Less Than JOURNAL

女には向かない職業

吾輩は万年筆。名前はまだない。

先日、テレビで北方謙三先生が愛用のモンブランをずらっと並べて紹介しておられた。北方先生といえば、今はなき中上、開高と並ぶ“日本3大モンブラン文豪”のおひとりとして有名ですが(※個人の感想)。なんと、先生は大切なモンブランにはお名前をつけているのだそう。武蔵とか、サム・スペードとか呼んでらっしゃるんですね。いやー、カッコよすぎます。さすがです。執筆活動の相棒に名前。なんというハードボイルド。

 

これは…………真似したい。

 

俺のモンブランにも名前をつけよう。

 

 

名前をつけてやる

 

 

わたくしも長年の相棒はモンブラン、マイスターシュテック146。ちょこちょこ休ませながら、リペアしながら30年近く活躍中。いろいろ使ってはいるものの、結局、自分にとってのスタンダードはこれだなー。

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決めた。やっぱり、名前はこれしかない。

落合博満

 

ちなみに、みなさんは店頭でペンの試し書きをする時にギザギザとかマルマルとかグリグリの他に何を書きますか。私は必ず「落合博満」と書きます。ええ、たとえ対面販売で気まずくても。なので、そういう意味でも「落合博満」という命名は道理にかなっている。ただし、日常、その万年筆をどう呼ぶかはちょっと悩んだ(おそらく、実際に呼ぶ機会などないが)。北方先生にならえば“相棒”なわけだから「落合さん」では他人行儀すぎるし、相棒は「監督」でもない。ということで、暫定措置として、信子夫人が「落合はね」と語るように「落合」と呼ぶことにした。や、これはあくまで人間ではなく同姓同名の万年筆ですからね。三冠王を呼び捨ててるわけではないです、念のため。

 

ちなみに、今、ふだん活躍しているのはこの2本。

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最近またセルロイドがマイブームで、夏頃からずっとこの2本をメインで使っている。下のワイン色マーブルは、伝説のカトウセイサクショカンパニーのもの。手に入れた頃はちょっと渋すぎるかなーと思ったけど、今はすごくしっくりくる。上の“金魚”と呼ばれる柄は、カトウセイサクショの流れをくむとされる大西製作所のもの。写真が暗くてよく見えないけど、素材もフォルムも本当に美しい。愛しい。

 

そんなわけで、すでにもう、じゅうぶんに万年筆コレクションは完成しているのです。質、量ともに。世間は第何次かの万年筆ブームらしいんですけど、もう、そういうブームにも興味がない。最近は同じペンをずっと使って、インクも決まった銘柄のブルーとブルーブラックを使い続けていて、もはや「書く」という環境に不満はない。

 

とはいえ、やっぱり次々と素敵な万年筆が生まれて、いやでも目に入ってきますからねー。時々、伊東屋やら旅先やら催事やらでフラフラッと誘惑に負けそうにはなるんですが……。

 

そんな時には、落合がこう言うんですよ。

 

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て。

(野球わからないと全然わからないネタでごめんなさい)

 

おっしゃるとおり。

やっぱり同姓同名だけあって、この万年筆も相棒というより監督かも知れん。

まぁ、確かに、すでに100万年分くらいの万年筆を持ち、子供のプールくらいのインクを消費してきたわけですから。正直、獲得はしたものの試合に出る機会がない二軍選手もいるし、出番を待っている優秀な万年筆がたくさんいるわけで。

そろそろ、現有戦力だけで生涯やってゆけそうな気はする。

 

だけど、あと1本。あと1本だけ、どうしても欲しい万年筆があったんです。

 

ただ、幸か不幸か、そうそう簡単には買えない稀覯のお品なので「いつかご縁があったら」くらいの気持ちでおりました。そしたら、ご縁があったんですよ。

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ずずずん。

ああ、強く願っていれば夢は向こうから歩いてくるってほんとだな。たまたま、わりと近くで催事がありました。そして、我が家にやって来ました。今をときめく香川県高松市の工房、helicoさんのシュクル万年筆。シュクル(sucre)というのは、フランス語の《砂糖》から。若き職人がアクリル樹脂などを削り出して1本ずつハンドメイドする、小さな芸術品。不思議な形のミニ万年筆。

 

先ほどは「あと1本だけ欲しいのが…」とは書きましたが。

見てのとおり2本。拙宅にお連れいたしましたー。

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どうしても1本だけに決められませんでした。

まー、クリスマスだし。

年末ちょっとがんばったしねー。

こんな機会はめったにないしー。

と、いろいろ心で言い訳をしながら、店頭にてしばし悶絶しながら試し書き。

しかし、モノが何であるかは関係なく、こんな悩みは久しぶりだったなー。最近はもう、レコードは別として、こういう道楽ジャンルの物欲という感覚を忘れてたよ。ときめいたわー。新鮮。散財は罪だが、ときめきは大事だわー。クレジットカード出す時、めちゃアドレナリン出たもの。昔、欲しい中古レコード見つけた時とか、バカみたいにたくさん買った時とか、帰りに純喫茶に寄って買ったもの眺めながらひとりでお茶する時間が何よりも幸せだった。早く家に帰ってレコード聴けばいいのに、なぜか喫茶店に寄りたくなる不思議ー。今日も、一刻も早く帰宅してインク入れたいのに、上島珈琲寄って万年筆眺めながらお茶しちゃったよ。

 

きゃーかわいいーー。

 

グリーンに、オレンジがほどよく混じってるマーブル模様は60'sぽくもあり、ウルトラQっぽくもあり。綺麗ー。

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ここんとこ毎晩、シーズン2の配信が始まった『マーベラス・ミセス・メイゼル』を見ているせいか、この、モードなレッド&ピンクの配色に逆らえない自分がいました。こちらは、50'sのリップスティックみたい。

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ものすごく小さくてかわいいんですけど、使う時にネジ式キャップを本体のおしりにつけるとしっかりした長さのある太軸ペンになります。そして、とても書きやすい。芸術的だけど、機能的。今使っているセルロイド万年筆もそうだけど、装飾品じゃなくて実用品として美しい……という万年筆が私は好きです。宝飾品みたいなペンには興味なくて、美しいけれど自分の日常生活の中でも居心地悪そうじゃないペンが好き。今日は、シュクル万年筆の他にも欅や漆を使ったロングタイプのペンなどひととおり、初めて見るので片っ端から実際に手にとって見せていただいたのだけれども。軸を持った時の感覚も本当によく考えられている設計で素敵だった。

 

というわけで、現時点、稼働中の万年筆が5本になってしまった。

 

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ペンは5本、手はひとつ。ああ、どれかにしばし休暇を与えなければ。

が、しかし、どれも愛しい。

暮れは万年筆洗ったり干したりインク入れたりして過ごそう。楽しみだ。

 

てか、その前に落合博満以外の万年筆にも名前をつけねば!

 

 

決断=実行

決断=実行