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女には向かない職業

ケヴィン・スペイシー

昨年公開された、ケヴィン・スペイシーの監督作品『ビヨンドtheシー〜夢みるように歌えば〜』。ボビー・ダーリンの伝記映画だが、最初に彼の伝記映画が企画されたのは80年代終盤だったという。コドモの頃からダーリンの熱烈なファンだったスペイシーは、そのウワサを聞きつけ、当然のことながら自らがダーリンを演じたいし、できれば製作もしたいと熱望したが、当時映画界ではまったく無名だった彼が相手にしてもらえるはずもなく。が、幸か不幸か、映画は企画自体がボツになり、スペイシーは「いつかは自分がダーリン映画を」という野望を抱く。で、その日のためには映画界で名をなさねば!と一念発起したのである。
その後、スペイシーは『セブン』の異常犯罪者の快演により一躍その名を知られる。そもそもあんなリスキーな異常者の役を引き受けたことじたいが快挙である、と絶賛された。が、昨年、わたしはスペイシーのインタビューを読みながら考えた。
なにごとも、思い切って成し遂げるものにはモチベーションが必要である。俳優にとって、そのモチベーションとは往々にして“名声への階段”だったりするわけで。スペイシーの場合も、ある意味ではそーゆーことだったりする。が、彼の場合は単なる“名声”ではない。
名声があれば、ダーリン映画を撮れるよーになる。だから仕事がんばるぞー。
という、そのひたむきな情熱が『摩天楼を夢みて』や『セブン』のような大胆な役柄を引き受けさせたのではあるまいか。
以上、わたくしの妄想過多な推測ではある。
が、本当にそうかもしんない。つーか、絶対にそうなんだって。と、わたくしは信じて疑ってません。なんたって、まだ映画化も決まる前から、自分が初めて歌って踊る映画はダーリン映画にしたいのだ! と固い決意をもって、アカデミー受賞作の映画版『シカゴ』の主演をリチャード・ギアに譲ったというのだから。あんた男だよ!
夢と書いてオトコと読むんだね。
みたいな。

『摩天楼を夢みて』の特典映像に収録されているジャック・レモンのインタビューで、彼は「人は“成功”ということを、有名なことやお金があることではかりたがる。が、自分が納得することができれば、たとえ道路清掃の仕事であっても成功なんだ」と語っている。
『ビヨンドtheシー〜夢みるように歌えば〜』は商業的には成功しなかったし、評判もさんざんだった。が、わたしは去年見た映画のベストワンとして迷いなくこの作品をあげるし、音楽家の“トリビュート映画”という意味で言えば、『レイ』よりも何よりも音楽的な視点をもち、愛情と敬意にあふれた大傑作だ。ジャック・レモンのように考えるならば、これはケヴィン・スペイシーの今までのキャリアのひとつの頂点ともいえる“成功”作だったと思う。
ということで、わたしの中では『摩天楼を夢みて』と『ビヨンドtheシー〜夢みるように歌えば〜』が非常に美しくつながったのです。あー、この映画の話になるとあいかわらず電波になるな。でも、あまりに好きだからしかたない。おわり。