Less Than JOURNAL

女には向かない職業

Bunkamuraにはおばちゃんが棲んでいる。

 Bunkamuraは、Bunkamuraってくらいで文化の村だが。
 「城南の三越」こと(あくまで城南民にとっては、だが)東急本店とつながっている。
 デパートとは、おばちゃんたちのベルサイユ宮殿である。
 そしてBunkamuraは、いわばベルサイユ宮殿の敷地内に建て増しされたものであるからして、まぁ、おばちゃんたちにとっては「ウチらの庭に最近できた娯楽施設」という意識がたいそう高いようである。「最近」というのはたぶん、ここ25年くらいのことをさす。
 なので、午後のBunkamuraにはたいてい、長い長いランチまたはデパ地下クルージングを終えたデパートおばちゃん軍団が腹ごなしを兼ねて華麗に戯れている。ルノワールルノワールも、おばちゃんたちにかかれば「あらー、あたしこんなドレス持ってたわよー」「これ見たわよ、ほら、あそこ行った時……るーぶる!るーぶる!」「まぁ、この人(←ルノワールの絵の中の人)○○さん顔負けの巨乳w」と、まったくもってコマ劇場ロビー状態。えらく華麗なことになっている。

 だから、なんか混んでるんだよね。美術館も映画館も。フツウに美術館が混んでる感じとは違う、ワラワラ感が独特というか。で、日頃のおこないが悪いのか、平日の午後に行くと、最近、たいてい忘れがたい軍団との遭遇に見舞われる不運……もとい幸運。

 で。先日、あてくしは映画館ル・シネマで、前回の上映が終わるのを待っていた。
 かほり高いコーヒーをすすりながら。なんたってBunkamura、こちらのロビーでいただくコーヒーは紙コップじゃねーよ。ちゃんとした陶製カップアンドソーサーで供されるのでございます。ずるりずるり。

 ロビーの壁には、多くの映画館と同じように、上映作品のスチール写真や雑誌レヴュー、新聞記事のコピーがたくさん飾られている。それを眺めて待つうちに、やがてホール扉が恭しく開かれ、あてくしは映画が終わったことを知った。

 すると、今日もまた出会ってしまった。どっかん! どっかん! と、おおいに盛り上がりながら華麗なるベルサイユ軍団が出てきた。

 いや、ちなみに『ラスト、コーション』だったんで。そんなにガハハ、ガハハ盛り上がって終われる映画でもないと思うのですが。ま、人の感想はそれぞれってことで。

 そしてベルサイユ軍団、鑑賞の余韻を楽しむかのように壁際のレヴューが貼ってあるところにつかつかと歩み寄ってきた。

 「おどろいたわねー、あたし、この人は助かると思ったのよー!」

 写真をしっかりと力強く指さし、次回上映を待つ人々でごったがえすロビー中に響きわたる大声でいきなりネタバレ。

 続いては、新聞の見出しをしっかりと力強く指さし、

「濃厚な愛欲(エロス)!」(←だったか、そんなことが書いてあった)

 きっぱり!
 なんだかわかんないけど、まるで勝利宣言のよーに高らかに読み上げる。

 次の瞬間、その他一同「だったわよねぇぇぇぇ!」

 と、濃厚な愛欲場面を思い出して大爆笑(笑うところではないが)。

 その後も、誰が死んだか、誰と誰がどーなったのかについてえんえんネタバレまつり。
 上映を待っていた人々は、その会話から逃げるようにそそくさと立ち去ったのは言うまでもない。

 いやー、ここ最近でいちばんすごいベルサイユ軍団だったなーorz。

 もう、か、かんべんしてください(T_T)。