Less Than JOURNAL

女には向かない職業

黒いスマ虎

突然、天の啓示のようにモーレツにモーレツに共栄堂のスマトラカレーが食べたくなり、ふだんはおとなの分別でガマンするのだが、今日はどういうわけかオノレのどこにそんな行動力が……と自分でもフシギなほどの素早さでサブウェイ特急に飛び乗って神保町へ。
思えば、ずいぶん長いことご無沙汰しておりました。どれくらい久しぶりかと言うと、共栄堂の隣のおしゃれ居酒屋がキッチンジローに変わっていたことを知らなかったくらい久しぶりである(つまり、どれくらいなんですか?)。うーむ。レトロな階段を降りてゆくと、キッチンジロー特有の揚げ物臭がムンムンに漂ってくるのはちょっとなぁ……。
しかし、久しぶりの共栄堂は何ひとつ変わっていなかった。
本日は奮発してビーフ1200円。頼んで30秒で出てくる、真っ黒カレー
ああ、しやわせだーしやわせだー。今、あたし天国にいるぅ♪ みたいな。カレー食べて、焼きリンゴ食べて、書泉だか三省堂で買ったばかりの本を出してパラパラとめくる瞬間の至福。ああ、こんな時、わたしは神保町にいるのが世界でいちばんしやわせだーと思います。
グルメ記事では「味」だけでなく「接客」とか「雰囲気」というのが点数として評価されるわけだが。この、共栄堂の気持ちいい空間というのは、なかなか点数というカタチでは形容できまい。「うわぁぁぁぁ」っという感激はないのだけれど、ものすごく深い感動がある。だから、たぶん中毒性があるというか。客の視点から言えば、オーダーして、カレーが出てきて、食べて、満足して、レジでお勘定して、出てゆく……という一連の所作のすべてがぜんっぜん変わらずにおこなえるスゴさが、スゴい。あまりにも心地よい。もう、どこにもムダがない。変えてほしいことが何もない。で、味も、お店の雰囲気も何ひとつ変わらない。それって、究極の完璧だ。
気がつけばキッチンジロー、富士そば、C&C、くいしんぼ……という激安ランチ店に周囲をみっちり囲まれており、しかし、昼ドラに出てくる「喫茶レストラン」みたいなレトロモダンなムードをフツーにかもしだして我が道を行き続ける共栄堂。ラブです。ランチタイムはコーヒーが飲めません。でも、そもそも、カレーをコーヒーと食うのはまちがっとる。カレーには水だ。そんな、忘れられつつあるニッポンの洋食の美学をもおせーてくれるの。そして「カレーに福神漬orらっきょ」という珍奇なコンビネーションの必然性というのも、思い知るね。つか、カレーと食べる福神漬がこんなにおいしいものとは……というありがたさを教えてくれたのが、そもそもスマトラカレーだった。このお店がなくなったら、しぬ。あ、あと、とんかつ茶漬けの「すずや」もなくなったら、しぬ。