Less Than JOURNAL

女には向かない職業

リサとシェクとデ・ラ・パーラと校庭で。

今年のOPUS Klassik(昨年までのECHO Klassic)授賞式での、ヴァイオリンのリサ・バティアシュヴィリとチェロのシェク・カネー・メイソンによるデュオ“ニュー・シネマ・パラダイス 愛のテーマ”(ちょっと下にYouTube映像あります)。もはや若手という感じではないけれど、間違いなく当代随一の奏者のひとりに成長したリサちゃん(だからもう“ちゃん”ではないんですけどね)。ハリー王子とメーガン妃の結婚式での演奏で、19歳にして今年もっとも話題のクラシック奏者となったシェク君。そしてもうひとり、ホスト・オーケストラを務めたコンツェルトハウス・ベルリンを指揮する麗しき指揮者。なんと、メキシコの若きスーパースター指揮者アロンドラ・デ・ラ・パーラではありませんか。これはちょっとサプライズだった。なんだかもう、アロンドラ様ったら、実写版ベルばらかと思うほどの美貌ゆえ、彼女を知らなければこの快挙も、実力よりルックス優先タレント枠指揮者と誤解する人もいるかもしれない。それくらいお美しい!ので、念のため説明をしておくと、この欧州最大のクラシック音楽賞授賞式のホスト指揮者は近年、名実ともに旬の指揮者が指名されがちな栄誉枠となっているのだ。ただし、テレビ中継の進行を指示通りこなしながらベートーヴェンから軽音楽まできっちり振るというけっこう過酷な仕事でもある。なので、一昨年あたりはネゼ=セガンがやっていたりと、人気実力ともにばっちりな指揮者にしかつとまらないライジング・スター枠なのだ。

いやー、3人ともかっこいい。旬旬旬のトリプル旬。この顔合わせで、曲は映画音楽というのはこういう授賞式かBBCプロムスくらいしかないだろうし、これで共演の真価うんぬん言うのは野暮。この3人が同じステージに立って特別な時間をシェアしているのが映像からも伝わってきて、それだけでシアワセになる。この、紛れもない2018年ならではの空気をキャプチャした貴重な映像が後世まで残るのだ。そう思うと、クラシックも過去の価値観に縛られて“ライブ”であることや“新しい”ことを見逃してはもったいないなーとあらためて思う。「過去」が異常に長いので、まぁ難しいのだけれども。

余談ですが、私は演奏している時のシェク君の自然体な表情が個人的に大好きなのです。ロイヤル・ウェディングでも、ポップなステージでも、オーケストラとの共演でも、いつでもどこでも彼は時折ふっと不思議な表情をする。ぽぉーっとしているようにも見えるし、武者震いしているようにも見える。ごくごく普通の男の子っぽい無邪気とも思えるし、あるいは選ばれし神童らしい気迫にも思える。どっちともいえない不思議なまなざし。それがなんだか、神様と目配せをしているように思えてならないんです。ものすごく緊張感あふれる演奏をしているというのに、それを演奏している当人の表情を見るとふわっと気持ちがゆるんでしまう。癒される。かわいいしね、19歳よ。

 


Lisa Batiashvili & Sheku Kanneh-Mason "Cinema Paradiso-Love Theme" OPUS KLASSIK 2018

 

NY生まれメキシコ育ちの女性指揮者デ・ラ・パーラが今、この時代にこういうワールドワイドな檜舞台に抜擢されたことにも、ものすごくワクワクしている。80年生まれの彼女は幼い頃に両親とメキシコに移住し、英国で教育を受け、NYに戻りマンハッタン音楽院で学び「NYCのオーケストラを指揮した初のメキシカン・ウーマン」になった。そして23歳でMexican-American Orchestra、最終的には“フィルハーモニック・オーケストラ・オブ・ジ・アメリカス(POA)”の名で活動することになる自らのオーケストラを創設(休止中)。現在はオーストラリアのクイーンズランド・シンフォニーの音楽監督でもある。昨年はN響にもデビューを果たし、すでに日本でもお馴染みだけど(と書きつつ、私は見たことないんですが)。1年後、2年後、3年後にはもっともっと大活躍しているに違いない。楽しみ。

f:id:LessThanZero:20181017031922j:plain

 

アロンドラ・デ・ラ・パーラの主要アルバムはPOA名義を含め、たぶんアップルやスポティファイでほぼ揃っているはず。特に、クラシックファン以外にも……というか幅広い音楽ファンにぜひご紹介したいなーと思うのは、2011年のアルバム『Travieso Carmesí (直訳するとNatural Crimson)』↓。これもPOAとの録音で、メキシコのフォーク〜ロック系女性シンガー3人が、メキシコのスタンダードなどラテンなナンバーをオーケストラ・サウンドと共に歌うというもの。いわゆるクラシカル・アルバムとはちょっと違う作品なのですが。オーケストラだけどセッション感あふれる演奏で、勉強不足な私には皆お初の歌姫さまたちでしたが(;´Д`)、それぞれ個性の異なる歌声はそれぞれとても魅力的。ジャケも素敵。というか、ジャケのイメージどおりのアルバム、と思う。

open.spotify.com