Less Than JOURNAL

女には向かない職業

来年のことを言うと鬼が笑いまスマイソン。

 とあるブランドで働く知人に、中国からの爆買いのお客さんにはとにかく「赤」と「金」が人気があると聞いたことがある。それで、欧州ブランドでも最近は中国の顧客を意識したカラーを出したりしていると。以来、気にしてみれば確かにいろんなジャンルで「このブランドにしては珍しいな」と思う赤色や金色を目立たせた限定アイテムがけっこうあることに気づいた。黄色も人気があるようだけど、黄色も金みたいなことで(て、乱暴すぎる?)縁起がよいのでしょうね。貴金属にしてもプラチナよりも金がいい、というのもずいぶん昔に聞いた記憶がある。

 

 それで、ですね。

 

 じゃーん。

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 ま、まぶしい。つか、若作りのスナックのママさんみたいな蛇、みたいです。

 

 これは来年のわたくしのスケジュール帳なのでございます。なんだか、渋谷の地下街にある社交ダンス衣装専門店みたいな煌めきですが……。英国王室御用達ブランド、スマイソンなのですよ。

 20代の頃に初めてロンドンに行った時からスマイソンが大好きで、ここ10年くらいは縁起担ぎというか、一点豪華主義というか、ずっとスケジュール帳はスマイソンにしていて、いろんなサイズとタイプに挑戦した末、近年はいちばんポピュラーなパナマノートというサイズに落ち着いている。確かにちょっとお値段はアレですが、基本的には1年間ずっと肌身離さない持ち物だと思えばささやかな贅沢で、実際にできるかどうかは別としても《自分の時間を粗末にしない》という戒めというか、目標というか、そういう日々になりますように…というお守りがわりの投資だと考えることにしている。

 

 英国王室御用達ブランドというのは、同じものを何年も何十年も何代にもわたって使うという価値観が特徴であり、ラグジュアリーなお値段というのも何十年後でもちゃんと修理いたしますのでご安心くださいませという保証みたいなものであり、単なる流行ものをばんばん消費するのとは違う……とか、そういうエピソードが大好きです(笑)。そしてスマイソンの手帳を使い続けていると、そういう価値観をちょっとだけ疑似体験している気がしてくる。

 まず、そろそろ来年の手帳かなーと思う頃に、英国からものすごく立派なカタログが郵送されてくる。これが単なる手帳のカタログなのに、もう、写真集みたいにきれい。うっとり眺めてしてしまう。貴族といえば鳥貴族しか知らないわたくしも、貴族のマダムになったような気分。で、これはちょっと前の話で、今年はどうだったか忘れてしまったけど、そこに来年の手帳のオーダー用紙が同封されていて、今、私が使っているのと同じ色、形の手帳がすでに印刷されていて、あとはカード番号を書いて返送するだけになっていた。カタログをお送りしましたが、もちろん、お客様は“いつもの”でよろしゅうございますよね?みたいな。この個々のオーダー用紙だけでもけっこうな手間のかかる作業だし、そもそも年間で手帳1冊しか買わない人まで顧客として相手にしてくれるのですよ。映画『ティファニーで朝食を』の最後に出てくる、おもちゃの指輪にうやうやしく名前を彫ってくれるおじさん店員を思い出す。もちろんオンラインでも同様のサービスがある。ちなみに数年前までは、手帳の中にも冬が近づく頃のページに来年の申込用紙が綴じ込まれていた。個人的に、こういう類いのルーティンの美学に何よりも魅了される。なにごとも、冒険が嫌いでルーティンが好きなのだ。

 そんなわけで、本当ならば毎年ずっと同じ色とタイプの手帳を使い続けるのがいちばんエレガントな習慣だとはわかっているが、そこはそこ、貧乏性は庶民の特権、その年その年の気分というのもあるし、毎年「今年は何色にしようかな」と迷うことも楽しみのひとつ。そして、スマイソンもスマイソンで、近年、キャメロン前英国首相の奥様がクリエイティブディレクターになってからはハイブランド路線を進めており、無骨な実用主義だけではないモードな方向で成功している。ので、最近は手帳もポップなのとかキッチュなのとか、NYファッションウィークとか映画とコラボしたやつとかバリエーションが増えてきて、昔ながらの質実剛健実用主義とは違う魅力もある。まぁ、よく言えばモレスキン化、悪くいえばモレスキン化……みたいなことになっているのだが。

 そんなわけでピンクとかグリーンもお洒落で可愛くて、選択肢も広がったのだが、ふと、やっぱりスマイソンはスマイソン然としたものがベストなのでは……とも思い始めていて、昨年は基本中の基本で、スマイソンといえばブルー、のブルーにしてみた。手帳の紙は有名な“ナイル・ブルー”だし、やっぱりスマイソンのブルーは上品でいいなぁとしみじみ思ったものである。

  ところが。「魔がさす」とはこのこと。夏の終わり頃、今年の手帳が発売になりましたよというお知らせメールが届いたのでウェブサイトを見てみたら……あらびっくり!なんと、金色の手帳があるではないですか。いくら世の中がグリッター流行りとはいえ、スマイソンまでこんなにギンギラギンに全然さりげなくない金色の手帳を出すなんて。これもやはり、中国での需要拡大を狙っての戦略なのか? いやいや、もともと華麗なるシノワズリの本場がイギリスなんだから。とか、どうでもいいことをあれこれ考えているうちに、いやー、もしかしたら“金のスマイソン”とかめちゃかっこいいかもー、たまにはハデな手帳もいいかもー……と、つい、自分でも謎のハイテンションになって衝動的にポチってしまった。

 

 そして待つこと数日。

 ちなみに今回、なぜか異常に配送が早かった。買った30分後に「発送しました」メールが来て、たぶん2日後くらい届いた。びっくりした。届くまで、本当に届くかどうかドキドキ待つのも喜びなのです。と、ほとんどSMプレイみたいなことを思っていた頃が懐かしい。そして、包みを開けてまたびっくり。

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 写真で見ていたよりも3倍はハデだった。

 

 この手帳は11月の3週目から始まるので、早く新しい手帳が使いたい派の私は2週目の週末あたりからゆるゆるとスケジュールを移しかえつつ、じわじわと来年に向かってゆくのが慣例になっている。そんなわけで先ほど、箱から出してみたのですが。いやぁ、これ、やっぱりすごいわ。なんというか、照れる。実物をお見せできないのが残念ですが、正直、すごいインパクトなんです。ふつうのゴールドじゃない、ハンパないゴールド。しかも、小口までぐるりと金箔なので(金箔または銀箔は通常仕様)、超ぎんぎんぎらぎら。さらに驚くべきことに、栞紐までゴールドだよ。つまり紙以外、ぜんぶゴールド。

 昔、どう考えても私が着たらコスプレにしか見えないであろうハデハデ服を試着してみたら想像以上にものすごい結果となり、自分でも鏡を見て「コントか!」と大爆笑していたところ、店員さんが「こういうお洋服は、照れたら負けです。自信を持って着ているうちに、似合ってくるものなんです」と励まして(正確には“なぐさめて”)くれたことを思い出した。

 しかし、これも何かのご縁。やはり中国三千年の歴史*1の末裔の人々がこぞって「縁起がいい」と言うのだから、ゴールドの手帳も悪くないに違いない。

 胸をはって、照れずに堂々といけ! というメッセージだと思って、来年はゴールディにキラキラとがんばるわ。

 と、自分を励まし、ちょっと照れながら来年の予定を書き写し始めたらちょっとだけワクワクしてきました。まだ気恥ずかしさはたっぷりありますが(#^_^#)。

 来年の手帳で、来年の抱負。気が早いなとは思いつつ、しかし、1か月後の今日あたりはもう「ちょ、来週もうクリスマスかよっ!」とか言っていて、そうこうするうちに2019年になっているのですよ。1日1日、自分の時間を大切にしなければ!

 

 

 

*1:子供の頃そういう風に教わったが、最近では四千年とか六千年と言われているらしい。結局、何千年なのかなとヤフー知恵袋を見てみたら“結局、中国は何千年なんですか?”という質問がありました。