Less Than JOURNAL

女には向かない職業

おっさんとマイケルズとSNLで

SATURDAY NIGHT LIVE(SNL)が11日で43周年を迎えたそうで、おめでとうございます。最近、ポール・サイモンの初公式バイオグラフィーを読み終えたのだが、この本でもSNLのことは当然たくさん出てきて、なにしろサイモンが9/ 11の後にSNLで「ボクサー」を歌った時のことを描いたプロローグから始まる。サイモン自身とプロデューサーのローン・マイケルズによる回想コメントをまじえたプロローグは、それだけでも短編映画になりそうな物語なのだが、そもそもこの本はマイケルズとサイモンの40年にわたる友情の歴史がひとつの大切なテーマとなっている。70年代始め、ちょうどSNLが始まる前、ふたりは共通の知人女性を介して知り合い、たちまち意気投合。やがて生涯無二の親友になり、公私にわたり深い絆で結ばれて現在に至る。

「たくさんの友達はいらない、信頼できる何人かでいい」というサイモンだが、そんな彼がいかにマイケルズを信頼してきたかが繰り返し語られ、いい時も悪い時も揺るぎない友情と信頼のチームであり続けたふたりの歴史に、まぁ、ほんとにどんだけ仲良しなんだと胸熱。80年代からこっち、“ニューヨークっぽいよね”と表現されてきたユーモアセンスとか毒舌とかクールな人情味みたいなものの多くはSNLが作ったイメージも大きいのだと思うけれど、実はそこには番組開始時から直接的または間接的にブレーンに近い存在として関わってきたサイモンの影響も大きいのかもしれない。ということを、本を読んであらためて思った。単に夢や理想や音楽の趣味といったことだけでなく、ビジネスとかマネーとかについてのユダヤ人ならではシビアな考え方についても価値観が合っていたことも含めて、お互いになくてはならない存在。まさにソウルメイト。しかも、そんな相手に若い時に出会えていた。オトナになってからの友達はおしなべて奇跡だ。やっぱり運命の星のもとにうまれてきたふたり、なのだろう。

トランプ政権になってからのSNLは、本当に容赦なく政権を戯画化し、おちょくり、笑い、エンターテインメントに何ができるのかということを全力に追求している。で、ふと思ったのだが、番組にどれだけいろんな人々が関わって、さまざまな意見が入りこんできて、どんどん時代が変わったとしても、米国を(他人事という意味では断じてなく!)客観的に見る俯瞰の視点を失わないのは、もしかしたらマイケルズがカナダ人であることも大きいのかもしれないなと。アメリカの音を描き続けたザ・バンドが、レヴォン以外みんなカナダ人だったのと同じような意味で。あるいは、言うまでもなくだけどニール・ヤングとかね。で、そういう視点があることをちゃんと気づいて、で、その道は間違っていないと傍らでうなずいて励ます存在としてもポール・サイモンはけっこう重要だったのだはないだろうか。ま、もしかしたらザ・バンドにとってのディランがSNLにとってのサイモンなのかもしれないけど、そこまで大風呂敷を広げるにはもうちょっと検証が必要だな。

というわけで、43周年を祝う今週末のSNLでは史上最多出場のミュージカル・ゲストとしてポール・サイモンが登場する。いやー、おっさん、この写真かっこよすぎるわ。なんなの、この「いいね!」みたいなセクシーポーズ。電車の中で、この写真のことを思い出すと動揺しそうなので日中はあまり考えないように努めている。

 

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いやーん。素敵。先月、このおっさんはワールド・ツアーからの引退を宣言したフェアウェル・ツアーを終えたばかりだが、これから始まる新たな歩みの第一歩としてSNLへの出演……というのは、ファンにはとても心憎いプレゼントに思える。ブレてない。フェアウェル・ツアーが“引退”というふうに誤解されているふしもあって、日本盤の『イン・ザ・ブルーライト』のライナーノーツでも“引退興行”と連呼されていて悲しかったですけど。私は、今のおっさんはいちばん自由におだやかに音楽のことを考えているんじゃないかと思っている。SNLでは、どんな表情を見せるのか楽しみだ(リアルタイムで見られないのが悲しい)。