Less Than JOURNAL

女には向かない職業

がんばれ!ベアーズ大旋風-日本遠征-

去年、R・リンクレイター監督によるリメイク版の公開前に初DVD化されたベアーズ3部作を、“トリプル・プレイ・パック”つーボックスで買ったはいいが、この3作め(原題THE BAD NEWS BEARS GO TO JAPAN)は誰もが“世紀の大駄作”だと言うし、だいたいのあらすじを聞いただけでおなかいっぱいで、なんとなく見そびれていた。
しかし、実際に見てみたら……あら、意外と面白いじゃないのよ!? でした。
まぁ、確かに、駄作じゃないかと言われたら駄作なのでしょうが(笑)。映画のジャンルのひとつで、わたしがとても好きな“素晴らしい駄作”系ジャンルでいえば、まちがいなく傑作ですよ。て、これ、褒め言葉ですよ。いかにもシリーズ3作目ならではのダラダラ感はあるし。1作めのビシッと完璧に構築されたストーリーや、2作めにおける「続編」というお題をきっちり守ったコンセプトに比べると、かなりの飛び道具というか何というか。しかし『ホーム・アローン3』のユルさに近い好感度がありますよ。1作めの監督であるマイケル・リッチーが製作者としてカムバックし、脚本も1作めのビル・ランカスター。そういう意味では、1作めにおけるテーマを、さらに日本遠征という突拍子もない設定および3作めというマンネリな環境の中でいかに展開させられるか……という実験作、と言えなくもない。

しかし、この映画がなんでこんなに面白く感じられたかというと、たぶん、初のWBC後に見たから。それに尽きると思う。興行的にも今ひとつだった映画だが、ひょっとしたら今がようやく旬の“見頃”かも。今から28年前の1978年、メジャーリーグはあまりにも日本から遠い場所にあった。その事実を、これほどまでに思い知らせる“記録映像”はない。

全米を制したとゆーのにダラダラと部屋でくさってるベアーズ諸君が、たまたまテレビのニュースで日本の少年野球チームを見る。アメリカの優勝チームと対戦するはずだった日本チームだが、アメリカ側の少年野球協会の意向で拒否されたとゆーことらしい。で、日本の野球少年たちがカメラに向かって「アメリカはオレらと闘う自信がないんだ。ちきんめ、ちきん、ちきーん」と挑発するのを見たベアーズは「なんだと。日本人なんかオレらがやっつけてやるー」と、さっそくテレビに出て日本遠征のための寄付をつのる。それを見た、借金まみれのインチキプロモーター(トニー・カーティス)がワラにもすがる思いでベアーズを連れて日本へ……。

当然、日本に着いてからは異国のヘンチクリンな習慣にとまどうベアーズ。靴をぬいであがる日本旅館。和式便器。もう、ぜんっぜんダメ。どこもかしこもアメリカみたいじゃない。なんだか、今となっては占領国の匂いがまだまだ残ってるような雰囲気に描かれている気すらする。そして、現ゴールデンゴールズ監督・キンちゃん司会の「オールスター家族対抗歌合戦」では、ジェリー藤尾夫妻や若原一郎一家がアメリカン・ポップスを堂々と日本語で歌いまくってトニー・カーチスの目がテン。日本なんか大ッキライだぜを全身に漂わせたトニー・カーチスだが、それでもソォプに行っちゃうというオトナ向けギャグもあり。当時のアメリカと日本との“遠さ”は、今となっては想像を絶するものがあるかも。エキゾチックなファーイースト。そんな中で、アメリカの国技たるベースボールをビシッと見せつけてやろうじゃないか……という展開になるわけだが、そんなヘンチクリンなファーイーストの少年野球チームはつおい! まぁ、アメリカ・チームとゆってもベアーズだからアレなんですが(笑)。鬼監督・若山富三郎のもとで厳しい練習を積んだ日本チーム、最初の練習試合ではベアーズにボロ勝ち。そこからまぁ、いろいろとあって、双方の敵対心をあおって日米対決をエキサイトさせようというトニー・カーチスの目論見とは裏腹に、両チームの少年たちは心を通わせていって……みたいなハートウォーミングな展開になってゆくわけですが。

ただチンプンカンな国として描いているのではなくて、そんな遠い関係である日米をつなぐ架け橋としての“野球”が描かれている。そこが何よりの感涙ポイント。京都へと向かう新幹線の中で、日米野球少年たちが野球談義に花を咲かせる場面がある。その中で、少年たちはサダハル・オウについて話している。ベアーズの中にもサダハル・オウって誰だ? と言うコがいるけど、あるコは「ベーブ・ルースハンク・アーロンよりもスゴいバッターなんだぜ」とバットを振ってみせる。「そんなフォームでベーブやハンクを超えられるもんか」と笑うコもいる。が、後日、日本の少年たちに誘われて、ベアーズはサダハル・オウを見るために野球場へと出かけてゆく。

当時、メジャーリーグにこんなにも多くの日本人選手が誕生するなんてことは誰も想像だにしなかった。けれど、つまり、この映画に出てくる1978年の日本の野球少年たちは未来の野茂、あるいは世代は少しちがうけれど未来の松井やイチローだったのかもしれない。そして、アメリカの英雄であるベーブ・ルースハンク・アーロンの記録を抜き、その“日本の野球”の記録を認めるか認めないかでアメリカ人が物議をかもしたサダハル・オウは、今、第一回のWBCで日本を世界一に導いた監督となっているわけだ。
そういえば、ゴジラ(のニセモノ)も出てきたな。これまた不思議なご縁。

やっぱ、この映画は今が旬。おもしろい。

アントニオ猪木も「モハメド・アリと引き分けた男」として登場する。チンプンカンでトンチンカンな国に、ベーブやハンクやアリといったアメリカのアイコンを負かすかもしれないアスリートがいる。スポーツが、日本とアメリカの距離を縮めるかもしれない。マイケル・リッチーがどこまで考えていたかはわからないけれど、21世紀のさまざまな予兆があちこちに隠れているような映画である。

アメリカが正しいとも言ってないし、日本が正しいとも言ってない。アメリカのことも、日本のことも美化してない。どっちにも味方していない。この映画、ものすごくグローバルな視点だと思った。だから、日本がトンチンカンに描かれていても潔く受け入れよう(笑)。

そういえば、ラスト・シーンでトニー・カーチス若山富三郎の耳元に「次はキューバに行こうぜ」と囁くのである。映画がヒットしたら次はキューバ編だったのか。いや、さすがにキューバでハリウッド映画を撮ることなんて不可能だったか。わかんないけど。とにかく、最後に出てくるコトバがキューバアメリカから日本、そしてキューバへ。今となっては、キューバ編が実現していたらさぞや面白かっただろう。

京都で(たぶん)、日米の少年たちに若山富三郎が少年兵たちの霊をまつった碑について説明をする場面がある。帽子をとって神妙な表情で話に聞き入る少年たち。そこで、トニー・カーチスが若山の話を中断させる。「試合前なのだから、互いにもっと敵対心を持たせないとダメだ」と、少年たちに「日米対決」をしむけようとする。なんだか、妙に心に残るシーンだった。ゼロゼロセブンばりにトンチンカンな日本を描くだけで映画としては充分なのに、あえてこんなシーンを入れたのは何故なのだろう。ホントに「あえて」という感じなのだ。エピソードとしてはサラリとした、深く踏み込むことなく遠慮がちと思えるほどの挿入なんだけどね。それだけに、逆に意味深なコダワリを深読みしたくなる。アメリカの国技・野球をテーマにとりあげたベアーズ・シリーズ、第1作では草野球場にはためく星条旗がアップになったラスト・シーンもなんだか思わせぶりだった。ハリウッド映画でありながら、どこかアンチ・ハリウッドな隠し味を匂わせている。これがマイケル・リッチーの体質なのだろうか。となると、リチャード・リンクレイターがベアーズのリメイク版の監督に指名されたことも、あるいはそれ以前にリンクレイターがまるっきりベアーズへのオマージュといえる『スクール・オブ・ロック』を撮ったこともなるほど納得させられる。
この第3作めも、リンクレイター監督のリメイク版で見てみたい。

(追記)
はまぞうの使い方がよくわからなくて、商品リンクが貼れないままです(泣)。今晩、もういっぺんヘルプ読んでみます。がんばれ!ベアーズで検索できる時と、できない時があります。ちなみに「がんばれ!ベアーズ」のレビューのとこに行ったら「注目のエントリー」にNohji's Rock'nRoll Shopが載ってて、ものすごぉぉぉぉくびっくりしました。異国でドッペルゲンガー見た気分。でも、申し訳ないことに上書き更新サイトなので誰のお役にも立ってない気がする。スミマセン。
(追々記)
やっと貼れた(激泣)。でも、貼ったあと、ふたたび検索でけなくなった。

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