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女には向かない職業

摩天楼を夢みて

  • 摩天楼を夢みて(1992年・アメリカ)《DVDプレミアム・エディション》

摩天楼を夢みて プレミアム・エディション [DVD]
ピューリッツァー賞を受賞した、デヴィッド・マメットの戯曲『GLENGARRY GLEN ROSS』の映画化。舞台版の再演が昨年のトニー賞でベスト再演賞(?)を受賞したこともあってなのか、まさかの初DVD化で昨秋日本版も発売された。紀伊国屋グッジョブ。10何年か前にビデオで見て、やたらめったらフ●●ク、フ●●クばかりゆってる登場人物たちのいかにも舞台劇なマシンガン・セリフの応酬に「うわー、なんちゅークールな映画なんだー」と感動して、もういちど見たいとずーっと思っていたのだ。実はLDも持っていたのだが、ウチにハードなき今ではLDは単なる大きなカガミね(涙)。

あやしげな不動産を口八丁手八丁で売りつけるセールスマンたちの、ある雨の夜から翌日の昼間までの集団劇。みたいな。もう、その設定だけで超クール。原作ではシカゴだった舞台を、映画ではニューヨークに移しているのもよけいにクール。ウエイン・ショーターのテーマ曲とか、アル・ジャロウが歌う「ブルー・スカイ」のエンディングとかもイヤミなくらいニューヨーカーでクール。とにかくクールだ。まぁ、ある意味、地味、と言い換えてもいいのだが。ジャック・レモンアル・パチーノアレック・ボールドウィンエド・ハリスアラン・アーキンケヴィン・スペイシージョナサン・プライスという当代随一の新旧演技派オールスター・キャストで、顔ぶれはハデだが中身はジミ。というか、ふだん戦隊ドラマでキャーキャーゆわれてるヒーローたちが勢揃いして、ひたすら真剣勝負の武道大会をしてるような感じとゆーか。あるいは「オーシャンズ12」がエリック・クラプトンみたいな映画だとすると、この映画はロバート・ジョンソン。みたいな。100分間、息つくヒマもないくらいの演技バトル。演技がいいとか悪いとか全然わかんないわたしのようなシロートにも、名優ジャック・レモンアル・パチーノの一騎打ちはホントに火花がバチバチ散ってるのが目に見えるくらいの緊迫感だし。あとは、映画版のオリジナルキャラだという、笑っちゃうほどイヤミな本社のエリート社員に扮するアレック・ボールドウィンが超カッコええ。そして、あたらめて見てホレボレしたのがケヴィン・スペイシー。『セブン』でブレイクする前で、舞台でのキャリアはあったけど映画界ではまだ無名に近い俳優だったわけだが。コネ入社の支社長という、いちばんセコくて情けない汚れ役。なんか、映画界のベテランにまじって「負けねーぞ」っていう意気が伝わってくる熱演だ。この作品での共演により、ジャック・レモンからもおスミつきをもらったとか。ケヴィン・スペイシーについては、書きはじめると長くなりそうなので別項↓に分けるわ。

で、このDVDは特典映像も豊富で、とりわけジャック・レモンの思い出を彼の息子や、本作のジャック・フォーリー監督らが語る30分間のインタビュー集『Magic Time〜夢のひと時〜』や、ジャック・レモンがゲスト出演してマメット作品などを語っているトーク番組『チャーリー・ローズ・ショウ』なども収録されており、ジャック・レモン追悼に力を入れているのが泣ける。でも、確かにジャック・レモンの凄さを知れば知るほど、この映画が面白くなるわけだしね。この特典って、アメリカ版からの移植なのかな。そうだとしても、日本版に収録してくれてありがとう。しつこいようだがグッジョブ紀伊国屋だ。ちょっと値段は高いけど、ぜんっぜん許すッ!

で、買ったままほったらかしておいて今ごろ『摩天楼を夢みて』を見てジャック・レモンにシビれていたわけですが。なんと、彼がアカデミー賞主演男優賞を受賞した作品でありながら、日本未公開でビデオさえ発売されていなかった『セイヴ・ザ・タイガー』が今月24日、まさかのDVD発売だそうですよ。いやー、レモンさんに呼ばれたのか?

セイブ・ザ・タイガー [DVD]

セイブ・ザ・タイガー [DVD]

ケヴィン・スペイシー

昨年公開された、ケヴィン・スペイシーの監督作品『ビヨンドtheシー〜夢みるように歌えば〜』。ボビー・ダーリンの伝記映画だが、最初に彼の伝記映画が企画されたのは80年代終盤だったという。コドモの頃からダーリンの熱烈なファンだったスペイシーは、そのウワサを聞きつけ、当然のことながら自らがダーリンを演じたいし、できれば製作もしたいと熱望したが、当時映画界ではまったく無名だった彼が相手にしてもらえるはずもなく。が、幸か不幸か、映画は企画自体がボツになり、スペイシーは「いつかは自分がダーリン映画を」という野望を抱く。で、その日のためには映画界で名をなさねば!と一念発起したのである。
その後、スペイシーは『セブン』の異常犯罪者の快演により一躍その名を知られる。そもそもあんなリスキーな異常者の役を引き受けたことじたいが快挙である、と絶賛された。が、昨年、わたしはスペイシーのインタビューを読みながら考えた。
なにごとも、思い切って成し遂げるものにはモチベーションが必要である。俳優にとって、そのモチベーションとは往々にして“名声への階段”だったりするわけで。スペイシーの場合も、ある意味ではそーゆーことだったりする。が、彼の場合は単なる“名声”ではない。
名声があれば、ダーリン映画を撮れるよーになる。だから仕事がんばるぞー。
という、そのひたむきな情熱が『摩天楼を夢みて』や『セブン』のような大胆な役柄を引き受けさせたのではあるまいか。
以上、わたくしの妄想過多な推測ではある。
が、本当にそうかもしんない。つーか、絶対にそうなんだって。と、わたくしは信じて疑ってません。なんたって、まだ映画化も決まる前から、自分が初めて歌って踊る映画はダーリン映画にしたいのだ! と固い決意をもって、アカデミー受賞作の映画版『シカゴ』の主演をリチャード・ギアに譲ったというのだから。あんた男だよ!
夢と書いてオトコと読むんだね。
みたいな。

『摩天楼を夢みて』の特典映像に収録されているジャック・レモンのインタビューで、彼は「人は“成功”ということを、有名なことやお金があることではかりたがる。が、自分が納得することができれば、たとえ道路清掃の仕事であっても成功なんだ」と語っている。
『ビヨンドtheシー〜夢みるように歌えば〜』は商業的には成功しなかったし、評判もさんざんだった。が、わたしは去年見た映画のベストワンとして迷いなくこの作品をあげるし、音楽家の“トリビュート映画”という意味で言えば、『レイ』よりも何よりも音楽的な視点をもち、愛情と敬意にあふれた大傑作だ。ジャック・レモンのように考えるならば、これはケヴィン・スペイシーの今までのキャリアのひとつの頂点ともいえる“成功”作だったと思う。
ということで、わたしの中では『摩天楼を夢みて』と『ビヨンドtheシー〜夢みるように歌えば〜』が非常に美しくつながったのです。あー、この映画の話になるとあいかわらず電波になるな。でも、あまりに好きだからしかたない。おわり。