Less Than JOURNAL

女には向かない職業

第225回志らく一門会/志らく志らべ親子会

 いつもなかなかタイミングがうまく合わなかった立川志らべさんの落語の会に、ようやくお邪魔することができました。お師匠様の立川志らくさんとの「志らく志らべ親子会」@お江戸日本橋亭。楽しかった!音楽もいいけど、話芸という芸能の奥深さ素晴らしさをライブで味わえるというのは、本当に何よりの贅沢で、幸せですね。

 先日めでたく真打昇進された志らべさん、ふだんのチャーミングなお人柄が反映されているような登場人物ひとりひとりの愛おしいキャラに魅了されたかと思えば、鋭いギャグや時事ネタをがんがんぶち込んでくるかっこよさにしびれました。志らべさんとはナンノちゃんと佐野元春という共通項(それぞれのファンだったら多いが両方というのはなかなかレアなのでは……)があるのですが、「子別れ」は脳内で♪心はいつもヘビーだけど顔では大丈夫、大丈夫〜というフレーズがBGMで流れてきました。ほんとに。

 

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 最近、理由あって演芸場や寄席通いが続いてプチ事情通になっているウチの夫も、開演前のBGMにディランが流れる寄席なんて他にあるだろうか……と始まる前から感涙にむせんでおりました。客席には伊藤銀次さんと直枝政広さんのお姿も。私、おふたりに久々にお目にかかったのですが、その場所が寄席の客席というのは素敵すぎました。なんか、寄席にいるロック・ミュージシャンって「日本語のロック」感ばりばりだなー、とか余計なことまで感動したりして。さらに今日は、諸般の事情にてご無沙汰していてずーーーっと会いたいと思っていた友人とも会場でばったり。どこかで会えるかなと思ってたものの、まさかここで会えるとはとお互いビックリでしたが、会話もそこそこに並んで座って一緒に笑って、でも、それがなんだか何よりの近況報告に思えてしまったことのうれしさよ。寄席というのはすべてが人と人の結びつきだけで出来てる場で、会いたい人にばったり会える奇跡力というのも、ちょっと強めな空間ではとか思ったりして。でも、それもこれも、そんな客席を作ってくださった志らべさんのおかげです。

 ところで。お恥ずかしいことに落語についてまったく無知な私ですが、しかし、小学生の頃にクリスマスだか誕生日になぜだか「こども寄席」という落語全集が欲しくて欲しくてねだって買ってもらったことがあります。これが、各巻、ちゃんと寄席構成になっていて、前座、二つ目、真打ちとあって、「仲入り」は伝統芸や落語関係の職人さんのインタビュー・コーナーだったり、ちょっとしたお作法やルールの解説があったり、本当に面白かった。それで毎日読んで、図書館で落語入門の本なども借りたりして、あの時期は毎日ずっと『こども寄席』読んでました。そして、塾の行き帰りに噺を諳んじたりしておりました。

 それがちょうど小学5年か6年の時でした。そして、私の母校では卒業が近くなると毎日、昼休みごとに何人かのグループが校長室で校長先生と給食を食べることになっていました。校長先生はイラストが特技で、車だん吉風でしたが確かにプロ級の腕前。で、校長先生は給食を食べながらみんなに将来の夢を聞いて、それを色紙に描いてくださって、立派な額に入れて、卒業式の時に全員にプレゼントしてくれるのが恒例になっていたのでした。今になって思えばものすごい大変だっただろうなと思います。

 で、ある日、私も校長室へお邪魔したわけですが。その時にはまっていたのが「こども寄席」だったのです。そして将来の夢を校長先生に聞かれた時、みんながパイロットだお花屋さんだお医者さんだと言うなかで、どうも、なんというか、ひねくれた性格は当時から変わらないというか、その時のことはよく覚えていないのですが、なぜか私はその時に「落語家」と答えた模様。

 今でも実家の片隅には、あんみつ姫みたいなカッコをした落語家のわたくしが高座で口角泡を飛ばしているイラストが飾られている。そう言った瞬間はたぶん本気だったと思います、が、後にも先にもその一瞬の決意でございました。校長先生、ごめんなさい。でも、その時もきっと「なる」とか「なりたい」とは思っていなかったけど「もし、なれたら」ということをずっと考えていたんだと思う。なぜなら、今となってはビックリするような話なのですが、当時、女性の落語家はなぜ「いない」というか「難しい」のかということが『こども寄席』だか付録の冊子でも理由をあげて書かれていて、でも、今は残念ながら女性の噺家は難しいとはいえ、遠い将来、女性も活躍する時代が来るかもしれませんねー……と結ばれていたことをよく覚えている(たぶん子供心に何かしらひっかかるものがあったんだろう)。そのことは折に触れ、しばしば思い出す。しかし、まぁ、確かに当時はそういう時代だったのだろうし、実際、今は女性の噺家さんたちの活躍する時代になっているわけで、まだまだ途上とはいえ、当時から見た今は確実に“未来”なんだなと感慨深い。

 なぜかわからないけれど、子供の頃からいつも「女には向かない職業」に憧れていた。童話のお姫様になりたがるのと同じように、無意識のうちに、ここではないどこかに行く方法を「なれないものになりたがる」という稚拙な空想に代用させていただけなのかもしれない。

 音楽評論家というのも、ま、たしかにその類の職業なわけだしな。

 

 

…………ていうか、むしろこっちかな。 

女には向かない職業1 (創元ライブラリ)

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