Less Than JOURNAL

女には向かない職業

ブライアン、おそろしいこ!

 昨日(12日)の日本時間午前9時、ブライアン・ウィルソンの公式サイトで新作Brian Wilson Reimagines Gershwin』が全曲ストリーミング公開されるスペシャル・イベントがあった。これまでもいちおう全曲ちょこっとずつ試聴はできていたが、アルバム発売前のプロモーションとして全曲試聴とは。これからこういうスタイルが増えるのか、あるいは本作はいちど聞いてもらえればわかるという自信のあらわれなのか。とにかく、なんとも太っ腹な企画。

 そして、毎日めざましを5分おき×5本セットのわたくしはといえば、この日は9時5分前に自然と目がさめた。こんなの初めて!すげえや、自分。つか、ブライアンが起こしてくれのたか。あるいはガーシュインさんかしらん?きゃっ。

 いやー、困った。


 ほんと、困りました。


 何が困ったって……

 あまりに素晴らしすぎる!

 そりゃ、ブライアンがガーシュインを演奏するってんだから。もちろん、良くないはずはない。とはわかっていた。かなり、かなり、かなり良いはず、とわかっていましたよ。が、こんなに良いとは思わなかった!困った!すごい!なんか、いつもすごいすごい言ってると説得力ないけど。ホントにすごいから仕方ない。

Brian Wilson Reimagines Gershwin

1. Rhapsody in Blue/Intro
2. The Like in I Love You
3. Summertime
4. I Loves You, Porgy
5. I Got Plenty o' Nuttin'
6. It Ain't Necessarily So
7. 'S Wonderful
8. They Can't Take That Away from Me
9. Love Is Here to Stay
10. I've Got a Crush on You
11. I Got Rhythm
12. Someone to Watch Over Me
13. Nothing But Love
14. Rhapsody in Blue/Reprise

 なので。とりあえず、現時点でのファースト・インプレッションを書き留めておきます。


 アルバムは、短いイントロダクションの「ラプソディ・イン・ブルー」から始まる。

 これがもう、いきなり「SMiLE」冒頭のコーラスワークそのものなわけで。

 ちょっとやそっと聴きかじった程度で音楽をエラソーに語ろうとすんなヨロシク、と音楽の神様にぶん殴られるようなショック。ああ、わたしの予想はスタート地点から間違っていたなぁ。と、思い知らされるわけである。

 予想というのは、つまりわたしはブライアンにとって“ガーシュイン作品集”というのは当然《アウェー》なものになると勝手に思い込んでいたわけである。あちらの土俵にお邪魔する、ということだろうと。
 たとえばロッド・スチュワートのようなロック・ミュージシャンが、歳をとってタキシード姿でオーケストラをバックに歌うような……まぁ、そこまではやらなくても、とにかく方向性としてはそっちだろうなと決めつけていた。
 ところが、それが大間違い。全然アウェーじゃない。むしろホーム。なんつか、完全にブライアンの土俵。とにかく、他人様のナワバリにちょこっとお邪魔して歌う……なんてものでは全然ない。

 なんというのか、これだけはパッと聞いただけで断言できる。もう、なんか、これ、ブライアン・ウィルソンのアルバムですよ。

 いわば、自分ちにガーシュイン呼んじゃったみたいな、で、一緒に遊んでるうちにガーシュインもすっかり居心地がよくて「ボク、ここんちの子になっちゃおうかな」って言い出すみたいな。それくらいの《ホーム》感があります。

 イントロに続いて始まる「The Like in I Love You」は、今回、ガーシュイン財団が史上初の《加筆》を許可した未発表曲のひとつ(他にもう1曲収録)だが。もう、ブライアンの曲なの。
 どの曲とは言えないけど、「Add Some Music To Your Day」系というか「Love and Mercy」系というか……、特にヴォーカル面ではカムバック以降のブライアンを象徴するともいえる優しくスイートなスロウソング。

 続く「Summertime」や「I Loves You, Porgy」などはもう、誰もが知っているスタンダードソングだが。それでも、ふとこれがガーシュインの曲だったかブライアンの曲だったかわからなくなってしまうくらい。遠い道のりを歩いてきた哀愁と、すべてを乗り越えた慈愛と、赤ちゃんのような無垢な至福と……いろんなものがフワフワと漂って、やがて溶け合ってゆく、あの感じ! まさに、まさに、ジスイズBWサウンド。あと、曲のつなぎかたが全体的にちょっと『SMilE』っぽいのもまた、思わせぶりなポイント。ちなみにエンジニアはアル・シュミット大先生。

 しつこいようだけど、これはあくまでファースト・インプレッション、というのを前提に書くけど……初めて全編とおして聞き終えた時に思ったこと。それは、この作品集はつまり『SMiLE』のパラレル・ワールドなのだろうか、ということ。

 架空のスタンダード・ソングや伝統音楽の破片をパズルのように鏤めながらアメリカなる国を端から端まで、そして過去から未来まで旅していったのが『SMiLE』。で、その世界観をジョージ・ガーシュインの生涯の仕事と重ねてみたら、あら、ピッタリ重なり合う。そんなことなのかな。まだハッキリとは理解できてないんだけど。

 音の感じとしては、むしろ『That Lucky Old Sun』のほうに近い気がする。でも、考えてみれば、『SMiLE』にとっては、あのアルバムもひとつのパラレル・ワールドだったわけだから。

 もちろん『SMiLE』とか『That〜』だけでなく、ビーチボーイズ時代も含めたブライアンの歴史がいろんな形で織り込まれている。「I Got Plenty o' Nuttin'」では「素敵じゃないか」を軸に、かなりワクワクものの『ペット・サウンズ』風味な世界が展開されているし。「Someone to Watch Over Me」も、ちょっと「ドント・トーク」っぽい骨組みかなぁ。コーラスやアレンジにおける、あのブライアン・バンドの面々の大活躍も大きいのだろう。たぶん、俯瞰から見た「ブライアン・ウィルソン的なガーシュイン」というカタチをうまく作り上げている。

 昨日のストリーミング公開後、Twitter/Facebook上にはブライアンから以下のメッセージが寄せられた。

Thanks everyone for loving this record. This is the most exciting release I’ve ever done. Call me crazy, but as all of you know, George is my man. Stay tuned and stay cool! Nothing But Love, Brian

 ジョージ・イズ・マイ・マンというのは、作曲家ガーシュインへの最上級のリスペクトというのは理解してますけどね、でもね、ブライアンがひゃーひゃー興奮しながら言っているところを想像すると、なんか、デレデレの乙女なコメントに聞こえてしまう(笑)。『SMiLE』世界初演時、開演前の楽屋で緊張のあまりポール卿に向かって「キスしていい?」とワケのわからないことを口走り、あげく「舌は入れるな」と卿に言われてた光景を思い出してしまうぢゃないかぁぁぁ(萌)。とか、余計なことを想像しつつも、まぁ、アルバムを聞いてしまった今では理解できなくもないっつーか。ありえないことなんだけど、ブライアンとガーシュインの友情を感じる。まじで。一心同体っていうか、合体っていうか。なんか、一方的な感じがしない。ふしぎなくらいに。

 しかし、ブライアンってのは本当にロックンロールの子供なんだな。このアルバムでもしみじみ思う。「They Can't Take That Away from Me」は「ヘルプ・ミー・ロンダ」調の中に♪ブギリブギリシュッ〜とか、♪ワッパッパとか、ドゥーワップ風フレーズをふんだんに盛り込んでめちゃくちゃ楽しそうに歌っているし。完全に自分の土俵。「I Got Rhythm」なんか、もう「Desert Drive」みたいだし。すでに、この曲をステージ上で歌い踊る《3歳児こと68歳》の姿が脳裏にハッキリ浮かんでおりますもの(笑)。

 でも、マジメな話、歌詞の面では「I Got Rhythm」=「I Can hear music」だよ。と、気づいたよ。て、いや、あれもカバーか。しかも歌ってるのカールだし……あ、カールとも一心同体なのか。

 いよいよ全米では8月17日リリース。

Brian Wilson Reimagines Gershwin

Brian Wilson Reimagines Gershwin



【FYI】たいへんなことに!アメリカ西海岸時間で日曜正午(今パッと計算してみたら、日本だと月曜午前4時?違ってたらごめん)から約1時間にわたり、今度はfacebookでブライアンが登場してファンの質問に答えるそうだよ!ほんまかいな!ブライアン、そんなちゃんとしたプロモーションできるのか!? もしかしたら、デズニーのことだからリリースに先がけて精巧なブライアンおしゃべりロボの開発に成功したのかもしれない!とにかく、Q&Aタイムの前に今回も新作まるごとストリーミングが奮発されるそうです。ので、がんばれる人は月曜午前4時がんばれ!

【FYI・その2】それで、まぁ、そんな早い時間に起きられないよーという方は、来る8月18日(水曜日)、新宿・ネイキッドLOFTにてCRT&レココレのトークライブ《サマータイムだよ!ガーシュイン!の巻》があります。いちおガーシュイン特集ですが、もちろんブライアンの新作についてもたっぷりやりますよん。18時半開場・19時半開演。電話予約も受付中。詳しくはネイキッドHPなどで。