華氏119:ニッポンの未来はうぉうぉうぉうぉうぉーーー

 よりによって米国中間選挙の日に(今日しか行けそうになかったからなのですが)、マイケル・ムーア監督の最新作『華氏119』を見てきた。

 日本でもNetflix『ハウス・オブ・カード』のファイナル・シーズンが配信スタートしたばかりで、ちょうど昨夜エピソード2を観たのだけど。この映画を観たら「わっ、あれってこれ? で、これはあれ?」と、ドキュメンタリー映画でドラマのネタバレ状態。もう、現実がフィクションをリードしている。

 

f:id:LessThanZero:20181106153825j:plain

 

 「面白かった」というのは、言葉として正しくないかもしれない。でも、興味深い、という意味でめちゃめちゃ面白い映画だった。本当に信じられないことが次から次へと起こったアメリカの1年半(と、そこに至る道)が歴史の絵巻物のように描かれていて、2時間の長編もあっという間だった。ポスターのビジュアルは「トランプ大統領vsムーア監督」みたいな、いつものようにいつものごとく監督が巨悪の権力者のところにアポ無し突撃して……というイメージだけど。今回はちょいと複雑で、もちろんトランプは悪い、だけどラスボスはトランプというわけではなくて、ヒラリーもオバマも、民主党も、何よりも彼らのゲームをただ面白おかしく煽ってきたメディアも、そして投票したりしなかったりした国民も、それぞれに責任がある。というお話。トランプは突然たまたまふってわいたワケではなく、ここまでの“結果”に過ぎない。せっかく汗と涙で築き上げた民主主義はなぜ危機に瀕しているのか、その危機は誰が作ったのか、という……週末に公開されたばかりなので詳しい内容には触れませんが、これまでのムーア作品でもとりあげたテーマもひっくるめて、全部がつながって今に至る道を作っていたのだと過去を振り返り、現在を検証し、未来を心配する。巨悪の告発というよりも、自分たち自身を指さして静かに問いかけ、怒り、反省をし、警鐘を鳴らす作品だ。ちなみに監督はサンダース支持者。クリントンのためにサンダースの得票を無碍にした民主党に爆怒っている。

 

で、映画を見て思ったのは、この1年半ほど、夜中のCNNjチャンネルでの生中継とか、ネットで見られる限りの全米ニュースや、トークショーや、新聞や、とにかくアメリカの政治に関するものをしっかり見たことは今までの人生でなかったのではないかと。出てくるニュース映像はかなりライブで観ていたものだった。とはいえ、それはあくまで素材なので、監督の視点で物語を綴る長編ドキュメンタリーとしては本当に新鮮な驚きに満ちたものでしたが。それにしても、最近ホントによくCNNは見ている。DA PUMPが歌っているように、どっちかが夜の時はどっちかが昼なので、夜も更けて寝ようかと思った時にブレイキング・ニュースが飛び込んできて、そのまま「え、何!? 何が起きたの!?」と辞書ひきひき朝までテレビやSNSにはりついていたことが何度あったか。トランプ政権のおかげでちょっと英語力もあがったかもしれません。特に忘れられないのは、フロリダのダグラス高校銃乱射事件を受けての、ワシントンDCでの歴史的大行進“March For Our Lives”。朝までずっと見ていた。というか、目が離せなかった。同級生を亡くした高校生たちのスピーチはあまりにも素晴らしくて、たとえ選挙権がなくとも政治に、社会に大きな影響を与えることを確信させるものだった。この映画でもダグラス高校のことはひとつの大きなテーマとして取材されていて、涙した。思いのほか、泣けてしまう場面の多い映画です。冒頭、2016年11月の大統領選投票日当日の様子。すでにヒラリー・クリントン完勝を信じて疑わない人々の笑顔からして胸が痛くなる。もうすぐ史上初の女性大統領が誕生するんだ、と嬉しそうに毎日はしゃいでいた米国のある友人は特に政治の話を好んでするような女性ではなかったけれど、期日前投票を済ませてバカンスに出かけ、そこで祝杯をあげるはずだった……のに、翌日から一転、すっかりアクティビストとなり様々なネットワークと繋がって情報交換を続けている。今もずっと。彼女をはじめとする友人たちがウイメンズ・マーチに参加したり、投票を訴えかけたり、それこそ人生を削って、真摯に、だけど決して悲愴な感じではなく、エネルギッシュに陽気に参加しているのをSNSで見て、ああ、アメリカってこういう国なんだと妙にリアルに実感できたというか、なんだか不思議な感覚に包まれたことをよく覚えている。トランプが当選したから絶望するのではなく、そこから何を生み出せるのかをすぐに考える。さすが建国200年、スピード感ハンパない国だなと思った。

 

トランプ政権になって、日本人である私がいちばんショックを受けたのは、自分の知らないアメリカというのは思いのほか広大だったということ。わかってはいた。ニューヨークとかロサンゼルスにちょこっとのぞいて“ここがアメリカ”だとわかった気になるのは大間違いで、我々には本当のアメリカなどそうそう理解できるわけもないことを。米国文化、特に音楽には多大な影響を受けて育ち、人生の一部分になっていると言ってもいいけれど、その文化を育んでいる国土のほんの一部に親しんでいるに過ぎず、その全貌を自分は何も知らないんだと、それなりに理解しているつもりだった。

 でも、こんなにアメリカを知らないとは思わなかった。たとえばTwitterを見れば、目にとまる99%、ほぼすべてのミュージシャンは反トランプで、中間選挙の投票に行って今の状況を変えようと訴えている。ロックスターも、ヒット・ソングライターも、指揮者も、ジェットセッターのヴィルトゥオーゾたちも、オーケストラ団員たちも。ミュージシャンだけではなく作家も、俳優も、料理人も、コメディアンも、テレビキャスターも。親しくしているアメリカ人も、言うまでもなく。でも、そういう主張は全部ひっくるめて少数派。トランプ派のミュージシャンはカニエさんと、あとは一部のカントリーの人たちくらいしか知らないけれど、つまり、超なかよしでしょっちゅう家に遊びに行く友達がいて、その子の家のことは隅々までよく知ってると思ったらしい、実は自分は玄関までしか入れてもらってなくて、実はその奥は5LDKくらいの豪邸なのを知らなかったような感覚だ(ねー、ショックでしょ)。

 本国では思いのほか動員が伸び悩んでいたとも聞くが、昨夜もエネーチケーのニュース9で大特集されたりと話題になっているせいか平日昼なのに満員。マイケル・ムーアなのに、とか言ったら怒られるけど(笑)。これは確かに、日本人が今のアメリカを知るのにいい映画なのかもしれない。私はテレ朝とTBSとNHKを見たけど、今回たくさんのニュース番組がムーア監督のインタビューをとりあげていた。それで、いかにトランプがでたらめで、今、アメリカの民主主義がどんだけ危機なのかを語った後、どの番組でも「で、ひとつ確認しておきたいんだけど、キミらんとこの総理は、トランプがアホだっていうのをわかって“ああ”しているんだよね?」「彼もいかれちゃったわけじゃないよね」(大意)というようなことを訊いていた。つまり、いつも彼はニコニコしてトランプにいろいろ贈り物してるけど、あれはまさか正気ではないんだよね、陰では「やれやれ」つってんだよね、と。そして、もしそうじゃないとしたら、つまり彼らがホントに仲良しなのだとしたら、キミも今、ここに座っている場合じゃない、今すぐ行動しろ。と、そうインタビュアーに厳しい口調で言っていた。これはつまり、日本のメディアに対するメッセージだ。もしかしたら今回、映画本編よりもこっちのほうが日本にとって重要なことだったかもしれない。日本の報道は、安倍総理の外交手腕に対する評価として「トランプ大統領とは良好な関係」という言い方を好むけど、そういう無難なコメントを耳にするたび、日本は意外とあっという間にとんでもないことになってしまうのではないかと不安でたまらなくなる。

 映画の中で、エール大学の教授(だったかな)が、アメリカの民主主義は70年代にできたばかりで、まだ道半ばなのだと言っていたのが印象的だった。私たちが愛する60年代のポップスがヒットしていた時、黒人が入ってはいけないレストランがあったなんて想像がつくだろうか。まだ新しい民主主義はあっという間に覆る危険もある。けれど、この時期を経て、本当の成熟へと向かう可能性もある。日本の民主主義はどうだろう。どうなるのだろう。映画では、ヒトラーの映像にトランプの演説音声を合わせたものが登場した。これってYouTubeでおなじみ“総統閣下シリーズ”と同じではないか、仲良しにもほどがある。ゾッとした。

 

気がついた時にはもう遅い。

 

今日観た映画でも、あとは『侍女の物語』や『ハウス・オブ・カード』など最近のアメリカで“メタファー”とか政治風刺とされているドラマでも、さまざまな形で、このメッセージが繰り返し繰り返し織り込まれている。怒ることに疲れたり、逆らうことに疲れたり、変えようとすることに疲れたとしても、まさかすぐに手遅れになることはないだろうと思っていたら、その時がファシズム社会の扉が開くときだといわれる。でも、ダグラス高校の生徒達や、今回の中間選挙で立ち上がった女性やマイノリティの候補者の力強い言葉を聞いていると、アメリカの未来はなんとかなるんじゃないかなーと思えてくる。

 

エンドロールで流れる、ソマリア出身のラッパーK'naanケイナーン)が歌うボブ・ディランの「神が味方」が心に響いた。


k'naan God on our side

 

 アムネスティ・インターナショナル50周年を記念して2005年にリリースされたディランのカヴァー・アルバム『Chimes of Freedom: Songs of Bob Dylan』に収録されている。自らに合わせて新たに歌詞を加えたバージョンで、これはまるで今この映画のために作られた歌詞のようにすら思えた。オリジナル・バージョンのディランと同じように、素直で、淡々とした歌声で綴られる物語がじわじわと胸をしめつける。

 いやー、結局、最後はディランにもってかれるねー。にくいねノーベル賞

Chimes of Freedom: Songs of Bob Dylan

Chimes of Freedom: Songs of Bob Dylan

 

 アメリカのことを描いていて日本のニの字も出てこない映画だけど、翻って日本のことをいやでも考えてしまう。そんな映画です。

 

 でも、今夜はこれからCNN大喜利を見ますけどね。

 

 ところで。いつもネット決済すると会員ですかとか、会員になりませんかとか、会員だとこういうことがありますよとか攻めがきびしいTOHOシネマイレージカード、有料500円が惜しいというよりも、もうこれ以上ポイントカードを持つのが面倒くさいのでずっと固辞してきましたが、もう固辞するのが面倒くさくて入会しました。今日は400円オフで観られる日だったし。そしたら、カードが期間限定ゴジーラ・カードだったのでちょっとうれしい。

f:id:LessThanZero:20181106195236j:plain