Less Than JOURNAL

女には向かない職業

Henri Bendel

久々にカニエ・ウエストさんに感心している。

トランプ「に」ドン引いた人の映像ならば昔からたくさん見てきたが、トランプ「が」ドン引いた人というのは初めてだ。カニエさんにむぎゅーっと抱きしめられて、遠い目をしているトランプ大統領。いやぁ、笑った。カニエさん、今、アメリカでいちばんすごい人かも。このぶんだと、ほんとにカニエも大統領選に出るかもしれないのでアメリカのみなさん気をつけてください。トランプだって最初は皆冗談だと思っていたのだから。

 

去年、マンハッタンのトランプタワー隣にあるティファニー本店の売り上げが激減したというニュースがあった。理由はいわずもがな、トランプタワーのセキュリティ強化や、日々トランプタワー前で繰り広げられる反トランプデモ、それに対する厳重な警備と通行への支障、そして何よりも、最高級エリアのイメージだったトランプタワー周辺の評価暴落による風評被害。ようするに、もらい事故だ。隣で商売を営んでいるだけで、米国が世界に誇る宝飾店がピンチに追いやられてしまったのだ。オードリー・ヘップバーン扮するホリー・ゴライトリーがパンをくわえてウインドウを眺めていた、あのニューヨーク5番街の本店ですよ。いやぁ、その話を聞いて、トランプすげーなと思ったものです。

 

そして、今度はヘンリ・ベンデルだよ。

同じくニューヨーク5番街にある、1895年創業の老舗百貨店。場所は、あろうことかトランプタワーのはす向かい。先月、現在の親会社が、全米の全店舗とオンラインサイトの閉鎖を発表した。ベンデルといえば90年代、日本でもスーパーモデル・ブームと共にブラウン×ホワイト・ストライプのポーチが爆売れして、アパレルが一瞬だけ日本進出したこともある。近年は『ゴシップ・ガール』の爆買ロケ地としても有名になり、資本も変わり、ロゴ入りグッズが主力の若者向け店舗(日本でいえばサマンサタバサ的な雰囲気?)になり、だけどそれも今ひとつぴりっとせず、それなりに経営は大変だったとは思うのですが。それにしても、やっぱ場所は無関係ではないと思う。トランプタワーの向かい側ですよ。夢を売る百貨店のド真ん前で毎日毎日抗議行動がおこなわれ、世界最強レベルのシークレットサービスがしょっちゅうわらわらしていたら、客足も遠のく。金ぴかタワーがベンデルのクローズにいくらかの拍車をかけたのは間違いないだろう。残念だ。たとえブランド力は落ちていても、やっぱり老舗ならではのノスタルジックでエレガントな存在感があって何とも魅力的だった。50年代の映画に出てきそうな店構え、何よりも1階から見上げるらせん階段は買い物をする気がなかったとしてもワクワクせずにはいられない。そういえば化粧品のM.A.Cという新ブランドを知ったのも(店員さんは、マドンナご愛用色だという白ベージュをすすめてくれた)、世の中に出回り始めたばかりの“パシュミナ”のストールを初めて買ったのもベンデルだった。懐かしい。若い頃にはセレクトショップというよりも、実践で学ぶおしゃれ学校みたいなもの(高級デパートほどには敷居は高くない、のが重要)だと思っていた。最後に立ち寄った時は2年前で、年下の友人へのお土産にキーホルダーを買ったら、接客してくれたインド系の50代後半か60代くらいの上品なマダムが「自分のはいいの?じゃ、これはあなたへのお土産。誰かにあげちゃだめよ。あなたのよ」とバニラの香りのキャンドルをくれた。安物のキーホルダーしか買ってないのに。嬉しくて、部屋がバニラ臭くて耐えられなくなるまでしばらく飾っていた。

 

数日前にベンデルからニュースレターが来て、それはファンへの感謝の言葉と、今年のホリデーシーズンには最後の素敵なコレクションをお届けするので楽しみにしていてね……というメッセージだった。あの建物は何になるのか知らないけど、現在は同じ親会社になっているビクトリアズ・シークレットなんかだったら最悪だな。正直、ベンデル・ロゴのオリジナルブランドは品質も今ひとつだしデザインもたいていどこかのパクリっぽいし、そもそもお子ちゃま向けだったりするし、オンラインはけっこうお値段+送料も高いんだけど、クリスマスのオーナメントとかホリデーギフトはさすが悶絶かわいいものがあったりするんですよ。そこがもう、ザッツグッドオールドアメリカンデパートメントストアのゆえん。たいていひやかしの客ですがクリスマスが近づくとオンラインショップをよく見てました。なんか乙女心をかきむしられる。ワクワクする。今年のクリスマスはちょっと楽しみだな。うむ。

 

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