Less Than JOURNAL

女には向かない職業

 過去に囚われ、未来を失う。

瞳の奥の秘密』@TOHOシネマズシャンテ

 以下、ネタバレはほとんどないです。
 ていうか、どんな話かも全然書いてないです。


 しばらく前に「レス・ザン・ゼロ」の作家、ブレット・イーストン・エリスが最近観た映画のベストだとtweetしていたので気になっていたアルゼンチン映画。で、全然知らなかったのだが、本年度アカデミー賞の最優秀外国語映画賞を獲った作品で、本国アルゼンチンで歴史的大ヒットを記録しているのだそう。タイミングのよいことに先週の金曜日から日本公開されることがわかったので、さっそく観に行ってきた。まぁ、映画館涼しいしね、特に日比谷のシネマズシャンテは地下鉄出口から出てすぐだしねー。


ブエノスアイレスを震撼させた殺人事件から25年――
未解決の謎を小説にする男に、封印された愛が蘇る。


 というキャッチコピーだけは見たけど、殆どあらすじもわからないまま観た。

 アメリカのミニシアター系で大評判だったらしいが、英語以外の外国語映画はほとんど観ないし。でも、私はB・E・エリスがいいって言うものは、いつだって何だって気になるのである。共感できるなどと偉そうなことは言わない。というか、共感できない部分も多い。でも、そこを含めて、同世代であることを強く感じさせる数少ない作家。

 実を言えば、ようするに情緒サイド深めの2時間ドラマ系サスペンスメロドラマでしょー、くらいの軽い気持ちで観たんですけど。で、まぁ、実際、そーゆードラマとも言えるんですがね(笑)。これが、よかった! 見てヨカッタ! たぶん、彼のtweetを見なかったら自ら積極的に観に行くことは絶対になかったと思うと、ホントによかったなー。うーん、好奇心の扉は閉じたらダメね。素晴らしい。エリス先生ありがとう!

 まず何よりも、娯楽作品としてものすごくよくできている。伏線とか小道具の使い方がものすごく丁寧でうまいし。ひとつのストーリーが、さまざまなベクトルのサイドストーリーを巻き込みながら進んでいくスピード感と緊張感がうまい。とても陰鬱で重苦しいテーマと、品良く軽妙なユーモアの織り交ぜ方も見事。なにげない会話の、ちょっとしたタイミングでの笑わせ方がホントにうまい。
 これでもかってくらいに詰め込んだ膨大な情報量と、スマートなユーモア感覚と、あれもこれも欲張ってるわりに綿密で安定感のあるストーリー展開……アルゼンチンにはすごい才能がいたもんだなぁと思ったら、監督・共同脚本のファン・ホセ・カンパネラはアメリカのTVシリーズの監督としても数々の実績がある人で、人気ドラマの「Dr.House」や「LAW&ORDER」の演出も手がけているという。なるほど。ラブ・ストーリーとしての情緒とか、ヘヴィなメッセージとか、凝った映像美とか、そーゆーものをめいっぱい炸裂させつつも、ぜんぜん自己陶酔してない。クールで洗練された距離感は、アメリカの人気TVシリーズを手がける中で磨かれていったものかもしれない。
 同時に、彼は“外国人”としてアメリカのショービズ界ド真ん中に身を置くことで、その長所と短所を客観的に見てきたはず。この映画が、確実にアンチハリウッド的な匂いをさせつつ、同時に、アメリカが築いた娯楽映画の系譜も素直に踏襲している独特のムードを持っているのは、つまり、そういうことなのだろう。で、こういう映画は、そりゃもう、エリス先生は文句なしにメチャメチャ好きだろうなと、しみじみ。

 ちなみに、中盤で唐突に出てくるサッカーネタがさすがアルゼンチン。そこのくだりが、ものすごく好き。もしアメリカでリメイクを作るとしたら、やきうに置き換えられるのかな。サッカーばかの介な国民性、というものを事件を解く重要な鍵にしてしまうところが最高。

 ところで。エリス先生の新刊『IMPERIAL BEDROOMS』は、またもやコステロの曲名と同じタイトルとゆーことからも想像がつくように『レス・ザン・ゼロ』の続編。当時の登場人物たちの再会の物語に殺人事件を絡めたサスペンス……て、引っ越しのバタバタで読みかけて放ってあるんですが。70年代の殺人事件の謎を解くミステリーに、事件に関わった人たちの友情と愛情を描いた『瞳の奥の秘密』に通じるものがあるのだろうな。うーむ、まぁ、ほんとにしつこいよーだけど、彼がこの映画をベストに推す理由がものすごくよくわかるわぁ。
 と、なると、この『IMPERIAL BEDROOMS』を早く読まねばとの思いがまた募る。でも英語なので、覚悟をきめてエイと読み始めないと(涙)。もうすぐ読みます、今読みます、もうちょっと涼しくなったら読みます……と、ズルズル引き延ばすオレの脳裏には、小学生時代の夏休み読書感想文の苦い思い出がこみあげてくるのでした。


Imperial Bedrooms

Imperial Bedrooms