Less Than JOURNAL

女には向かない職業

テープ起こし。

 その昔、レコーディング・スタジオでは“Rollin'”というかけ声が録音開始の合図でした。言うまでもなく、それはアナログ・テープレコーダーを「回す」という意味。でも、でも、デジタル時代の今でも、ブライアン・ウィルソンは若い頃からやってきたのと同じように「Rollin'!」と言うそうです。

 

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 たぶん、こんなイメージ。

 ドヤ顔で「Rollin'!」。

 カッコいいです。ブライアンの中ではテープが回り始めるのでしょうね。

 

 ところで、私どもの仕事では、インタビューした音声を文字に起こすことを“インタビュー起こし”とか“文字起こし”と言います。が、昭和のおにいさん・おねえさん同士で会話をしていると、つい昔の習慣で“テープ起こし”と言ってしまうことが多々あります。それはやっぱりブライアンの“Rollin'!”同様、カセットテープでインタビューを録音していた時代に使われていた言葉の名残りです。

 

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 はっ! ついつい被写体につられて写真まで昭和セピア!


 思い出写真じゃないんです、さっき撮った近影ですよ。

 

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 これ。懐かしいと思われる方も多いかもしれません。昔は、多くの人が取材に使っていたソニーのテレコ。ミュージシャンの中にも、ひらめいたメロディーを鼻歌で吹き込むために同じテレコを持ち歩いている人、けっこう多かったです。


 しかーし。平成も終わろうとしている今や、私のまわりでインタビューをカセットテレコで録音している人は見たことがありません。ええ、私以外は。みんながICレコーダーに買い換えた時期に意地を張ってカセット派を貫いてみたら、みるみる乗り遅れてしまった……とゆーのもあるのですが。なんか、もともと、くるくる回っていないと落ち着かない性格みたいです。

そんなわけで、76歳のブライアンよろしく「Rollin'!」つってインタビューしてきたわけです。どうしてもどうしても、カセットテープが好きなんです。仕事の可視化とでも申しますか、「ここに録音されてますよー」というモノが目に見えていることの安心感がある物質主義者でごめんなさい。

 でも、このテレコ、今はもう(少なくとも)日本では買えなくて、すごいプレミア価格がついてしまっております。これがなくなったらどうしよう、と、もう何年も前から思っていました。最終的には5千円くらいまで安くなった普及品とは思えないほど、フラットマイクが本当に優秀。私の中では、イッツアソニーのチャンピオンといえばウォークマンよりVAIOよりも、このテレコだと思う。それくらい素晴らしかった。今後のことを考えて似たような無名メーカー品もいくつか試したものの、その性能はまったく比較にならない。なので、もう、このテレコ壊れたらもうインタビューの仕事は引き受けるのやめますとまで宣言しておりました。録音だけならまだiPhoneのアプリでもICレコーダーでもいいんだけど、録音を文字に起こす時はカセットテレコじゃないと絶対ダメなんですよ……と、ずっと思ってたのです。

 ところが。2019年、新春。年末のインタビューを文字起こししようと思ったら、あら、なんか様子がヘン。そろそろマイクの老化が激しく、静かな場所での取材だったにも関わらずざわざわと雑音が多すぎて非常に聞き取りづらい。やばい。これはもう、そろそろあかんわ。引退か。と、思い、仕方ないのでふだんセーフティとして同時に録音しているiPhoneアプリのほうの音声を聞いたら、これがもう、まるで別の音源かと思うくらいクリアで聞きやすい。しかも、その録音アプリ、編集者が使ってるのを真似したALON Dictaphoneってやつなんですけど、倍速再生のピッチも多少コントロールしてくれて文字起こしがとてもやりやすい。そして何よりも、ちょっと自慢はいっちゃいますけど(#^_^#)、iPhoneのカセットとの違いはアップル・ウォッチで再生←→ポーズ&巻き戻しができること!

 

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いやー、超便利。ナウーー。

ホントに、なんで今までカセットなんか使ってたんでしょう。
とか、いきなり掌返しちゃいたくなるくらい快適。

インタビュー起こしの手間も意外にも、自分の中で絶対にいちばん早いと思ってたカセットより断然早くて能率アップ。

 嗚呼。まさかのカセット・ブームになる2年くらい前までは、アイドルさんに「これ、なんですか?へー、おもしろーい」とテレコを指さされていた私が、ビックカメラで「あの、カセットテープはどこに売ってますか?」と訊ねて「はぁ?」という顔の店員さん3人くらいタライ回しされたあげくベテラン主任が教えてくれた売場に行ってみるとカラオケ教室用の10分テープしか売っていなかったことも1度や2度ではない私が、今、アッポー電話のアプリで録音したインタビューを、アッポーウォッチで止めたり進めたりしながら起こしているよ。かっこいいー。この姿、年末にカセットをキュルキュル巻き戻していた私に見せてあげたい。いやー、こんなこと、あまりにもどうでもいいことはわかっています。が、今、昭和の人から突然、未来人になったくらいの自らの進化に超テンションあがっております。平成最後の年に、私もいよいよIT革命。て、今ごろかよ!