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女には向かない職業

クリスマスLIVE FROM HEREまつり/All I Want For Christmas Is "LIVE FROM HERE"

米国時間の22日(土)夜(日本では翌日曜の朝)、クリス・シーリーがホストを務めるNPRのラジオ番組『LIVE FROM HERE』の公開収録がNYのタウン・ホールでおこなわれた。

 

前身の『プレイリー・ホーム・コンパニオン』の二代目MCに抜擢されてからは別名“ノンサッチ・アワー”とでも呼びたいようなノンサッチまたはノンサッチの友人またはノンサッチに来たらいいのになーというミュージシャンたちがゲストやホストバンドのメンバーとして毎週登場、もう、こんなにツボにはまっていいのかしらと思うくらい、“私の知りたい米国音楽”の今がみっちり詰まった玉手箱のような番組になった。

当初、いわゆる新旧アメリカーナ系やノンサッチ系の顔ぶれが中心になってシーリーと合奏するのかなと思っていたら、パンチ・ブラザーズやレイク・ストリート・ダイブと同じようにヒラリー・ハーンヨーヨー・マもゲストとして登場。ポール・サイモンがパンチ兄弟をバックに従え「リストバンド」のワールド・プレミアを披露したこともある。

個人的には、シーリーがクラシカル系のミュージシャンと嬉しそうに共演するのが何より楽しみ。彼がクラシックのどういうポイントに魅了されているのかがよくわかるし、他の音楽と並列に置かれることによって、新しい世代のクラシック音楽というものが非常にわかりやすく見えてくることもある。この番組が始まったばかりの頃のことは拙著『アメクラ♪』にもちょこっと書いたのだが、最近、あの本と番組がどんどんリンクしてくるような気がするのは決して妄想だけとは言い切れない気がするし(笑)、そもそも『LIVE FROM HERE』がやろうとしていることを何とか拙い語彙で説明しようと悪あがいた本が『アメクラ♪』だったのかもしれない。

 

そんな私にとって今回の『LIVE FROM HERE』はあまりにも凄かった。

ので、以下、自分メモなんですけど。忘れないうちに書き留めておく。

 

なんたってゲストがロザンヌ・キャッシュ、コメディアンのジム・ブリューア、ギャビー・モレノ独立記念日ヴァン・ダイク・パークスと出したシングルは今年のマイ・ベスト)、そしてザ・ナイツ

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いやぁぁぁぁ、ついに来た。いつか来るかと思っていたけど、いよいよザ・ナイツがやってきた。

 

ヤホーで調べてみたほうのナイツではなく、シンガーソングライターでもあるヴァイオリニストのクリスティナ・コーティンや、yMusicのアレックス・ソップも擁する、ニューヨークをベースに活動する若手チェンバー・オーケストラのThe Knights。90年代、コリン(ヴァイオリン、作曲)とエリック(チェロ、指揮)のジェイコブセン兄弟によって創設された、今、アメリカでいちばんキレッキレでカッコいいオーケストラ。詳しくは『アメクラ♪』をお読みいただければ(しつこくてすんません)。

 

ベートーヴェンからバルトーク、現代の若手作曲家作品まで得意ジャンルも幅広い、まごうことなき正統派クラシカル・オーケストラ。だが、メンバーそれぞれスフィアン・スティーヴンスやルーファス・ウェインライト、ザ・ナショナルなどポップ・ミュージックのアーティストとのコラボレーションも数多い。で、さらにアメリカーナ的にわかりやすく説明すると、現在、米オーランド響の音楽監督でもある指揮者/チェロ奏者のエリック・ジェイコブセンは、シンガー・ソングライターでありI'M WITH HERのメンバーでもある(&番組にもしょっちゅう登場している)イーファ・オドノヴァンの夫でもある。エリックさんはヨーヨー・マの薫陶を受け、シルクロード・アンサンブルではマ先輩の隣で演奏している。ほら、ここでイーファがゲスト・ヴォーカリストとして参加したゴートロデオ・セッションズともつながる!

 

で、とりいそぎ、本日のライヴ映像はこちら。

以前は、番組まるごとストリーミング配信映像を見られるのはの生中継時の一度限りだったが、最近は次回の収録までの間だけ何度でもYouTube(と公式サイト)で見られるようになった。その後で編集された曲ごとのクリップがアップされるが、この収録全編バージョンでは放送前のウォーミングアップから、収録後に観客へのサービスでおこなわれるボーナス・ライブまで全部入っている。ものすごい気前がいい番組です。今回は全編バージョンもめちゃ素晴らしかったのでお早めにどうぞ。30日までは見られるはず。

【追記12/24】と、思っていたら、朝になったら全編バージョンはもう視聴できなくなっていました。なので、演奏を1曲ずつバラしたクリップ映像を本文中にリンクしてゆきます。そっちのほうが、曲目チェックしながら見やすいかもしれないし。映像は順次アップされてゆくので、追加映像あり次第どんどん追加していきます。なお、現時点でオーディオ版は全編聴けます!

 

【公式サイト】

 オーディオ・バージョンのほうは、この後も公式サイトのアーカイヴ・ページから聴くことができます。ただし、こちらはラジオ番組本編なので映像全編バージョンより短いです。

↓↓映像、オーディオ、スクリプト、アーカイヴ、ポッドキャストなどなど、番組に至るすべての道についてのご案内。

www.livefromhere.org

 

まぁ、しかし本当に毎回、毎回よくぞこれだけたくさんのいろんな時代、ジャンルの曲を演れるもんだーと思うのだけれど、リハーサルや収録後を入れるとさらに多くの曲を演奏しているわけで、この番組のハウスバンド、ホントにとてつもない腕きき集団です。最近はパンチ・ブラザーズで今年いちばん覚醒した男といわれるクリス・エルドリッジくんもアコギのみならずエレキだの歌だのでも大活躍。

 

抜けてるところや正しくないところもあるかと思いますが、いちお全体の流れをざっとご紹介しておきます。曲名は公式サイトでも確認できると思いますが、とりあえず自分メモなのでざっくりでごめんなさい。でも、ざっくりでもどっさりよー。

 

■ウォーミング・アップのコーナーbyハウスバンド&モレノ

●「ビデオテープ」(レディオヘッド)シーリー

●「オー・ホーリー・ナイト」モレノ

●「オール・スルー・ザ・ナイト」シーリー

※「オール・スルー・ザ・ナイト」は賛美歌ですが、ヨーヨー・マのアルバム『ヨーヨー・マ&フレンズ』(2008年)の中でヨーヨー、エドガー・メイヤー&シーリーという後の“バッハ・トリオ”編成で演奏した思い出の曲。番組ではいちばん最後に場内大合唱するため、ここではシーリーが観客に合唱指導(笑)。


【本編】

●オープニング「ブランデンブルグ協奏曲」(バッハ)シーリー&バンド

クリスマス・ソングモンタージュ

 

●「メリー・クリスマス・フロム・ララミー」(シーリー)シーリー

※毎回、シーリーが番組のために新たなオリジナル曲を披露。昨年、その曲たちを集めたソロ・アルバム『Thank You For Listening』も発表した。

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Thanks for Listening

Thanks for Listening

 

 

●「交響曲5番アレグロ」(モーツァルト)ザ・ナイツ

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※シーリーが“グレイテスト・プレジャー・トゥ・イントロデュース”と紹介したザ・ナイツ、いきなりモーツァルト。NYタウンホールで、フィーリン・グルーヴィーなモーツァルト。最高にかっこいい。そして、ポスト・ロックの人みたいなEJいかす!


●「ペセス・エン・エル・レノ」ギャビー・モレノ

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●「ワン・ウィンターズ・ナイト/スレッド・ライディン」(マーク・オコナー)シーリー&バンド&ザ・ナイツ

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※美しすぎて死ぬかと思った!

 

●「シー・リメンバーズ・エヴリシング」ロザンヌ・キャッシュ

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●「ジ・オンリー・シング・ワース・ファイティング・フォー」ロザンヌ・キャッシュ

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●「ジス・クリスマス」(ダニー・ハサウェイモレノ&シーリー

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●「2つのバイオリンのための協奏曲」(バッハ)シーリー&バンド&ザ・ナイツ

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※ロザンヌ・キャッシュからのダニー・ハサウェイからのバッハ!この並びこそが『LIVE FROM HERE』の醍醐味。バッハは、コリン・ジェイコブセンのヴァイオリンとシーリーのマンドリンをフィーチャー。オーケストラのモダンなグルーヴあってこその、ヴァイオリンとマンドリンの美しき融和。素晴らしかった。

 

〜インターミッション〜「レット・イット・スノウ」をハウスバンドの演奏で。


●「エヴリワン・バット・ミー」ロザンヌ・キャッシュ with ザ・ナイツ

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※ロザンヌ・キャッシュとザ・ナイツ!オレ、アメ泣き!

 

●ジム・ブルワーのスタンダップ・コメディ

 

■Musician Birthdays

その週に誕生日を迎えたミュージシャンの曲をとりあげて讃える、という単純なようでいてとんでもなくレベル高すぎるトリビュートコーナー。今週はエディット・ピアフビージーズ、プロフェッサー・ロングヘア、シーア、ベートーヴェン……(*゜∀゜)。ちなみに、初メジャー・アルバムは意外とまっとうに(?)ベートーヴェン交響曲5番だったザ・ナイツ。あと、モレノ&シーリーのビージーズはかなり似ていて感動。

〜今週のお誕生日ミュージシャン〜

エディット・ピアフ「パダム・パダム」モレノ
ビージーズ「ナイト・フィーヴァー」モレノ&シーリー
プロフェッサー・ロングヘア「ティピティーナ」シーリー
シーア「シャンデリア」モレノ
ベートーヴェン交響曲7番2楽章アレグレット」ザ・ナイツ

【Musician Birthdays】

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●「ライナス&ルーシー」(ヴィンス・ガラルディ)シーリー&バンド

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※今回は合間、合間にゲストがクリスマスの思い出を語ったり、もちろん賛美歌やクリスマス・ソングもたっぷり。なかでも、いちばん印象的だったのがこの曲。『ピーナッツ』でみんながダンスしているクリスマス・パーティの場面でおなじみだが、間奏でいきなりタコ踊りを始めるシーリーも必見。いや、タコ踊りではないのだけれど。ものすごい勢いで踊り、大ウケ。この曲がいかにアメリカの子どもたちにとって大事な曲なのかをあらためてしみじみ。


●「God Rest Ye Merry Gentlemen」ロザンヌ・キャッシュ&シーリー

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●朗読:"Where Are the Stars Pristine?"クレア・コフィー

※ここで、シーリーの奥様のクレア・コフィーがサプライズ登場。ドラマ『GRIMM/グリム』の魔女アダリンド役などで有名な女優さん。

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●「アセンディング・バード」(ジェイコブセン他)ザ・ナイツ

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※ザ・ナイツ、そしてシルクロード・アンサンブルでもレパートリーとして演奏されている。ヴァイオリンのコリン・ジェイコブセンが作曲も手がけている。この曲を聴くとザ・ナイツが、ジャンルは違えどもパンチ・ブラザーズとの親和性が高いオーケストラだということがよくわかる。「きっちり譜面どおり」の演奏だからといって、誰が演奏してもいい……ということではない。うまければいい、ということでもない。

クラシックにも“今”の響きを求める面白さを、シーリーはものすごくよくわかっているんだなぁ。だからこそのカーネギー・ホールでのコンポーザー・チェアなのだな……ということも、この番組にクラシカル系ゲストが登場するたびに思い知らされる。ここではオーケストラ、シーリー、そしてドラムまで入っちゃって、もう、とてつもない合奏が繰り広げられる。シーリーも、タコ踊りしてる時とは別人のようにクールで緊張感あふるる表情。これ、CD化してほしいくらいだ。

 ナイツかっけぇぇぇぇぇぇぇーーーーー!

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●「オール・スルー・ザ・ナイト」シーリー&モレノ&バンド、ザ・ナイツ

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■終演後
ここでお帰りになるお客さんも多いが、そのまま残っている人たちのために……というか本人たちのクールダウン用とも思える楽しいボーナス・セッション。この日は熱狂のクリスマス・ソング大会。ある意味、本編よりもここからが凄い!ともいえる。ウロ覚え曲もオッケー、お客さんからリクエストを募りつつ賛美歌からワム!まで歌いまくり。とにかく、ギャビーさんがすごい。他のメンバーがあまり把握できていなかったにもかかわらずマライアの「恋人たちのクリスマス」を歌い回しまで完璧に熱唱。個人的にはチップマンクスのクリスマス・ソングがたまりません。モレノさんのアルヴィンも見事だったし、デイヴ役シーリーの「アールヴィーーーン!」も笑ったが、何よりもバックでクリス・エルドリッジが遠慮がちにサイモン?セオドア?役をチップマンクス声で歌っているのを見つけて胸が熱くならないパンチ兄弟ファンはいないだろう。

【参考アルバム】

ゴリホフ:チェロ協奏曲「アズール」

「アセンディング・バード」収録のエリック・ジェイコブセン&ザ・ナイツの名盤。

ヨーヨー・マのために書かれたゴリホフ「Azul」、スフィアン・スティーヴンスの『“ラン・ラビット・ラン”組曲』など。

 

↓アルバムのメイキング映像。

 

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【参考本】しつこくてすんません。でも、ザ・ナイツのことが書いてあるクラシックの本ってこれしかないんですー。あと、クリス・シーリーとクラシック音楽について書いてある本もこれしかないんですー。本当なんですー(笑)。

アメクラ! アメリカン・クラシックのススメ  ポップ・ミュージック・ファンのための新しいクラシック音楽案内

 

SHE REMEMBERS EVERYTHI

 そして、この11月にブルーノートからリリースされたロザンヌ・キャッシュさんのニュー・アルバム。Tボーン・バーネットエルヴィス・コステロクリス・クリストファーソンらが参加。ルーツ・ミュージックという伝統を抱えつつもオリジナリティを追求してきたロザンヌさんの冒険が、“グレイト・アメリカン・ソングブック”的な視点によって結実した好盤っす。押忍。