Less Than JOURNAL

女には向かない職業

Amazon Prime《ロマノフ家の末裔〜それぞれの人生》シーズン1-1

         f:id:LessThanZero:20190118034438j:plain

 

『マッドメン』のマシュー・ワイナーが製作/演出、他にもマッドメン・チームが再結集したAmazon Primeの新シリーズ『ロマノフ家の末裔〜それぞれの人生〜』の配信が始まったので、今はまだダメよ、ダメダメ、今月の宿題が全部終わったらゆっくりと……と楽しみにしていたのだが、やっぱり辛抱たまらず。

第一話『ヴァイオレット・アワー』を今、観てしまいました。

なので反省文がわりに、感想文を書きます(笑)。

 

ヴァイオレット・アワー

 

  このシリーズは自らをロマノフ家の末裔と信じる人々を主人公に、さまざまな土地での彼らの生活を描く一話完結のオムニバス・ドラマ。シーズン1は全8話なのだが、それぞれ1時間超(第一話は1時間24分)の長さで、第一話を観た限りでは脚本も映像も『マッドメン』同様に映画ばりの充実したクオリティ。配信が始まったばかりで、まったく前知識もなく、泣けるのか笑えるのかしらけるのかもわからないまま見始めたのだけれど、ある意味、物語としては『マッドメン』とは対照的なのかもしれない予感。まだ1話だけなので何とも言えませんが。トミー・リー・ジョーンズの『BOSS』CMのほっこり感を、ハリウッド超大作映画で表現したような温もりが心地よかった。

 

 そして、やっぱり音楽の使い方の巧さがさすが!

 映像と音楽の組合せ方がもう、“そのチェックのパンツとチェックのシャツを組み合わせてカッコいいのは地球上で藤井フミヤひとりでしょう”的な絶妙さ。

 幽閉されたロマノフ家最後の一族が銃殺される歴史再現ドラマのような場面から始まるというショッキングなオープニング、そこにトム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズの「Refugee」が重なってくるオープニングからしてもう、『マッドメン』の不吉なオープニングと意表を突く選曲で唸らせるエンディングのカッコよさを足したみたいだ。そして、本編が始まると、音楽がトム・ペティからねっとり濃厚なラフマニノフのピアノ協奏曲へと切り替わり、場面は今回の舞台、ロマノフ家の末裔だと名乗る老婦人の主人公が暮らす現代パリのクラシカルで豪奢なアパートメントへ……。見事。

 

 ラフマニノフはその後も全編にわたって大活躍するが、先日読響で聴いたばかりのリムスキー=コルサコフシェエラザード』が第一話ではとても重要な使われ方をする。詳しく説明するとネタバレになるので書かないけれど、自分勝手な暴君に美しく聡明な妃が夜ごと物語を語って聞かせる『千夜一夜物語』を、暴君=管弦、妃=ヴァイオリン・ソロに見立てた『シェエラザード』がドラマの中で示唆とか暗喩のように実にうまく使われているのだ。いかにもわかりやすくベタベタな歌謡ドラマ風の使われ方ではないのだけれど。かといって、ただ場面に合うフレーズを見繕ってBGMに使っているわけでもない。しつこいけど、さすがのマシュー・ワイナー。

 そういえばジョン・アダムズが、世界中でさまざまな困難に立ち向かう女性たちを主人公にした現代版『千夜一夜物語』とでもいうべき新作『シェエラザード.2』を書いたきっかけは、パリのアラブ世界研究所での『千夜一夜物語』展を観たことだったな……なんてことも思い出したりして。

 

ジョン・アダムズ:シェヘラザード.2

ジョン・アダムズ:シェヘラザード.2

 

 

 テーマも時代も登場人物たちも違うけれど、『マッドメン』好きには“そうそうそう、この感じ!”というデジャブ感満載の映像。たぶん、そうとうお金かかってますわなー。アパートメントの家具や小道具ひとつひとつも、これから何度観ても飽きないくらい細かく凝りまくってそう。衣装も言うまでもなく最高で、そのディテールや着こなしから登場人物それぞれの背後にある人生や生き方すら透けて見えてくるよう。主人公のオバサマの、カトリーヌ・ドヌーブばりのパリマダムなファッションがカッコよかったなぁ。ガンコでワガママな老マダムが着るド・ピンクのボレロ+ワンピースがどんだけイカしているかを学びました。世界各国いろいろな場所が舞台になるというので、いやー、楽しみだな。毎エピソード、目が皿必至です。 

 そんなわけで早く第2話以降も観たいけれど、1話観ちゃったのであと7話で終わりかー、と、今から淋しくなったり。