始まっているような、そんな気持ちになってテンションあがっちゃいました。

 で、物語は……
 「つづれおり」が発売された1971年、6月に行われたカーネギー・ホールでのコンサートの場面がイントロダクション。ライヴ盤にもなっている、あのコンサートです。
 そのMCでキャロルが“今は西海岸に住んでいるんだけど、もともとはこのあたりで育ったのよ”と観客に語りかけたところから、舞台は50年代のブルックリンへ……。50年代アメリカのニューヨーク郊外で育った少女が、ブロードウェイの“ティン・パン・アレイ”へと向かい、音楽出版社に才能を認められてソングライターとしてデビュー。基本的にはラブ・ストーリーというか、ソングライターコンビでもあったジェリー・ゴフィンとの出会い、恋、結婚と出産を経て別離……というふたりの関係がタテ軸になっている。そこに、まだまだ古風で封建的だった時代のアメリカ(しかもショービズ界)で、ひとりの若い女性が信念を貫いて名声を得てゆくサクセス・ストーリーや、公私にわたる逆境に立ち向かっていくキャロルの人間的な魅力、同じくソングライター・カップルであるバリー・マン&シンシア・ワイルとの出会いや友情などなどを絡めて物語が描かれてゆく。
 ゴフィン&キングの物語と同時進行する、マン&ワイルのカップルのラブ・ストーリーもいい感じ。片方のカップルが仲よしだと、片方はケンカしていたり……という典型的な青春ドラマっぽい作りも、楽しい。

 まぁ、きちっと時代考証をしていけば「マン&ワイルって、こんなにキャロルとつるんでたっけ?」みたいなこととか、「ドン・カーシュナーが“みんなの頼れるおとうさん”または“ちょっぴりお金が好きなナイス・ガイ”に描かれているのはブロードウェイ的な気配りか?」とか(笑)。いろいろ、まぁ、ツッコミどころはあります。まぁ、フィクション色は濃い。
 フィクションといえば、後半ではJTとかコーチマーとか、そのあたりを全部ごちゃ混ぜにして一本化したよーな架空のイケメンが出てくるし(*゜∀゜*)。あと、これから舞台をご覧になる方も多いかと思うので詳細は書きませんが、まぁ、マニア的には、いい意味で「んなわけねーだろっ、じゃんじゃん」みたいな、つい笑ってしまう場面もありますよ。そのあたりを、終わった後にあーだこーだ語り合うのも楽しいですよ。ふふふ。

 しかし、いくら脚色を加えたとしても、やはり自伝をベースにしているだけあって物語としてヘヴィなところはある。このミュージカルはプレビュー開幕時から「キャロル・キング本人は舞台を見ていない」ということが話題になっていた。実娘がプロデューサーとして関わっているし、伝記映画にありがちなトラブルがあったわけではない。プレミア公演を観劇した時のマン&ワイル夫妻はキャロルさんの気持ちを代弁して、“彼女はあまりにも大変な歴史を生きてきたから、それを描いた舞台を見るのはつらいことだろう”といった内容のコメントを発表していた(おぼろげ)。夫妻は作品を素晴らしいと思うし、自分たちもとても楽しんで観たけれど、キャロルが今はまだ観たくないという選択もそれでいいと思う……みたいな。後にキャロルさんのインタビューを見ると本当にそういうことだったようで、自分の過去の経験を客観的に見ることで再び傷つくことを恐れていたと。でも、実際に舞台を見ることで、気持ちが変わったようだ。そんな経緯を彼女が素直に語ったのもすごいことだと思うけれど。たぶん、この舞台を作っているキャストやスタッフへの感謝の気持ちのあらわれでもあったんだろうな。

 ただ、前述のように、基本は“事実をもとにしたフィクション”。
 ミュージカルとして笑いあり、涙ありの青春ドラマ風にうまく脚色されている。なので、物語そのものは、良くも悪くも『ジャージー・ボーイズ』ほどのシリアスな重苦しさはない。だから第2の『ジャージー〜』を期待して見ると、アメリカン・ポップス実録物語としてはちょっと軽すぎると感じる人もいるかもしれない。が、それでもやっぱりたくさんの事実がエピソードとして散りばめられているわけで。彼女の自伝を読んだ人や、多少キャロル・キングの歴史に詳しいファンにとっては、彼女があまり舞台を見たくないという気持ちも想像はできる。でも、そういうところもありつつ、全体的には明るく爽快な雰囲気につつまれた楽しい舞台。言うまでもなく、全編に流れる音楽のおかげだ。キャロル・キングの作品を中心に、誰もが知っているヒット曲をさまざまなアーティストに扮した役者が歌うゴールデン・オールディーズ・ショウの趣も素直に楽しい。
 しかも単にヒット曲をBGMに使っているのではなく、それぞれの歌が生まれた瞬間を切り取ってドラマにしているわけで。1曲1曲が味わい深い。キャロルの私生活でのロマンスがそのまま歌になり、それが他の歌手たちによって歌われることでヒット曲となって世界中に広まり独り歩きを始め、やがて歳月を経て“歌たち”は再びキャロルのもとへと戻ってきて、彼女自身の物語になる……という。そんな、ヒット曲の“生い立ち”の過程をリアルに実感できる。

 音楽を担当しているアレンジャーやバンドが若いせいか、はたまた今どきのブロードウェイの主流なのか、オレみたいな年寄りには若干ビート感がナウすぎる感はなきしもあらずなサウンドではあるのだが。まぁ、レトロなディテール再現ドラマではないし。若いキャストたちの歌を生かすには、逆にコンテンポラリーな色づけのほうが自然で新鮮なのかなとも思う。

 なんといっても、主演のキャロル・キングを演じるJessie Muellerさんが素晴らしい。歌声も、その時代ごとの雰囲気を巧く表現しているし。何よりもキャロルさんの、永遠の少女っぽさ……無邪気で、勝ち気で、ふわふわしてて、いつも微かに不安そうな表情や、ちょっとあわあわした話し方なんかを見事にとらえている。ちなみにバリー・マン役はブロードウェイ版『ジャージー・ボーイズ』のフランキー・ヴァリ役を1500回以上演じたJarrod Spector。私が見た時の『ジャージー・ボーイズ』も彼がヴァリだった。そう思うと、なんだか、バリー・マンが歌っていてもヴァリが歌ってるような気がしてきて頭ぐるんぐるんになりました(※個人の事情です)。

 若いキャストとスタッフたちが、情熱と愛情たっぷりにキャロル・キングが生きてきた世界を作りあげているのが伝わってくる。それは古きよき時代の“再現”であると同時に、ブロードウェイの先輩から新世代へとバトンが渡されてゆく伝統の現在進行形でもある。この公演から数週間後の4月3日、ついにキャロル・キング本人が劇場にやってきたというのが大きなニュースになった。なんでも彼女は最初、キャストたちに気づかれないように、カツラとメガネで変装してそっと客席についたという(笑)。彼女らしい! 本編が終わったアンコール・タイム、大サプライズでキャロルがステージに登場。それはもう、ステージの上も下もオケピットも大変なことになったようだ。そりゃそうだよね。ネットのニュースで“ふたりのキャロル”が舞台上で手をとりあい、その後ろでキャロルのママ役の女優さんが涙ぐんでいる写真を見た時は私までホロリとしてしまった。そろそろトニー賞のノミネート発表がある時期ですが、『Beautiful』にはぜひ…………と願っています(オレも、キャロルねえさんも!)。


 このミュージカル、いつか日本にも来てくれるといいなぁ……とは思うのですが。
 同時に、これこそがブロードウェイで上演されてこそ意味がある舞台の極めつけだなとも思う。上演されたスティーヴン・ソンドハイム劇場の向かいには、あの伝統のタウン・ホールがあるし。冒頭のカーネギー・ホールだって、60年代アメリカン・ポップスを支えた音楽出版社文化の象徴であるブリル・ビルディングだって、すぐそばにあるんだもの。“Beautiful”は、いわばブロードウェイの“ご当地ミュージカル”ってこと……なのですな!




 ちなみに。これがブリル・ビルディングの正面玄関。もともとは金融関係の会社が集まるビルにするつもりが、大恐慌のためにテナントが根こそぎいなくなってしまい、しかたなくお手頃な賃料にしたところティン・パン・アレイ系の音楽出版社がどーっとやってきて、そういうビルってことになったらしい。

 ブリル・ビルディングの1階には、かつてコロニーという歴史的なレコードショップがあった。もともとはシート・ミュージックを売っていたような、本当にブロードウェイのショービズの象徴みたいなお店。私が80年代に初めて行った時には、まだ古いレア盤もたくさん置いてあって、もちろん楽譜もいっぱいあるお店だった。五線にト音記号のついた重厚な扉を開けると、50年代の映画に出てくるホテルマンみたいな蝶ネクタイのおじいちゃん店員(か、店長か、マネージャー?)が後ろ手を組んで立っていて、私が持っていたタワレコの黄色い袋をちらり一瞥すると「タワーレコード行ったのか。あそこはチープだからね」と親指と人差し指をすりあわせる仕草をしてにやっと笑った。あの笑顔、粋でかっこよかったなぁ。
 そんな素敵なお店も、時代の流れと共にどんどん雰囲気が変わっていって、ヒップホップやヘビメタだらけになったり、有名人のサイン屋(嘘か本当かフィル・スペクターのサインまで売っていた)みたいになったり、ジョナス・ブラザーズのグッズだらけの店になったり……と変遷を重ね、とうとうしばらく前にクローズしてしまった。


 しょぼぼぼぼーーん。



 今は、観光地の安売りカバン&土産物ショップ。
 コロニーがなくなってからニューヨーク行くのは初めてだったので、実際にコロニーがないのを見ると淋しいというか、なんというか、言葉にならないフシギな空しさがあった。ト音記号の扉がそのままなのが……悲しい。


Beautiful: The Carole King Musical

Beautiful: The Carole King Musical

↑ついに完成した、オリジナル・キャストによるサウンド・トラック。CDは5月発売ですが、すでにiTunesなど配信では先行発売中です。60年代のキャロルも70年代のキャロルもホンモノ!?と思うほど見事そっくりに歌いあげるジェシーちゃんがすごい!




カーネギー・ホール・コンサート

カーネギー・ホール・コンサート

↑ミュージカルの中でも、重要な舞台のひとつとして登場する1971年のカーネギー・ホール・コンサートのライヴ盤。
ちなみにライナーは萩原健太でございます(笑)。





【おまけ】
キャロルねえさんカーネギー・コンサートのジャケ(『つづれおり』ポスターにSOLD-OUT!って貼ってあるやつ)って、たぶんココですよね。正面扉の横にあるやつ。この時は、ウイーンフィル週間のネルっちでした。わーい、ネルっち〜ヽ(^。^)丿だいすきーヽ(^。^)丿