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#listening: Dr.Demento Covered In Punk / Various Artists

#listening "Dr.Demento Covered In Punk" Various Artists

 おもしろレコード愛好家あるいはライノレコード・チルドレンの誰もががっつりお世話になってきたに違いない、ノベルティ・ソングの皇帝“Dr.Demento(ドクター・デメント)”ことDJバリー・ハンセン師匠。

 


Tribute to Dr. Demento and the old days

 

 御年77歳にして、今も毎週ネットラジオを配信するなどお元気で活躍とのこと。

 まぁ、昔から77歳くらいに見えていたので、まだ77歳なんだ感もありつつ。

 というわけで。ノベルティ・ソングというものの存在を初めて知った頃からお世話になってきたというのに、今頃になって今年の1月にニュー・アルバムがリリースされていたことに気づきました。すんません。ほんとにすんません。1970年にDr.Dementoとしての活動を始めてから50年近く経つわけで、しかも最近はYouTubeだの定額ストリーミングだののおかげで、家にいながらシロウトなりのノベルティ・ソング発掘もできるようになったし、さすがに新譜を出すって感じでもないですよね……と思ってましたが。あまかった。デメント博士、さすがでございます。

 しかも、今回のお題はパンク!


 パンク・スタイルによる、ノベルティ・ソングのカヴァー集です。

 

『Dr.Demento Covered In Punk』

Dr Demento Covered in Punk

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open.spotify.com

 

 新鮮。なかなかにゴキゲンな仕上がり。CDではみっちり2枚組(限定で出ていたアナログは3枚組)の2時間4分。久々にデメント博士のリズミカルな語り口も堪能いたしました。そして、なんでかな、別にクリスマス・アルバムというわけではないのに、なんかクリスマスっぽい感じがするのは。今の季節にもぴったり。メロコアの明るい泣けメロや、ある意味「ジングルベル」的ともいえる♪ジャジャジャジャッ〜というビートが、クリスマスのめでたさとせつなさに共鳴するのでしょうか。

 

 今回の企画の立役者は、日本のアニメが大好きなニューヨークのオタクパンクバンド“オオサカ・ポップスター”を率いるジョン・キャフィエロ。Dr.デメント・シリーズの熱烈なファンで、チルドレンを自認するキャフィエロさんからデメント博士への「パンク編を作りましょうよー!」という熱いラブ・コールでCD化が実現したという。最初にキャフィエロさんは「サーフィン・バード」や「モンスター・マッシュ」を例にあげ、ノベルティ・ソングがいかにパンクに多大な影響を与えているかを力説したとか。「ラモーンズの歌詞なんて、いわば全部ノベルティ・ソングじゃないすか」と。ポップス・ファンがラモーンズノベルティと言ったら怒られそうだけど、パンク・バンドの人が言うんだからOK。ナイス説得力!

 

 もちろん「サーフィン・バード」(by Nobunny)や「モンスター・マッシュ」(by The Kids Of Widney High)も収録。コメディアンのアラン・シャーマンが「Rag Mop」をサーフ・ネズミが主人公の替え歌にした「Rat Fink」(1963)は1979年にThe Misfitsがパンク・アレンジで発表して以来、もはやパンク版のほうがスタンダードになっているけれど、今回、このバージョンをカヴァーしてるのは日本が誇るホラーパンクの超カリスマ、BALZACだ。

 

※《何の参考だかわからないけど、参考画像》

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Amazonではアホみたいな値段がついているのでリンクしませんが、RHINOハンドメイドから出たアラン・シャーマンBOX『MY SON, THE BOX』。すごかった。まず、見た目がすごい!あるベクトルでの、ライノの《匠》の最高峰といえよう。

 で、「Rat Fink」でおなじみのThe Misfitsは、これもDr.Dementoでおなじみのキモコワ・ノベルティ「The Cockroach That Ate Cincinnati」をカヴァー。ネズミじゃなくてゴキブリかー。こわいので、YouTubeは貼りません。あとは各自で。


 そして言い出しっぺのオオサカ・ポップスターは当然、いちばんの大活躍。オープニングでは“Osaka Popstar's Demented Punk Orchestra with the Roto Rooter Goodtime Christmas Band”なんていう、いかにもそれっぽい名前で参加。懐かしのDr.Dementoのテーマソングをポップなパンク・アレンジで演奏している。オオサカ・ポップスター名義でもコメディ・コンビ、バーンズ&バーンズの「Fish Heads」(1978)などヒネりの効いたカヴァーを爆裂ポップ&パンク・サウンドで聴かせてくれる。

  やはりチカラの入れようが違う。今回、こんなkawaii anime(笑)な「フィッシュ・ヘッズ」のPVも作っちゃったよ。

www.youtube.com

 

 ね、さすが、デメント博士チルドレンを自称するだけのことはある。

 と、こういうチルドレンが登場すると、元祖チルドレンも黙っているわけにはゆきませぬ。デメント博士が世に送り出した最大のノベルティ・スタァ、アル・ヤンコビックも「いざ鎌倉」とばかりに駆けつけて、ラモーンズ「Beat OnThe Brat」の新録カヴァーを提供。ちなみに、このアルバムではヤンコビックさんの大ヒット曲「今夜もイート・イット(Eat It)」の少年ナイフによるカヴァーも収録されている。

 そして、もうひとり。キャフィエロさんからするとデメント門下の“兄弟子”みたいな存在に違いないのが、B-52'sのフレッド・シュナイダー。フレッドさんも、気合い入ってるわー。これまた新録音による、エレクトロ・アレンジな「Fluffy」で参加。1979年にグロリア・バルサム嬢が発表したこの曲、ノベルティ・ソング好きにとってはセリーヌ・ディオンタイタニックの主題歌くらいおなじみでしょう。この曲を発掘したデメント博士により「世界最悪レコード」の称号まで与えられた、“音痴レコード”ジャンルの最高傑作。この曲を選ぶという変態シュナイダーさんのセンス、流石すぎてグゥの音も出ません。変態!(超ほめてます)

 


Fred Schneider - "Fluffy" (From Dr. Demento Covered In Punk)

 

 愛犬を亡くした悲しみを歌ったペット・ロス・トーチ・ソング(?)をせつなくキュートにポップに、そして全然泣けない感じに仕上げています(笑)。

 

 でも、この曲に関してはやっぱり、オリジナルのグロリアさんのバージョンには誰もかないません。つか、かなったらヤバいというか。

※破壊力すごいので視聴注意。


Gloria Balsam - Fluffy

 あのフローレンス・フォスター・ジェンキンズ様も、ひょっとしたら負けるかも。ジャケも含めて完璧すぎる1曲。

 

 さて。このコンピレーションのテーマはパンク・カヴァーがテーマだから、当然、中心となるのはオオサカ・ポップスターを始めとする70〜90年代のハードコア・パンクメロコア系バンドではあるけれど。もちろん、それだけじゃない。これまでのデメント博士シリーズとまったく同じように、きっぱりジャンル分けされたシリーズのように見せかけて、実際は形骸化したジャンルにはまったく縛られることなく、精神としてのジャンルにとことんこだわった選曲。コレクターの蒐集自慢とはまったく別世界。だから面白い。飽きない。魅了される。

 

 アメコミ・ファンならよくご存じ、昨年亡くなった往年の名優アダム・ウェスト。とりわけ「バットマン」の声優として知られたウェストさんのたぶん遺作に近い仕事になると思うのだが、1950年にフィル・ハリスによって録音され、その後もダニー・ケイレイ・チャールズなどいろんな人によってカヴァーされた「The Thing」が収録されている。 


Adam West - "The Thing" (From the album Dr. Demento Covered in Punk)

 

 この曲の前にはThe Humburglarsの演奏による「バットマンのテーマ」が入っていて、それに続いてアダムさんの歌声が2曲……というリスペクトフルな構成も素晴らしい。他にも、ホラー/SFレジェンド系(?)ではスター・トレックのカーク船長ことウィリアム・シャトナーさんが、ザ・クランプスの「Garbageman」カヴァーをしていたり。ジョーン・ジェット&ザ・ブラック・ハーツによる「Science Fiction/Double Feature」パンク・カヴァーは、映画『ロッキー・ホラー・ショー』劇中歌だしね!ちなみにこの曲は2004年、日本先行発売で、結局、諸般の事情とかで日本のみの発売となり国際レア化している『ネイキッド』に収録。“諸般の事情”とは裸ジャケ問題なのだろうか。ドノヴァン「魔女の季節」のカヴァーも入っていて、いいアルバムなのにね。

NAKED

NAKED

 

 
 と、これだけでも満腹!と思うかもしれないが。まだまだいっぱい、最高のノベルティ・ソングが詰めこまれてます。ザッパの「My Guitar Wants To Kill Your Mother」(by The Meatman)もあるよ\(^o^)/。ノリノリで次から次へと面白い曲やおしゃべりで盛り上がってゆくラジオDJ番組スタイルなので、ラジオを流しっぱなしみたいな気分で楽しめて年末大掃除のBGMにもバッチリです。今回、パンクは大掃除に合うことを発見しました。勢いよくがんがん断捨離する時とか、パワフルにがしがし雑巾がけする時のBGMにおすすめです。

 

【おまけ:きょうのクリスマス・ソング
 ジョーン・ジェット&ザ・ブラックハーツが、Spotify限定クリスマス・シングル「リトル・ドラマーボーイ」を配信中。カッコいいです♡ こんなトッポい♪ラッパパパーパーは聴いたことがない! 暴走族の♪パララパラパラー(「ゴッドファーザー・愛のテーマ」)に匹敵する。野郎どもがアウアウいってるコーラスも、サンタ姿のジェットねえさんにびしびしムチ入れられて空駆けるトナカイたちの咆哮にも聞こえてくるのでした。※個人の妄想です。

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