Less Than JOURNAL

女には向かない職業

ミラノ・スカラ座 ヴェルディ作曲『ファルスタッフ』

【今夜もじぶんメモっす(*゜∀゜*)】

指揮:ダニエル・ハーディング
演出:ロバート・カーセン
@東京文化会館 15時。

俺のスカラ座まつり2日目にして、俺のハーディングまつり最終日(ノД`)。
いやぁ、ウワサにも聞いていたし、とても素晴らしいのはわかっていたけど、想像より何倍も何十倍も素晴らしかった。ヴェルディ・マジック堪能。

ファルスタッフ』は、シェイクスピアの戯曲『ウィンザーの陽気な女房たち』を原作にしたヴェルディ最晩年の喜劇。過去の作品へのセルフ・パロディとか、他の歌劇へのオマージュとか、からかいとか、いろんなものが次から次へと繰り出され、セリフの面白さだけではなく音の間合い、とびきり美しいメロディとマヌケな歌詞のミスマッチといった音楽的なおかしさもたっぷり盛り込まれてゆく。ただ「笑わせる物語」なのではなく、人生のベテランだからこそ書ける人生そのもののおかしさ。今日のスカラ座バージョンを見ながら、初めて気がついた事なのだが……このオペラのどうにもこうにも愛おしい、笑いながら涙が出てくるような魅力っていうのは、ジョン・ル・カレの『パナマの仕立屋』にすごく似ている。あくまで個人的な感触だけど。ル・カレ翁が、今までの自作の中でもっともお気に入りと語っていたユーモラスなホラ吹きスパイ小説。あの作品のむずむずするようなおかしさを、思い出した。
ちょっとした軽い冗談でも、ヴェルディやル・カレが本気を出して書いているわけですよ。裏地に凝る、どころのこだわりではない贅沢。そういえば、ヴェルディも『ファルスタッフ』を自分の楽しみのために書いたと言っている。人間というものを、非情に残酷にとことん突き詰めることに生涯をかけたヴェルディとル・カレにとっての“青い鳥”は喜劇ってことなのかな。

このカーセン新演出の『ファルスタッフ』はスカラ、メト、英国王立ほかの共同制作で、この後メト版がライヴ・ビューイング作品として日本でも劇場公開される予定だが。このスカラ版で見られてよかった! シェイクスピアヴェルディの『ファルスタッフ』を、英国人ハーディングの指揮でイタリアのスカラ座が演るというのは、ベスト・マッチングではないだろうかね。キャストも、最高のファルスタッフ歌いであるマエストリさんを始め、主要メンバーは若手含めてみんなすごくよかった。マエストリさんは、すごい。3幕なんて、出オチで大爆笑……まるで三波伸介だったし。傲慢で図々しくて、いけすかないけどマヌケで憎めないキャラがかわいい。メト版も出演予定なので楽しみ。

カーセン版の舞台は、第二次大戦後の英国。
落ちぶれ騎士のファルスタッフを、当時の没落貴族として設定している。時代は数十年ずれるけど、ちょっと『ダウントン・アビー』っぽい雰囲気があったり。50'sのファッションとか、家具とか小道具とか、舞台に上がってじっくり見せてほしくなるディテールへのこだわりが『マッドメン』っぽかったり。そういえば、最近ちょっと流行ってる英国ロバーツ社のトランジスタ・ラジオ復刻モデルもさりげなくキッチンの小道具になっていたし。古い家具に囲まれた、いかにも男くさいファルスタッフの居室にカラフルなドレスを着た女性が入ってくるとパッと場面が明るくなるし。逆に、パステルカラーのキッチンにグレイのスーツ姿の男たちがなだれこんでくる場面では、女たちの城が男に侵攻された感を「色」だけで伝えてくるし。本当にうまい。見事。

女性陣4人の衣装は、まさに『マッドメン』の世界。Aラインのワンピースと、お揃いの裏地がついたシルクのコートに、小さなハンドバッグ! ものすごく素敵。特に、アリーチェ役のバルバラ・フリットリさんは遠目に見るとちょっとバーブラ・ストライザンドっぽいので、50'sっぽいドレスと髪型がめちゃくちゃ可愛くて似合っている。最後の場面での真っ赤なイブニングドレスも素敵だったし。今回はけっこう笑いをとる演技とか、踊りもある2・5枚目みたいな役だったから、よけいにバーブラっぽくて魅力的だった。

モダンでコンテンポラリーだけど、それがよけいに作品の本質部分を引き出している……という演出と、ハーディングとの相性もよかったんじゃないかと思う。もともと『ファルスタッフ』にある音楽的なパロディや引用というのは、いわばサンプリングやコラージュ音楽みたいなものとして捉えることもできるわけで。そういうものがこれでもかと詰め込まれている構成は、もしかしたら古式ゆかしい伝統的シェイクスピア劇スタイルの中にはおさまりきれないスピード感を生まれ持っている作品なのかもしれない。でも、だからといって突飛に前衛的に作り替えると物語は壊れてしまうし。伝統への敬意と現代的なキレ味という点で、カーセン=ハーディングはものすごくいい感じ。アティテュードとしては、ポップ・ミュージックで言うところのピチカート・ファイブ的な発想に近いものもあるのかなと感じた局面もあった。説明すると長くなるのでしませんが。

今回のスカラはすごくタイミング絶妙な面白い企画だったんじゃないかなと。ハーディングは、日本では初来日以来15年ぶりのオペラ来日らしいし(ドゥダメルにいたっては、なんで実質初来日に近いのにいきなりオペラかよという不思議なブッキングだけど)。日本にいながらにして、今、ハーディング=カーセン=スカラという組み合わせで『ファルスタッフ』を見られたのは、すごく“旬”のものをいただいたワクワク感がある。ハーディングの振るオペラは、たまに音や映像で聴く機会しかなかったのだが、ものすごく興味があった。やっぱり歌わせる力がすごいし、マーラーとか振ってる時とは違う色気もあって、いちどナマで見られたらいいなぁとずっと思っていた。でも、まさか日本で見られるなんて! 世の中ドゥダメルドゥダメルと騒がしく、すっかりスカラ・パンダ状態(体型も)。私はパンダ好きだからぜんぶ見ますけどね(*゜∀゜*)。そんなパンダ騒動のさなか、今回、ハーディングがスカラと来たことは、自分の中でナニゲにものすごく大きなことかもしれないなとあらためて思いました(もちろん日本の音楽界にとっても、だが)。

で、本日のハーディング様。

カーテンコール、幕が下りた後。幕の間からひとり、ふたり、さんにんずつ主要メンバーが出てきて、最後のご挨拶をする場面。
いちばん最後、幕の間からイタズラっぽくチラッと顔を出したマエストロ。


(※こんな感じ)。
┣┳┻┳┳┻┫ω・) チラ. ┬┴┬┴┤


で、よいしょ、よいしょと引っ張ってきたのは……街のあちこちに掲げられていた、おなじみの「2020年、オリンピック/パラリンピックを東京へ」というノボリ旗(笑)。
「いえーい」と旗を掲げてみせて、東京開催決定をお祝いしてくれました。
いやぁーーん、ハーディングかわゆす!
あんなエレガントな指揮をするのに、素顔はお茶目なサッカー馬鹿ノ介!
朝から、東京開催決定についてとてもモヤモヤした気持ちで、なんか喜びたくないような、でも、決まったからには期待を込めて喜ぼうという気持ちもあるような……とうじうじしておりましたが。この瞬間、「まぁ、いっか」という思いにナリマシタ。

 ダニエルありがとう〜。

「いいってことよ(きらっ☆)」

さて。そんなわけで『ファルスタッフ』公演は残すところあと2本!
もういちどくらい見たいものだと思ったけれども、さすがにサイフはすっからかん(ノД`)。
でも、がっつり集中して心に焼き付けましたから大丈夫。
俺のハーディングまつり、終了。

ホントだったら、この思い出だけであと半年はニマニマして暮らせるんだけど。
のんびりしてはいられません。
明日からは、いよいよ始まります。







ひゃっはー!







ふなっしーなっしー!


ちがった。

ドゥダッしーだっしー!