【アメクラNewsいろいろ】ネゼ監督、いよいよMETデビュー。
今シーズンからメトロポリタン・オペラの音楽監督に就任したヤニック・ネゼ・セガン様、音楽監督として初めて指揮台に立った新演出『ラ・トラヴィアータ(椿姫)』。若き俊英の晴れ舞台にふさわしく、この新演出版の演出を担当したのはブロードウェイのスーパースター演出家のマイケル・メイヤー。そしてタイトルロールはディアナ・ダムラウ、アルフレードにはファン・ディエゴ・フローレスというゴールデン・コンビをキャスティング。ネゼ時代の始まりにふさわしい、華麗なる舞台にNYタイムズのガンコおやじトマシーニ氏も合格点(ま、ちょっと宿題出してたのは既定路線)。
今朝、ラジオ生中継で聴いた印象ではフレッシュでダイナミックでロマンチックで非常にネゼっちらしい椿姫で、彼がメト・デビューを飾った時の『カルメン』の興奮を思い出した。カーテン・コールの拍手喝采もすごかった。そして、最後にオーケストラのメンバーたちをステージ上にあげた。中継のおねえさんもびっくりして笑いながら説明していたけれど、翌日のSNSでもキャストとミュージシャン、スタッフ、裏方、すべての関係者に感謝を伝えていたネゼらしい。
ネゼは、フィラデルフィア管とのツアーでは全員に感謝の気持ちとして「ツアー中どこでも1回マッサージかフェイシャル受けられる券」というのを配り*1。ベルリン・フィルのヴァルトビューネ・コンサートに客演した時には、ベルリンだかドイツのサッカーチームのユニフォームを全員に配り、そしてアンコールでは自らそれを着用して登場するという決死のスベリ芸まで披露。とにかく、そんな愛されキャラな上に、本当にオペラというか歌モノに対する集中力、細やかな表現作りがシロートのワタクシでも「ほぉーー」と唸るくらい素晴らしい。もともとキャリアの始まりに東海岸での合唱指揮という経験があるだけに、メトの合唱指揮者も以前から高く評価していたし。
そんなわけで、レヴァイン時代の最後10年くらいはオーケストラから芸術監督の名前が出たことがあるかしらと考えてしまうくらい傍目から見ても距離感があったのが、もう、ネゼに決まってからは本当にいい雰囲気でお互いぐんぐん距離を縮めてきております。昨日、ちょうどスカラ座の演奏映像を見ていたんだけど、ああいうコマ劇場っぽさというか、“ドンバさん”的ハコバン感というのもそれはそれでたまらなく魅力的ではあるが、メトのオーケストラの魅力はそういう味わいとは正反対。凄みのある巧さというか。ある部分では、お隣のニューヨーク・フィルよりもずっと都会的なシャープさがあるし。そのあたりは、よくも悪くもレヴァインの音楽性に加えて亭主関白的なワガママっぷりに鍛えられた面もあるのかな。ネゼ&メト・オーケストラでワールド・ツアーをしたいというプランはぜひ実現してほしいと本当にワクワクしている。
歌劇場の公式ではなく、メト・オーケストラのほうで運営されているInstagramアカウントではこんな写真まで! いや、なんか、ひとり、メトじゃないけどめちゃ楽しそうな子が混じってますな……。わたしにとってはジョンとポールに匹敵する奇跡のツーショットなんですけど(笑)。(※追記:あの、わたくし、ツーショットしか目に入ってなかったんですけど、そのお隣は今をときめくスーパースターのブラッドリー・クーパーさんだったんですね!ホルンを持っているからといってホルン奏者とは限らないという教訓(*゜∀゜)!ちなみに、グス太さんはついに今回『オテロ』でメトデビューです)
他にも、新生メトを印象づけるような複数プランが進行中だそうで、メト史上初めて女性作曲家への新作委嘱というのもある。そのうちひとつは、昨年のブッカー賞受賞作『Lincoln In The Bardo』になるかもしれないとのこと。他にもメイソン・ベイツも新作あるとかないとか。で、それらの作品がそうなのかはわからないですが、ブルックリンのBAMとの共同制作もあるようだ。あと、ネゼとしては、今、アメリカでいちばん面白いオペラ・カンパニーのひとつであるオペラ・フィラデルフィアとのコラボレーションもやりたいみたいだ。
と、いよいよネゼ=メト新時代の幕が開きました。
と、思って、昨日は朝からいろんなニュースを趣味の検索&クリップしておりましたら、エサ・ペッカ・サロネンがついにロンドンのフィルハーモニア管を離れるとの記事が! ああ、数年前からずっと「作曲活動に専念したい」と言ってたし。まぁ、そろそろ、そういう時期ですよね。それにしても、と、こんなニュースが出ると、アラン・ギルバートの次のニューヨーク・フィル音楽監督は下馬評つーかマスコミ評も断トツでサロネンだったはずなのに、と、しつこく思い返してしまう未練がましいアタシ。
当時、私なんか、もう、すっかりその気で、ちょうどフィルハーモニアと来日したサロネンを「ああ、このひとが次のNYの音楽監督なのだわ♡」と思いながら見つめていたものです。だってもう、引き受けない理由が見つからないじゃないですか。リンカーン・センターの数ブロック先にはサロネンさんの大好きなアッポー・ストアがあるし、NYフィルといえば街をあげての現代音楽フェスティバル主催してるし、そもそもギルバート時代の最後のほうには作曲家としてもNYPに深くかかわっていて、それは今後への布石だと誰もが思っていたし……なのに結局「作曲に専念したいので、今後はもうオーケストラの音楽監督は無理」ということらしい、とかいう方向のまま、あれよあれよでズヴェーデンさんに決まったのだった。しかし、その後、実はサロネン自身の発言により、彼はNYからオファーも相談も受けておらず、作曲に専念したい云々の報道は「言われたこと」ではなく「そう言ってるらしい」だっただけだと明らかになる。で、ふたを開けたらズヴェーデン激推しだったNYフィル社長はすぐにNYやめちゃったし、と、けっこうオトナな匂いのグダグダを経て、結局、LAフィル時代にサロネンとがっちりタッグを組んでいた盟友ボルダ女史がNYフィルのCEOになっちゃうし*2。なんでサロネンじゃだめだったんですかね。ぶつぶつ。
が、そんな愚痴をこぼしてる場合ではない。その夜遅くになってから飛び込んできたブレイキング・ニュース。フィルハーモニアを離れるサロネンが、2020年からマイケル・ティルソン・トーマスの後任としてサンフランシスコ響の音楽監督に決まったとな。うわー。もう、びっくりーー。いやー、本当にびっくりしたわ。
サンフランシスコ響といえば、3年くらい前に「もう、エラス・カサドで決まりでしょ」とかいう記事をサンフランシスコ・クロニクルで読んで。それをずーっと信じておりました。あれは社交辞令だったの(´;ω;`)。
しかし、まぁ、悔しいけれど(←NYPファンとして)ばっちり人事ではある。
ティルソン・トーマスも、旧友の後任をとても喜んでいた。まぁ、ティルソン・トーマスとサロネンといえば、どっちも若い頃は燕尾服が舞踏会の王子様みたいなアイドル・キャラだったし。ちょっと年上のおじさまクラシック・ファンで、放っておくといまだに「ティルソン・トーマス?サロネン?あんなチャラい若者!」みたいなことを言い出しそうな方がいらっさるが、まぁ、当時の天才王子ぶりを思えばむべなるかな。
ただ、ひとつ気になるのは……サンフランシスコつーたら、カリフォルニア州ではないですか。つか、ざっくり大きなくくりで言えば、サンフランシスコ響はLAフィルのお隣のオーケストラではないですか。
こんな感動的な抱擁と共に、たすきをつないだサロネンとグスたんが……今度はお隣同志になるなんて。つか、このふたり、同じ事務所じゃないか(笑)。
と、まぁ、いろいろとアメリカはまた動き出しているなぁ。思えば、ドゥダメルがLAフィルの、アラン・ギルバートがNYフィルの音楽監督に就任したのが2009年。ちょうど10年で、また次へ向かっての変化や革新があるのかな。
なんてことを思っていたら、今日はまた、NYタイムズに驚きのニュースが。
オスモ・ヴァンスカが、2022年にミネソタ響の音楽監督を退任するとのこと。
記事のタイトルにもあるように、まさに“リスク・テイカー”の覚悟をもってオーケストラと共に歩んできたヴァンスカさん。組合と経営陣との交渉決裂により、本拠地の16か月にわたるロックアウトが音楽界にあたえた余波は計り知れないものがあった。まぁ、ただ、とはいえ2022年はまだちょっと先のこと。これからの活躍をお祈りします。
まぁ、そんなわけで、つい去年出したばかりの本も、アップデートしたい情報いっぱいですわ。
それはさておき。
先日もブログ記事で紹介した、リアノン・ギデンズがホストを務めるメト×WQXRのポッド・キャスト新番組“ARIA CODE”もいよいよ始まりました。第一回目は公演にあわせて『ラ・トラヴィアータ』。1幕の最終場面をとりあげてダムラウのライブ録音を聴かせるなど、ネゼっち新時代に向けての祝砲みたいなめでたい回だった。
そして、ネゼっち就任の祝砲をもうひとつ。
メト・デビューを飾った『カルメン』から昨年の『さまよえるオランダ人』まで、ネゼっちがメトで指揮したライブ音源を集めたコンピレーションがリリースされた。
すばらしい!ネゼっちおめでとうー\(^o^)/