Less Than JOURNAL

女には向かない職業

さよなら、さよなら ハリウッド

  • 『さよなら、さよなら ハリウッド』(2002年・アメリカ)


いやー、よく出来た話だ。
熟練のドタバタ芸に“おもしろいっ”と素直に笑わされつつ。一瞬、一瞬の間にもいろんなことを考えさせられる。
自分の中で、ふたつの脳みそが同時進行しているような快感。このビミョーな楽しさは、やっぱりウディ・アレン映画でないと味わえない。


メタファー、メタファー、またメタファーみたいなスルメ話なのに、表層的には内面のデコボコを見せることなく、一筆書きでサラッと書いた軽妙な小品っぽい手触りで全編を貫いてみせるステキな悪人ぶり(笑)。「ご都合主義のハリウッド式ハッピー・エンディング」というものを現実に成立させるとしたら、結論に至るまではアンチご都合主義とか、アンチ・ハリウッド式とか、ドロドロにアンチ・ハッピーなアイテムがいっぱい必要なのだ。ということを、さすがドロドロ裁判劇からハッピーな家庭人に落ち着いたウディ・アレンは上手に描いてるなぁ。とも思ったり。


18歳くらいの自分が観たら、たぶん、ものすごくイライラして後味の悪さばかりが残る映画に思えただろう。めちゃめちゃイイ女の元妻が、どうしてアレン演じるダメダメ男に執着するのか、とか。そういう設定からして“リアリティがない”と否定していただろう。しかし、リアリティがないからリアルなのだ。ウディ・アレンが自らのウダウダぶりを“ダメ男”として描いていても、彼自身はこれっぽっちも“ダメ男”とは思っていないとゆーところが、昔はどーにもこーにもイヤミな逆・優越感に思えてニガテだった。が、今は、そこが好きになってきた。人生、そういう風に信じてなければやってらんねーよ……と思う局面が、誰にでもあるのではないだろうか? そんなことを思いつつ、ものすごーく元気の出る映画として楽しんだ。自分のことをダメだと思っている時には、ひょっとしたらダメじゃないかもしんないヨ……と一抹の希望を抱かせてくれる映画かも。DVDパッケージに爆笑問題・太田の推薦コメントが載っているのを見て、ますますそう思った。最近、太田の好きなものはたいてい信頼する傾向にあるかも。同じものに刺激され、同じものにダマされてきた世代だから(笑)。


ここ10年ほどのウディ・アレン作品は、あの手この手のテーマを取り上げつつも観た後に抱く余韻の匂いが面白いほど変わらないというか。彼の映画は、ずーっとひとつのことを執拗に言い続けているんだなということをリアルに感じる。
往年の“喜劇俳優オマージュ”的な色あいの強い本作だけに、とりわけそーゆーことを感じるのかもしれないけど。

ものすごくひとりよがりな勧善懲悪。
そういうものに触れると、なんだかちょっと安心する。
うーん、これでいいんだよ……な? みたいな。


それはそれとして、わたしとしては、幼少の頃から憧れてきた“ウディ・アレンのニューヨーク”が映像として観られると、もう、それだけでうれしかったりするんだけど。
ウディ・アレンが毎週セッションしている、カーライル・ホテルのバー。
壁面いっぱいにマドレーヌちゃんの絵が描かれた、あのバーが出てきただけで拍手したくなった。あとは、セントラル・パーク。噴水のある公園は、今年の7月にも何時間もボーッと座っていたくらい大好きな場所で。ウディ・アレンが撮ると、実際に見るよりもステキな場所に見えてくる。
ウディ・アレンは、本当にニューヨークが好きなんだなぁ。
でも、それは我々がニューヨークに憧れる気持ちとは全然ベツモノで。
好きな気持ちと同じくらいに、ニューヨークが嫌いなのかもしれない。
東京に生まれ育ったわたしが、東京が大好きで、同じくらい大嫌いなのと同じように。


「やっぱりオレはLAは苦手だ。ニューヨークが好きだな」と思っている人がどう思うかはわからないが、そういう風に言う人になってみてぇなぁと憧れてるわたしのような人間には、最高にそーゆー気分を疑似体験させてくれる映画だ(笑)。

さよなら、さよならハリウッド [DVD]

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