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女には向かない職業

#listeng: マムフォード&サンズ『デルタ』

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          ▲ジャケもカッコええすなー。

 

 今、数えてみたらもう5年前なのかと気づいて驚いたが、2013年7月のマムフォード&サンズの来日公演は忘れられない。もともとフジロック出演のための初来日だったが、あわせて新木場STUDIO COASTでもワンマン公演が決まったのでそちらを観に行った。米国でも大ブレイク、世界を熱狂させる当代最強のライブバンドとしてノリにノっていた時期。その演奏をナマで、しかもすでに彼らにとってはクラブギグといってもいいようなスケールの会場で身近に見られたことは本当に幸運だった。こんな機会はもう二度とないぞとオバチャンは頑張って、モッシュも辞さない覚悟でグイグイとステージ前まで行きましたよ。

 お、証拠写真が出てきたど。ね、ここまで接近したんですよ。

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 フジロックの直後、というか毎日毎日ジェットセッター地球巡業中でお疲れだろうに、一瞬もゆるまない、超ガチンコ2時間弱。その全力ぶり、自然体とスターのオーラが共存してる存在感、そして何よりライヴならではの躍動感を見せつつもとことん丁寧な演奏。特にマーカス君がギターを弾きながら足はバスドラムでリズムを繰り出すという大道芸的な超絶プレイは、ライブだからひとりで何役もやらざるを得ないからやっているというわけではなく、そういうボードヴィル的な演奏こそがバンドのグルーヴを形成しているのだと、このライブで初めてわかった。
 いやぁ、これは人気出るはずだわ。とモッシュでワッショイしながらもしみじみ思った。この時はお客さんも最高で、ノリもいいし、曲の合間には英語で曲のリクエストをしたり、バンドにMCさせるヒマを与えないくらいワーワーワーワーと(愛ある)ヤジを飛ばしたり、話しかけたり。で、そういう客席の声をいちいち全部拾おうとする律儀なマーカス君。聖徳太子じゃないんだからムリなんですけど、それでも「え、え、今なんつったの?」とわざわざイヤモニを外して聞いてあげたり、「あ、チューニングするからオマエ聞いといて」って他のメンバーに振ったり。なんかもう、ライブハウスに友達のバンドを観に行ったような(心の)距離感。見ていると本当に、この人たちと友達のような気がしてきてしまう。なんなんだろう、あの“近さ”こそが世界最高のライブバンドたるゆえんなのかな。なんてことも思ったり。

 と、本当に最高すぎる最高のライブだったのだが……。
 あまりにも最高すぎて、この次のステップを彼らはどんな風に考えているんだろうと、この時点ですでに、ちょっと気になっていた。彼らの最大の魅力は、ひとことで言って“爆発力”にある。それも、比喩ではなく文字通りの爆発力。静かに始まって、だんだん盛り上がっていって、どっかぁぁぁぁーーん!と爆発する……という曲の構成こそが、マムフォード&サンズの武器。あのどっかぁぁぁぁーーん!が強靱なバンドサウンドで奏でられる瞬間、観客もアドレナリンどばーーーっ!と、強烈な一体感に包まれるのだ。音楽性としてはいわゆるカントリー・ロックとかフォーク・ロックだが、この、ニルヴァーナパール・ジャムなど90年代グランジ・ロック直系の爆発芸。つまりオルタナティブ・ロックとオルタナ・カントリーがありえないほど絶妙な奇跡的バランスで融合した、ありそうでなかった究極の禁じ手音楽だ。「もしニルヴァーナがカントリー・ロックだったら」みたいな音楽ってことは、私にとっては竜宮城クオリティの極楽ロックなわけで。90年代、ガース・ブルックスビルボード1位連続記録がニルヴァーナの『ネヴァーマインド』の登場によって破られたことなどもついつい思い出して感無量。好きにならずにいられない。

 でも、このライヴの凄さに魅了されつつも、彼らが今後もずーっとこういうタイプの音楽をやり続けてゆくとは思えなかった。ライヴで求められるものをやり続けることが、必ずしもスタジオ・アルバムの熟成につながるわけではない。まさに両刃の剣、難しい課題ではあるけれど。その豊かな音楽性からして、絶対にもっといろんなことにチャレンジしてゆくはずだと思った。あまりにも鮮烈なスタートダッシュだったぶん、今後はちょっと地味めなアルバムを作ったり、悩みに入りそうだけど、彼らの場合、それもそれで楽しんでしまえるタイプのバンドのように見えた。ライヴでの、まるで友達と世間話をするように観客に話しかけてくる距離感が象徴するように、彼らはそういう逡巡も含めて、自分たちの“過程”を見せてゆくことをバンドとしての個性としてさらけ出し続けるんだろうなと思った。

 で、その後ほどなく、やっぱりちょっと悩みに入って(笑)、ちょっと休んでリフレッシュしたりして。2015年に4年ぶりのアルバム『ワイルダー・マインド』出して。案の定、ちょっと曲のパターンもいろいろ考えたり、バンジョーをちょっと引っ込めてみたり、ちゃんとした(笑)ドラムを入れてビックリされてみたり……といろいろ工夫したり、結果、まぁ、意識的にかなりオルタナに寄せた印象のアルバムになった。で、「ボクサー」をコラボしたポール・サイモン大先輩の影響もあるのか(もしかしたら何かサジェスチョンを受けたのかも……とも推測するが)、翌16年にはツアー中に南アフリカヨハネスブルグで地元のミュージシャンらをゲストに迎えたミニアルバム『ヨハネスブルグ』をリリース。次のステップに進むには、焦らず、ひたすら前方を見て疾走するだけではなく、まずは足下の土を耕したり、道幅を広げる作業から……みたいな情熱が伝わってくる2作で、本当にいいバンドだなとあらためて思った。

 

  そして、ここからが本題。

 ついに出ました。3年ぶりのニュー・アルバム『デルタ(DELTA)』。デルタが出るたーー、なんつって。でも、まだ何度か聴いただけなので、まずはとりいそぎオレ流ファースト・インプレッションを。

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▲とりあえずSpotify貼っておきまーす。


 まず、9月に出たリード・シングル「Guiding Light」でマーカス君の歌声にやられた。なんだか、めちゃ男っぽく色っぽくなりましたな。お客さんに「えー、なになにー?ひとりずつしゃべってくれよぉー(o゜▽゜)o」と無邪気に話しかけてた頃の少年ぽさとはまた違う魅力。そして、この曲、バンドのハーモニーもたっぷり。静かなところからグイグイ盛り上がってく“マムフォーズ印”もちゃんとありつつ、フォーキーっぽい中に80'sダブの浮遊感に似たものまで紛れ込んでいたりしていて面白い。新鮮。

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 アルバムが出る前に出たもう1曲のリード・トラックは「If I Say」。静かなマイナー調のバラッドだが、この曲ではオーケストレーションを大フィーチャー。バンド・サウンドのように縦横無尽に躍動するストリングスアレンジが見事。やっぱしサビに向けてどんどん盛り上がっていって、最後には嵐のように吹き荒れるストリングス。もう、シガー・ロスかっつーくらいのオーケストレーションが嵐のように吹き荒れて孤独な歌声を包み込む。

 

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 この先行2曲がアルバムへ向けてのどういうヒントだったか、先週リリースされたアルバムを聴いてやっとわかった。なるほど、そうきたか。

 静謐から、覚醒、そして爆発へ。

 もともとはフォーキー&オルタナ・ロックなサウンドで表現していた3段階スライド式恍惚サウンド。それを、ダブとか、ジャズとか、エレクトロとか、オーケストラル・サウンドとか、ワールド・ミュージックとか……いろんなものでやっているということなのだ! そう書くと何となくとんち問答みたいな音楽だと誤解されるかもしれないが、そうじゃなくて。「I Will Wait」を聴いた時と同じ軌跡を描く心の揺れ動きやときめきを、別の楽器や表現方法に置き換えてみる……みたいな。

 今回のアルバムの特筆すべき魅力は、“マムフォーズらしさ”と“マムフォーズらしくなさ”の美しき共棲。両者がくっついたり、離れたり、そして時に螺旋のように絡み合いながら、ひとつの世界を作り上げている。

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▲アルバム・トレイラー。楽しそう(o゜▽゜)o

 

 プロデューサーに迎えたのはアデルやリアーナを手がけたヒット・メイカー、ポール・エプワース。アデルが歌った007の主題歌『スカイフォール』の共作でアカデミー賞も受賞している。
 アルバム制作にあたって、バンドがインスパイアされた音楽(つまりプロデューサーにとってはヒントのようなもの。もちろんリスナーにとっても。)としてあげてきたのは、まず、ヒップホップ/エレクトロニカ、で、チルウェイブっつーんですかね、ジャイ・ポールの「Jasmine(demo)」(2012)。

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 もひとつ。80'sニューロマンティック・シンセポップ・グループトークトークの名前もレコーディング開始時点であがっていたとか。なるほどね。なるほど。それにしても、当時は「デュラン・デュランみたいなもの」くらいの扱いだったトークトークが、今やデジタル・ネイティヴ世代のいろんなジャンルのミュージシャンたちにものすごくリスペクトされて影響を与えていて、やっぱり評価というのは後世になってからしかわからない「神のみぞ知る」なんだなと。

 ブルックリンのSSWマギー・ロジャースがバックグラウンド・ボーカルで参加しているアフリカン・フレイバーな「Rose of Sharon」は『ヨハネスブルグ』からの流れでもあるけれど、同時にポール・サイモン『グレイスランド』も思い起こさせたり。

 「Darkness Visible」の終盤でジョン・ミルトンの「失楽園」からの一節が朗読されるのはいかにもマムフォーズらしい文学ネタだけど、ここでは朗読そのもので“ドカーン”という爆発感を体現しようとしている試みが斬新で、しかもめちゃカッコいい。そういえば、前作ではわりとバンジョーの存在感が薄まっていて、我々のようなカントリーとかブルーグラス側から応援している者にはちょっと淋しくもあったのだが。今回はあらためて「やっぱし、バンジョーはマムフォード&サンズの親友」と再認識したらしい。うれしいー。どんなにサウンドが変わっても、彼らの音楽からバンジョーの響きはなくなってほしくない。しかし、単に今までどおりにバンジョーを用いるのではなく、曲ごとに本当にいろいろと工夫して面白い響かせ方をしているのが興味深い。たとえば「Woman」は、アコースティック・ギターだけで演じればフツーにフォーキー・サウンドになるところを、バンジョーの深みのある響きがもたらす奥行きが不思議な無国籍感を醸し出していたり。しかし、それにしても、この曲でのヴォーカルもめちゃめちゃいいです。前からマーカス君はちょっとエディ・ヴェダーっぽい声質が魅力的だったけど、年齢を重ねてやや枯れたところでますますエディ系オルタナ声に♡ より無骨な魅力が突出してきたおかげなのか、ゴスペル・テイストな「Forever」のような曲にも、無法者が口ずさむカントリー・ゴスペルめいた艶やかさが加わっていたりする。

 ただし歌詞の世界はますますヘヴィでシビアな側面も多いということで、これからもっとじっくり、ちゃんと読んで聴かねばと思っています。キーボードのベン・ラヴェット君によればアルバム名『Delta』の“D”は、Death、Divorce、depressionのDでもあるという……お、重い。とはいえマーカス君と女優のキャリー・マリガンさんとの結婚生活は幸せいっぱいで順調だそうで、アルバム最後には彼らの息子さんがムニャムニャいってる可愛い声も入っていて和みます。

 ところで、先ほどマムフォード&サンズのUKツアー4本が“due to unforeseen technical and logistical challenges”で延期になったとのお詫びが公式サイトに載った。なんだなんだ、また何かすごいことをやろうとしているんだろうか。デズニーランドーみたいなすごいセットがあったりして!? 日本に来た時みたいに、真っ暗な中にポツンと4人だけで演奏しているのでも全然いいのに、というか、あれがいちばんカッコいいと思うんだけどね。ああ、また来日してくれないかな。今のマムフォーズが見たい。

 

デルタ

デルタ

 
Delta [Analog]

Delta [Analog]