Less Than JOURNAL

女には向かない職業

アルマ・ドイチャーの『シンデレラ』

 現在12歳のヴァイオリニスト/ピアニスト/作曲家(!)、英国人アルマ・ドイチャーが10歳の時に作曲した初めての(あたりまえだ)長編オペラ『シンデレラ』。そのフルオーケストラ版がサンホセ・オペラで米国初演され、現在medici.tvでのライブストリーミングを鑑賞中(21日)。まぁ、確かにモーツァルトじゃんと言われたらそれまでかもしれないが、しかし、それを書き抜く情熱と勢いで魅せる。若書きと言われるかもしれないが、10歳なんだから若書きに決まってんじゃん! それでも、なかなか風格のある美メロで聴かせる。しかもキャッチー。クラシカルで、なおかつミュージカル的でもあり……いや、かなりミュージカルかな。ポップ・オペラ・ミュージカルという新ジャンルを作ってしまえばいいのかもしれない。10歳の少女が憧れるプリンセス・ストーリーのリアリティもあるし、オペラ入門にもってこいの様式美も押さえているし、時に笑いもある。まさにアンドリュー・ロイド・ウェーバーの国の音楽文化、ではないか。継母と娘たち3人でガールグループ風になるところのポップさなども楽しいし。なんといっても、このオペラの見所は、ここぞのフレーズではシンデレラ風のドレスを着たアルマちゃんが登場してヴァイオリンを弾くのだ。これがまた可愛らしい。ヴァイオリンのための管弦楽曲ならぬ、「ヴァイオリンのための歌劇」ってなかなか新鮮ではありませんか。先月米CBS「60ミニッツ」でアルマちゃんの特集が組まれたそうで、このサンホセ・オペラ公演も追加公演が出るほどの人気。さらには公演期間中にヴァイオリニストとして協奏曲を弾くコンサートにも出演するそう。「神童」好きの米国では、人気出るかもね。

 アルマちゃんの無邪気なたたずまいや、好きなものに囲まれたガーリーな子供部屋みたいな作品なのに不思議とオトナっぽい感じとか、そういうのも含めて彼女のこの感じ、ものすごく好き……こういう、銀のスプーンくわえっぱなしの神童ガーリー・テイストは前にもあったけど何だったっけ?と考えていたのだが、二幕のベルばら感あふれる舞踏会のシーンを見ていたら思い出した。ソフィア・コッポラだ。コッポラ、スコセッシ、アレンという3大監督によるニューヨークをテーマにしたオムニバス短編集『ニューヨーク・ストーリー』で、当時17、18歳のソフィアが脚本と衣装で参加したコッポラ監督作『ゾイのいない人生』。実のところ、この映画、ソフィアの仕事で今でもいちばん好き。VHSの時代から、年に1度は見返す。最近ふと思ったのだけれども、もしかしたら私にとっての“アメクラ感”というのもこの映画が原点かもしれない。世界中を飛び回っている有名音楽家を両親に持ち、高級ホテル住まいのおませな女の子・ゾイ。この映画だって『エロイーズ』っちゃエロイーズだけど、しかしそんなことを超越して魅了する愛おしさがある。今になって観るとよくわかるけど、父が監督とはいえ、ストーリーも映像も今のソフィア(またはロマン)っぽい。ゾイと同級生の女の子たちが全員なんてことなくフツウにシャネルを着て、つまらないオトナのように噂話をしていて、もう、それがたまらなく可愛い。現実だったら単なる生意気クソガキ様なはずなのに、全然そう思えないのは、そこに十代のソフィアの目線があるから。そして、その目線っていうのは今のソフィアの中にまだ生きているような気がする。