Less Than JOURNAL

女には向かない職業

アラン・ギルバート指揮NDRエルプフィルハーモニー管'18

11月4日14:00 @サントリーホール

アラン・ギルバート指揮NDR エルプフィルハーモニー管弦楽団

NDR Elbphilharmonie Orchestra

ずんっ♪

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♪きらきらっ

♪きらりんっ

ニューヨーク後はなんだかワイルドだわ。

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ああ、アラン・ギルバートが帰ってきました。て、まぁ、都響と契約後はちょくちょく来日しているので久々感は薄いかもしれないが、いわゆる“外タレ”としての来日は2014年の冬にニューヨーク・フィルと来て以来。しかも、ニューヨーク・フィル就任前には首席客演指揮者を務め、ニューヨーク在任中も何か客演やツアーを続けていて、で、来年2019年からはめでたく首席指揮者に就任することになったNDRエルプフィルハーモニー管弦楽団のみなさんと共にやってきました。ギルバートさんは2005年、彼らがハンブルク北ドイツ放送響として来日した時にも一緒に来ているのだが。その時は見られなかった自分のフシアナ・アイを悔いること13年。やっと、このコンビをナマで拝見することができました。

 

今回、そもそもはヘンゲルブロックさんが来る予定だったのが、前倒しで首席指揮者を退任された関係で前任者によるプログラムを演奏する実質代役としての来日だが、どっちにしろ首席就任後はコンビで来日するのでしょうから、まぁ、なんつーか婚前旅行みたいなツアーということになるわけだ。しかも、すでにつきあいは長いし、私にとってもラッキーだったんですけど( ・∀・)、オーケストラにしても来年に向けての準備という意味でラッキーだったのかも。

 

《プログラム》

ワーグナー:オペラ《ローエングリン》から 第1幕への前奏曲

マーラー交響曲第10番 嬰ヘ長調から アダージョ

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ブラームス交響曲第4番 ホ短調op.98

en) ブラームスハンガリー舞曲第6番

 

美しかった!

もう、マーラーなんて、天使が見えた気がした。というか、お迎えが来たかと思うくらい恍惚でした。マーラーだけでなくワーグナーブラームスもそうだけど、ドイツの作曲家だけに、これはネイティヴが話しかけてくるようなリアリティなのだろうか。

ニューヨーク・フィルでアラン・ギルバートが見せてくれた、都会的な優雅さや洗練されたスノッブな儚さとは全然違う美しさ。別の宇宙。大地にどっしり足を踏ん張った強さの中にある、人間本来の美しさ、生命そのものの優美さを音であらわしているような。でも、それでいて「ああ、そうだった、これがアラン・ギルバートだった」という“味”もしっかりと伝わってきたのは、やっぱりオーケストラが指揮者のことをよく理解していることも大きいのでしょう。このコンビのあうんの呼吸、横のR席だったんですが、見ていても痛快なほど見事だった。

このコンビ、“ウマが合う”という表現がぴったり。ギルバートさんも本当に楽しそうで、最後はオーケストラに投げキッスしてたし!勇気を出して言いますが、ええ、うらやましいです。

もう、籍が入る前からラブラブーーみたいな。

ハンブルク北ドイツ放送響時代は3年前にヘンゲルブロックとの来日公演を見に行っていて、何をやったっけなと検索してみたらマーラー「巨人」の5楽章版(世界初録音した後)のコンサートだった(…忘れてて自分でもショック)。で、その時の記事に《質実剛健の》オーケストラと書かれていて、そういえば確かにそういうイメージだったような気がする。今はずいぶん印象が変わったと改めて思った。木管金管が素晴らしかった記憶があって、その印象は変わらないが、加えて印象的だったのは弦のバランスや響きの美しさ。というのは、アラン・ギルバートが音楽監督に就任した年のニューヨーク・フィルの来日公演を見た時にも、弦のバランスの良さが(というか、それによって全体の印象が変わったような気がしたことが)とても印象的だったからだ。これは彼のアイディアもすでにいろいろ入っているのかなと思ったり。いや、でも、打楽器も素晴らしかったし、すべての楽器が素晴らしかったなぁ。

もともと馬力はすごいオーケストラなわけだが、それに加えて端正な美しさとか、ニューヨークとは全然違うベクトルの優雅さが本当に魅力的。NYとの共通点というのは、ものすごくありそうで、意外とない……みたいな。別モノだけど、並べても違和感がないということなのかな。よくわかんないけど。

ニューヨーク・フィル音楽監督を退任した後は、“なんちゃってNYフィル”みたいなオケに再就職するわけにもいかないし、かといってガラッと違う色のオケに行くのももったいないし……と、いったいアラン・ギルバートがどんなオーケストラがオファーするのかと結構話題になっていた(私は、ライプチヒに賭けてたんですけどね。ええ、ライプチヒまでの交通費も試算しましたとも)。こうなってなるほど、という感じ。

 

来日ツアーのパンフレットに載っていたギルバートさんのインタビューには「50過ぎたから、これからはもう好きなように好きなことをやる!」というような発言が載っていて、ものすごく嬉しかった。指揮者にとって50なんて修行中の若造だ、とかおっしゃる方もおられるが。人間、50過ぎたらもう思い残すことがないようにやりたいことやっておかないと。そして、私はそういう考え方をして、そういう発言を堂々とできるアラン・ギルバートという指揮者が本当に大好きだとしみじみ思いました。

でも、ひょっとして、やっぱりニューヨーク・フィルはそんなに辛かったすか?ということも心配になったりならなかったり。計画は結局ふりだしに戻ったものの、NYフィル時代の最後のほうのギルバートさんは、ゲフィン・ホール建替の予算繰りだの資金集めだの何だので音楽監督としてずいぶん振り回されたのではないかと思う。まぁ、そういう意味では大変だったのは間違いないのだが、しかしまぁ、面白いことに、辞めたニューヨーク・フィルの新ホール計画は頓挫しているのに、結局、ギルバートさんは昨年1月にオープンして、さっそく世界一のコンサートホールのひとつと讃えられているエルプフィルハーモニー・コンサートホールを本拠地とするオーケストラの首席指揮者に就任。しかも、彼が招聘された理由のひとつに、この新しいホールをじゅうぶんに“鳴らす”まで整えてほしいということもあったらしく、芸術面だけでなく経験値とか知識面での“腕”も買われての就任だったというのが、なかなかドラマだなぁと思う。新しいホールができて、会館サイドから「ホールを鳴らしてくれ」と言われるのはジャンルを問わずアルチザン系ミュージシャン冥利に尽きるのではないかと思います。

 

確かに50歳からのアラン・ギルバート、もっと楽しくなりそうですな。

 

ピアノのエレーヌ・グリモーが肩の故障で来られなくなって、2日の公演では急遽ルドルフ・ブッヒビンダーが弾いたらしい。ブッヒビンダーもちょっと見たかったけどね。でも、今回はギルバートとオーケストラのラブラブっぷりを見られたので、コンツェルトなしのプログラムでよかったかも。と、言いつつ今週、アンナ・ヴィニツカヤさんとの共演も見ますが。