Less Than JOURNAL

女には向かない職業

ティンカー、テイラー、ソルジャー……あと誰だっけ?


《プロローグ》

「いい知らせと悪い知らせがある」
「ふむ。では、いい知らせの方から聞かせて貰おうか」
「映画『Tinker,Tailor,Soldier,Spy』の日本公開が4月に決まった」
「そうか4月か。早いな。想像していた以上に早かった」
「流石にあれだけの話題作ともなれば、そんな事もあるさ」
「そして、悪い知らせとは?」
「日本公開タイトルは『裏切りのサーカス』だそうだ」
「う……………………うむむむ?」

 裏切りのサーカス

 裏切りのサーカス

 裏切りのサーカス(笑)。


 なんだそりゃ。


 嗚呼、《ザ・しまっピーズ》の悲劇ふたたび。か。*1


 全国ル・カレ愛好家の皆様、つつしんでお見舞い申し上げます。

 いやぁ、なんかもう、オレはタイトル聞いたとたん気絶するかと。

 ないわー、ないわー、裏切りのサーカスはないわー。

 たかだかタイトルに目クジラ立てるのはアホだけど、今回ばかりはモノが違う。

 公式サイトを開くと、予告編に続いてポップアップで「あらすじ」が出てくる。1分でわかる『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』。映画をよりお楽しみいただくために、事前にご一読をオススメしますとのこと。
 うむむー。こんなわかりづらい映画を公開するご苦労もわかります。


一度目、あなたを欺く。

二度目、真実が見える。

 て、キャッチコピーからしてリピート推奨の予防線張ってるのもわかります。せめてどんな映画か推測できる邦題をという苦悩もわかります。

 が、やっぱし、いくらなんでも『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』より『裏切りのサーカス』がいいとは思えない。だって、ミステリ史上に残る名タイトルだもの。他のどんなタイトルも、原題よりも薄っぺらくなるのは当然だ。
 同じル・カレ原作の『パナマの仕立屋』が映画化された時には、日本公開タイトルが原題の『テイラー・オブ・パナマ』になった。これはなるほど、と。もともと《テイラー》というキーワード(というか、そもそも主人公の職業)は多分ちょびっとだけ『ティンカー、テイラー〜』にもひっかけているので、映画化にあたっての改題もそれはそれでよかったなと思った。

 そもそも“裏切りの〜”っていう修飾語は、殺し屋の出てくるハードボイルドな話とか、スパイものでも『ボーン・アイデンティティ』みたいな、もうちょっと活劇系のイメージですけどね。もちろん、タイトルに規則があるわけではないけれど。ものすごい陰気で長くて社会派で現代音楽ふうのユーロプログレにわざわざ「恋の××」って邦題はつけないだろう。みたいな意味で、ちょっと似合ってない気がする。

 なんとか自分を納得させるため、いろいろ想像してみた。
 で、オレ内でいちばん有力なのは「タイトルを考えた人がものすごい甲斐バンドのファン」説である。
 「いやー、この映画があまりにも素晴しいので翻訳ミステリ好きの甲斐(←愛ゆえの敬称略)にどうしても観てもらいたくて、「裏切りの街角」と『CIRCUS&CIRCUS』を合わせたタイトルをつけて猛アピールしてみちゃいました。てへっ」
 とか、そういうことであれば話は別だな。と。
 なんか、ありそうな気もするわけで。ホントにそうだったら個人的には「美談」とタグづけします。
 しかし、そうでないとすれば、えーと、えーと……どうすればいいんだ、泣くの?歩くの?死んじゃうの? あなたならどうする?

 『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』なら、“スパイ”が入ってるからスパイ映画かな、と思うかもしれないのにね。いきなり“サーカス”って言われても、どうなんだろう。よほど英国諜報小説が好きな人か、本業でスパイやってる人でない限りは英国諜報部の愛称が“サーカス”だとは知らないでしょう。
 《サーカス》だけならまだしも、宣伝では「もぐら、もぐら」ってゆってるし。サーカス団を舞台にした動物映画かなんかと間違われやしないかと、それだけが心配だ。

 平和な街にやってきたサーカス団のわるい団長さん(カーラ)と、土の中にもぐってしまったモグラさん(中の人はナイショ)をギャフンと言わせようと、街のわんぱく坊主(スマイリー)が大活躍する冒険ファンタジー

 とか。そういう映画と勘違いした家族連れが映画館に入ってきたらどうしましょう。不機嫌そうなジジイどもが小声でモゾモゾしゃべってるだけの映画でビックリ……という悲劇は絵空事に過ぎないと笑ってすませようとしたってそうはいかないのだと、無邪気な観光客たちで賑わうピカデリー広場を覆う灰色の雲を見あげて佇む私である。うそ。

 そういえば、この作品の映画化が決まったのと同時期にブラピさんの制作会社が『ナイト・マネジャー』の映画化権を獲得したようだというニュースもあった。しかし、このままだと『ナイト・マネジャー』の邦題が、

『HOTEL〜姉さん事件です!武器商人御一行様がやってきた!?〜』

になってもオレは驚かない。

 まぁ、しかし、あれだよ。

 本当はね、本当はタイトルなんてどうでもいいんです。
 あまりにも春が待ち遠しくて、もてあます時間をネチネチ妄想するしかないんです。

 実際、予告編でも最初に『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』映画化って出るし。往年のミステリ・ファンが『裏切りのサーカス』を何の映画か気づかないままスルーしちゃったらどーするんですかっ!? なんて心配はご無用>じぶん。


 というわけで。いよいよ公開を来月に控えて、もりあがってまいりました。

 本日、前売券(ムビチケ)も購入いたしました(`_´)ゞ

 かっこいい。もう2、3枚ほしい。

 やっぱし、公開前からブーブーうるさい客が多すぎて辟易したのか。
 表には、ひとことも『裏切りのサーカス』って書いてないですよ。
 裏にちっちゃくあるだけ。
 いやぁ、すんませんね。お気遣いを(*^_^*)。

 そして、なんと!チケット売場は早くもすっかり《スマイリーまつり》の様相です。他にも、先に公開される『ヘルプ〜心をつなぐストーリー〜』とかいろいろあるのに。すごい。

 まつりだ!ヽ(^。^)丿 まつりだ!ヽ(^。^)丿
 ごめんなさい!いちゃもんつけてごめんなさい!
 タイトルなんて、もう、どーでもいいです!

 し、しかし……。



 ↑いきなり。そんなあからさまに元諜報員て…………。

 FBIのレスラー捜査官じゃないんだから(^_^;)。。

 で、今日は初めて映画館での予告編も観ました。





《「ティンカー」「テイラー」「ソルジャー」「プアマン」…………「スパイ」》
 ここでっ!
 ゲイリー・オールドマンどや顔
 いえーい! 大スクリーン最高!
 もう、あまりにもカッコよすぎて萌え死にそう。何度も書いているように、私の脳内では日本版スマイリー=蛭子さんなので、ちょっとカッコよすぎるんですが。許す。


 この作品は昔、BBCで連続ドラマ化もされている。主演はアレック・ギネス。彼の演じるスマイリーも素晴しくて、これ以上の適役はないような気がしていた。が、予告編や海外での評を見る限り、どうやら今回のゲイリー・オールドマンのスマイリーはギネスを超えている予感(※個人の感想ですw)。いかにも穏やかな老人(つっても、実はまだオールドマンは52歳なんだね!)だが、そこはかとなく危険で艶っぽい雰囲気がある。ル・カレの小説に出てくるおじいちゃんは、こういう人が多い。オールドマンのスマイリーは、かなり作者好みの人物像じゃないかな。なんとなく、ル・カレじいちゃんの若い頃の面影があるような、ないような、そんな感じもあるしね。

 監督は、スウェーデン映画『ぼくのエリ 200歳の少女』のトーマス・アルフレッドソン。最初はかなり意外な人選にビックリしたけれど、どうやら大成功だったようだ。『ぼくのエリ〜』の、寒く冷たい空気の中に真っ赤な血が映える映像美でスマイリーを撮る……わけでしょ。ワクワクする。

 あと、衣装のデザイン担当ではないのだが、あのポール・スミスがアドバイザーとして制作の初期から参加していたらしい。'70年代のファッションや風俗、街の空気感についてのご意見番というか、あの頃の雰囲気を出すためにはどうしたらいいのかを話し合ったとか。あと、ポール・スミスは映画のイメージ・ポスターもオリジナルで作って、そのサイン入りの限定版が販売されて、確か日本のショップにも入ったのでは?(違ってたらすみません)。
 ちょっと欲しかったかもー。゚(゚´Д`゚)゚。。

 もひとつ余談(て、本日は最初からずっと余談ですが)。
 007シリーズは、ダニエル・クレイグがボンドに就任してからはアメリカ人のトム・フォードがボンドのスーツを作っている。ファッションのこと、ましてや殿方の背広のことはよくわかりませぬが。それでもやっぱり、アメリカ人が作る背広をボンドに着せるのはいかがなものかと思うわけで。「背広」ってくらいだよ、ボンドさんのスーツはやっぱし本場のサビル・ロウ仕立てであってほしいものだ。そんな点からも、もはや007は「英国スパイ映画」というより完全に「英国スパイ風無国籍映画」になっちゃったなと思う。
 その点、常にジェイムズ・ボンド物語へのアンチテーゼを抱え続けてきたル・カレ自身も全面的に参画している『ティンカー…………違う、『裏切りのサーカス』(笑)は徹底した70年代英国オマージュ映画になっているはず。というわけで、期待はつのります。

 (゜´Д`゜)


《エピローグ》

「そうだ、最後にもうひとつ君に知らせておくことが」
「いい知らせか?それとも……」
「さあ、どうだろう。受け止め方は君次第だが」
「よかろう。聞かせてくれ」
映画の日本公開にあわせて、3月に早川文庫から新たに『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』が出るらしい」
「新装版か? それなら2006年に出たはずだが」
「あれは字が大きくなった老眼エディションだ」
「そうだ。字が大きくなって58ページ増えて320円高くなった」
「今度は新訳だよ。とうとう永世ル・カレ名人、村上博基氏の新翻訳が出るらしい」
「素晴しい。ようやく3部作すべてが村上訳の男前なスマイリーで読めるのか」
「待てよ。映画の公開に合わせてということは、タイトルはどうなる?」
「安心したまえ、こちらは『裏切りのサーカス』ではないらしい」
ゲイリー・オールドマンもお喜びだな」
「読めねえよヾ(≧∇≦)」

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ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫NV)

ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫NV)

↑表紙かっこいい。

*1:ザ・しまっピーズというなめくさったお名前については、2008年9月21日のエントリ《ザ・しまっピーズ? なめんなよ!(通称:なめリス)》をご参照ください。http://d.hatena.ne.jp/LessThanZero/20080921/1222024606