Less Than JOURNAL

女には向かない職業

おしえて君からの手紙

 もう10年以上前、取材のため、とあるアメリカ人プロデューサーが所有するプライベートスタジオを訪ねた。そこは本当に居心地のよいオールドアメリカンハウス風一軒家で、とても素敵なラウンジがあった。

プ「この家具はMC5のメンバーが作ったんだ」
私「へー、そんな特技があるなんて!」
プ「刑務所で覚えたんだって」
私「……………………」

 ホントなのか、からかわれたのかはわかりませんが。そんな素敵なラウンジで、プロデューサーがひと仕事を終えるまでの時間つぶしをすることになった。テーブルにはビルボードなどの音楽誌と一緒に、自主制作というか製本クリップで簡単に綴じたような本があった。ヒマつぶし用に人気があるのか、けっこうポロボロになっていた。で、手にとってみると、たいそう面白くて。時間の経つのも忘れて読みふけってしまった。
 それは全米のいろんな企業や団体、お役所に送った「ありもしないクレーム」の手紙と、それに対するオモロイ返事集(?)。後に同趣旨の本が出ているのを書評で見たが、それが翻訳だったか原書だったか、わたしの見た本がちゃんと書籍になったものか、同様企画の本なのかも忘れてしまった。が、とにかく、そういう「ありもしないクレーム」&返事を競うのは、アメリカでは(東部の?)大学生の伝統的な知的ジョーク系の遊びらしい。
 すごくよく覚えているのは、日本のオーディオメーカーに宛てた手紙。いわく、「ワタシは貴社のラジカセ(か、ポータブルプレイヤー)を愛用しており、特に、手を叩くとプレイ/ストップする《ハンドクラッピング機能》を重宝しております。ところが最近、困ったことが起こりました。ビートルズの「抱きしめたい」をかけると、ハンドクラッピングの部分で誤作動をするのです。なんとかならないでしょうか」みたいな内容。対する返事は、そっけなく定型書式どおりの文面で「当社のラジカセには、ご指摘の《ハンドクラッピング機能》は搭載しておりません。かくかくしかじか。草々」みたいな。これは笑った。そこにいたミュージシャンにも見せたら「そうそう、コレが最高なんだよ!」と、しばし「《ハンドクラッピング機能》で聞いてはいけない曲」を言い合った。
 こういう遊びが成立するのは、ホントにアメリカっぽいなー。と思った。よくも悪くもアメリカ人ならではの「モノの言いよう」があってこそというか。子供の頃からの教育で、こういうやりとりをおもしろがれる国民性というか。たとえばボブ・グリーンのコラムなんかも、ものすごーくバカバカしいことをマジメに問い合わせたりする顛末を淡淡と書いたりしてて、それが面白かったりするでしょ。あの面白さと、そういう学生の「クレーム」遊びはつながっているなぁと思うのだ。日本の場合、このテの「めんどくさいこと」を面白がるユーモアは、今ひとつ育たない土壌ではないかと。よくも悪くも。古来からの伝統としての、他人との「距離感」の違いなのかな。たとえ自分が英語がウルトラ・ペラペラできるよーになったとしても、コミュニケーションというのは言語の問題をクリアすりゃいいってもんではないのだ。と、英語の学習を永遠に諦める理由をまたひとつ見つけたわたしは、そうして今日に至るわけである。

 で。何を書きたいかというと。
 「マキオちゃん」こと、向井万起男氏の新著のことなのです。
 そう、宇宙飛行士・向井千秋さんのダンナさま。わたしは、ご夫妻の大ファンだ。で、そのマキオちゃんが、実に十年ぶりの完全書き下ろしだという『謎の1セント硬貨 〜真実は細部に宿るin USA』を出版した。
 この本を読んで、前述の10年以上前に見た本のことも思い出したのだ。
 なぜなら『謎の1セント硬貨』は、なんと、マキオちゃんがいろんなアメリカ人に出した手紙と、そのお返事集なのである。いや、この説明はヘンだな。アメリカを夫妻であちこち旅行している中で、ふと疑問に思ったことなどをホームページに問い合わせるとたいてい返事が来て、それがまた個々おもしろいので、それじゃあ……と、全米のいろんなホームページにガンガンと質問メールを送ってみたら、これまたガンガンお返事が来たので、そのユニークなやりとりを紹介しながらアメリカに散らばるさまざまな謎に迫る……という。で、そこに、夫妻が休暇中に全米をあちこち旅した時のエピソードや楽しいやりとりなどをまじえた「お問い合わせメール版ロードムーヴィー」みたいな。もう、いきなり序章から爆笑! 雑学エッセイのようでいて、アメリカのはかりしれない深さ……わたしが想像で深いんだろーなーと思っているような「複雑怪奇な深さ」の部分を、まさに肌身で体験した人が楽しく明るくわかりやすく語ってくれているわけです。最高。

 冒頭、公共の機関だけでなく、ごくごく一般のシュミのウェブサイトの人までもがとても親切にお返事をくれることに氏は驚いている。これはわたしも経験がある。同じようにいろんなとこでいろんなことを教えてもらって、やっぱし驚いたことがある。特にインターネットデビューした頃は、おもしろくていろんなとこにメールしていたことがあって。拙いメールにも、いろんなアメリカ人がホントに親切な返事をくれた。とあるシンガーのファンサイト掲示板に、別に質問ではなく「この名前は日本人にはむつかしいです。なんと発音するのかわからない」みたいなことを書いたら、それを見て、なんとわざわざ名前の発音を録音した音声ファイルをメールで送ってくれた人もいた。

 と、ここから、この最高に楽しい本を紹介する本題に入ろうと思ったら、やきうが始まってしまいました!
 そう、わたしは待ジャパン……じゃねーや、侍ジャパンを見るために朝の5時まで起きていたのであります。昼夜逆転ホームラン。で、やきう開始までの時間を利用してひとネタ更新してみるぜ、と思っていたのですが。あえなくタイムアップ! しかも、中島が熱出したとな!? ひょえー。

 てなわけで。


 ここは真剣にやきうを見なければなりません。世界をつかめ!
 なので、続きはまた! マキオちゃんのエッセイは、日本のボブ・グリーンみたいだ。絶妙な間合いでの笑わせ方とか、自虐気味のキュートなガンコさとか。


 なわけで、本日、マジで書きかけのままアップします。すんません。
 詳しくは↓アマゾン参照で(笑)。

謎の1セント硬貨 真実は細部に宿るinUSA

謎の1セント硬貨 真実は細部に宿るinUSA