Less Than JOURNAL

女には向かない職業

ケロヨンのクリスマス

昔から、本当にクリスマスが苦手だ。

クリスマス・ソングが爆音で流れる恵比寿駅前でパニック発作を起こしたこともあるくらいで、まじでシャレにならないレベルで苦手なのだが。この商売をやっているとなかなかそんなことも言っていられないので……というか、クリスマス・ソングの名曲も多いので、できればそういうものは楽しみたい気持ちもあるし、ま、なるべくイヤなことは気にしないようにして、つとめて楽しくやり過ごすようにしている。若い頃は、クリスマスが嫌いだと素直に言うのはなかなか勇気のいることだった。今は、別にそんなこともないけれど、ま、それでもダメな時はダメだし、積極的にクリスマスが楽しかったこともないので、たぶんずっとこのままなのだろう。なんで苦手なのかはいくら考えてもハッキリと理由がわからなくて、ふつうに街の喧騒が嫌いなだけかもしれないし、ひょっとしたらクリスマスっつーか、年末の“終わってゆく感”の寂しさがいやだとか、人々の解放された様子が妬ましいとか……そういうことかな、とも思っていた。

 

が、もしかしたら、その理由はクリスマスの原体験にあるのかもしれない。

クリスマスのムードというものがいつの時代も音楽に左右されるのだとしたら、おそらく私の場合、初めてのクリスマス・ソング=ハジクリ・ソングが後の人生に与えた影響は少なからずあるはずだ。

 

先日、幼稚園の頃(ひょっとしたらそれ以前からかも)よく聴いていたクリスマス・ソングのことをふと思い出し、ネットで検索してみた。さすがにSpotifyにはなかったけれども、なんとYouTubeにアップしてくださっている方がいた。

 

ありがとうございます。インターネットに感謝。

 

これが私のハジクリ・ソングです。


ケロヨンのクリスマス wav

 

ケーロヨーーーン!

いやー、これです。まさにこれ。

おそらく60年代後半と思われますが、このピクチャー・ディスクを持っていた。

この映像でも後半に登場するけれど、B面は「ケロヨンのジングルベル」。しかし、この時代にこういうピクチャー・ディスクというのは、かなり珍しかったのではないだろうか。他に持ってたのはほとんどソノシートだったこともあって、よほどよく眺めていたのだろう、盤だけでなく外袋のことまでよく覚えている。このレコードをプラスチック製の自分用ポータブル・プレイヤーで、毎日毎日かけていた。

 

曲そのものは記憶だけでも歌詞もかなりちゃんと覚えていた……のだが、歌声とか音像というのはやはり子供なりの理解力で簡略化された記憶しかない。で、今、実際に聴いてみてたまげた。この曲、記憶以上にすごい。とにかく、ケロヨンがすごい。

ケロヨンの声というのは、なんとなくチップマンクス的な“かわいい小動物キャラ”のイメージがあったのだが、違った。まったくかわいくない。

「やほー、メリークリスマース。ケーロヨーーン。さあ、それじゃあーねー、みんなでぼくといっしょにクリスマスの歌を歌おうねー」

という冒頭の台詞が、いきなり「泥酔した板東英二」にしか聞こえない! つか、もう少し正直に言うならば、ラリってるオッサンみたいな声。ものすごい破壊力。

おそるべし、昭和。こんなかわいくないキャラが、子供たちの人気者だったとは。

そして、おねえさんが歌っている背後でオブリでも何でもなく自由気ままに「ケーロヨーン」「ケーロヨーン」と合いの手を入れる。あえてたとえるならヒデとロザンナの♪アモーレーアモーレミオーみたいではある。いや、そんなことないか。

 そりゃ、子供にはインパクト強すぎますって。

作曲は、木馬座作品の多くを手がけていたいずみたくさんと思われる。自らねだって買ってもらった記憶はないが、当時、父がいずみたくさんの会社にお世話になっていたので、その関係での社販だかいただきものだったのかもしれない。この曲もたしかに曲はポップでキャッチー、鈴の音や間奏での流麗なストリングスなどはゴージャスで美しく、正統派クリスマス・ソングジュブナイル化という体裁。B面もしかりで、完成度高し。が、それなのに、初めて聴いた日からおよそ半世紀のち、ついに私は知ったのだ。この曲が後の人生におけるトラウマになってもおかしくないほど、いかに強烈なインパクトだったかということ。それが“トラウマ”と呼ぶべきものなのか、あるいは単に“初めて見たものを親と思う”ということなのかはわからない。だが、いずれにせよ、私のクリスマス・ソング観というものが出発点からしてかなり独特なものだったことは間違いないようだ。

 

そもそも本来なら有名なスタンダードであるB面のほうが記憶に残っていてもいいはずなのに、今回、そういえば「ジングルベル」だったと思い出したくらいで、とにかくA面のことしか覚えていなかった。こんな強烈な曲を毎日毎日聴いていて、よく夜ひとりでおしっこに行けたものだなと思うけれど。大好きだったんです。本当に。たぶんクリスマス・シーズンだけじゃなくて春も夏も聴いてたんじゃないかと。クルクル回るピクチャーディスクのケロヨンをずっと眺めていた3歳だか4歳だか5歳の自分を今でも覚えている。て、なんか、 やってること50年ずっと変わらないんですね。てことは、死ぬまで変わらないんでしょうね。

 

この「ケロヨンのクリスマス/ケロヨンのジングルベル」も収録されたコンピレーション『ケロヨン・ソングブック』が2002年にリリースされている。

ケロヨン・ソングブック‐木馬座レコードの世界‐

 

07年に発売された藤城清治DVDボックスのトレイラーによれば、映画『ケロヨンのぼうけん』(1967年)は日本で初めての等身大ぬいぐるみ劇による映画だそう。

www.youtube.com

 

ゆるキャラ」とか「きもカワ」とか、もう半世紀も前にすべてケロヨンがやってたんですね。ゆるキャラがレコード出すのだって、ケロヨンが先駆者。ケロヨンすげー。

 

そして最近はTwitterも始めたりと、今も現役バリバリ活躍中のケロヨン。藤城先生も94歳にして、精力的に創作活動を続けている。那須にある藤城清治美術館も、いちど訪れてみたいです。ちなみにこちらのシルバー割引は藤城先生の年齢に合わせて、毎年1歳ずつあがっているそうで現在は94歳以上(高っ!)。ロックンロールだ。

 

それではみなさん、よいクリスマスを。

♪メリークリスマスおめでとう!

バッハハーイ!