Less Than JOURNAL

女には向かない職業

11年前のビリー・ジョエル

ビリー・ジェエルのボックスセット『My Lives』が発売された。もうじき日本盤も出る。そして、久しぶりの全米ツアーも始まった。今回はボックスの発売にあわせて、めくるめくベスト選曲のステージだという。

11年前、ビリー・ジョエルは“最後のワールド・ツアー”と銘打たれたツアーのファイナルを日本でおこなった。当時の最新アルバム『リヴァー・オブ・ドリームス』は、確かに、何かをやり遂げたという清々しい輝きに満ちた名盤だった。これが最後というのがホントかどうかは別として、アルバム同様にツアーもまた“何かをやり遂げた感”があるかもしれない。これはしっかりと見ておきたい。できることなら東京、福岡、大阪の全公演を見よう……と思った。

福岡公演へ向かう飛行機の中で、今まで見たことがないくらい富士山が美しく見えた。同じ便に乗っていた、日本中を毎日飛び回っている知人も「美しすぎてびっくりした」と言っていたことをよく覚えている。そして、その日の開演前、福岡ドームのバックステージで初めてビリー・ジョエルと会った。ニューヨーカーらしいパキパキしたクールな早口で話す、温かい雰囲気の人だった。日本は武道館とか好きな会場が多いんだけど、福岡ドームは初めてだから勝手がわからなくて不安なんだよ……と話してくれた。記憶が定かではないが、ひょっとしたら、これが福岡ドームで行われた初のコンサートだったと聞いたような気もする。それでもコンサートは素晴らしくて、2日後の大阪公園にも絶対に行こうと思った。が、ひとつ仕事があったので、福岡公演の翌日いったん東京に戻ることにした。そしてなんとか東京での仕事を終えた翌朝、いそいそと大阪へ向かうつもりだったわたしは、阪神淡路大震災が起こったことをニュースで知った。ただでさえ地震に慣れていないニューヨーカーのビリー・ジョエルは大阪のホテルで、何が起こったのかわからない恐怖を感じたという。コンサートはもちろん中止になったが、彼は即刻、震災被害への募金を募った。

美しい富士山と、初めて会ったビリー・ジョエルの顔と、あの日ずーっと流れていたTVの臨時ニュースの映像。1月17日のことを思い出す時、この3つが全部ひとつのカタマリになって出てくる。たぶん自分の中では、一生ずっとカタマリのままなのだろう。で、『リヴァー・オブ・ドリームス』を聞いていても、いつも、11年前のことが思い浮かんでくる。

My Lives (W/Dvd) (Spkg)

My Lives (W/Dvd) (Spkg)