Less Than JOURNAL

女には向かない職業

「山守さん、まだ音源(タマ)は残っとるがよ」

凄!!

アメリカン・レコーディングスに残した生前最後の録音から、またまた出てきた未発表音源。ジョニー・キャッシュ「最新作」アルバム"American V: A Hundred Highways"(American/Lost Highway)が、なんとビルボード・アルバム総合チャート初登場1位!! 

おめでとう!o(^-^ )o( ^-^)o!

……と言いたいところだが、もうキャッシュもいないし。ジューンもいないし。残念だなぁ。初登場1位を、なんとかキャッシュさんに教えてあげられたらいいのに(T_T)。

映画『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』の影響もあって、ここのところアメリカでのキャッシュ人気は大変なことになっているらしい。ベスト盤『リジェンド・オブ・ジョニー・キャッシュ』や『ウォーク・ザ・ライン』のサントラも長らくトップ10入りしていたし。そして、おそらく最後の“最新作”になるであろう今回のアルバムに至っては初登場1位である。
ひょっとして、若者たちの間でも「今、キャッシュ聞いてるとイケてるかも!」みたいな風潮になっているのか? そんな気すらする。この、海の向こうから観察していても、めちゃめちゃカッコいい感じに見える盛り上がり方は。生前もリック・ルービンのプロデュース以降、一躍「ギャングスタの元祖」みたいな感じで若者層からも注目を集めたけど。あの時は、もちょっとサブカルっぽい存在感だった。今は、もっとポピュラーでメジャーな印象。京都の老舗のナントカ帆布のカバンがオサレ・アイテムとして爆発的に売れてる、みたいな感じ? ちょっと違うな。今ひとつうまい喩えが思いつかないけど。何はともあれすばらしいね。ああ、本当にキャッシュさん夫妻に教えてあげたいよ。日本でも「刑務所シリーズ」(笑)をはじめ、かなりの好セールスを記録しているらしい。でも、やっぱりアメリカのような人気というのは、どう考えてもムリだ。ないものねだりだ。なにせアチラさんは、どこの家庭も親子3代にわたって、キャッシュ&カーター家の歴史を見ているわけで。つまり、日本でいえば、どこの家庭でも梨園の名門の3代にわたるスタァについてよく知っているようなもので。やっぱ、かないません。そこは素直に羨ましい。

で、この最新作。かなりノドは衰え、弱々しくなり、今になって聞けば、それは確かに人生の終着地点にそろそろ近づきつつある「声」だなぁと思わされ。往年のマン・イン・ブラックの歌声に親しんできた耳にはちょっとせつなすぎるアルバムともいえる。ずっと聞いてると、寂しく、悲しくなってくる。でも、どんなに悲しくなろうと、ずっとずっとリピートして聴き続けたいアルバムだ。とはいえ、もし、彼のことをよく知らぬ者が「枯れててシブいっすねー」とか「昔のズンチャカ、ズンチャカより好きっす」とか言ってたら、即座にソイツの手からCDを強奪して「じゅうねん早ぇーよ」と説教したくなるアルバムでもある。自作曲から、ハンク・ウィリアムスやゴードン・ライトフット、ラリー・ガトリン、ドン・キブソン、そしてブルース・スプリングスティーンといった人たちの作品、さらにはトラディショナルまでを淡々と穏やかに唄う声には、静かに少しずつ「死」と混じり合ってゆく「生」の奇跡を感じる。死ぬ前に一瞬、生命のローソクがボッと激しく燃え上がる……みたいなことではない。最後にムリなチカラを振り絞るでもなく、あるがまま、なすがまま、そこに存在しているだけの美しさというか。魂の内側からじわぁっと発光するような、そんな輝き。まぶしいなぁ。

これまた先日リリースされたばかりの2枚組"Personal File"(Columbia)は、ある意味でこの新作と対をなしている。つか、どうせ聞くなら両方聞かなきゃダメだ。73年から82年までの間に自宅スタジオ=ハウス・オブ・キャッシュで録音された大量の未発表音源を集めた、これも奇跡の「新作」。弾き語りによる賛美歌や、オールド・カントリー、当時の最新のシンガーソングライター作品……。公私ともにもっとも充実していた幸福な時代に、どこに発表するでもない歌をコツコツと録りためていたということは、つまり、自分自身のために唄っていたということなのかなと思う。で、そういう人だったからこそ、亡くなる直前まであれだけの穏やかさで唄い続けることができたのではないだろうか。この2作のアルバムを結んでみると、人間は生まれてから死ぬまでずっと「死」に向かっていっぽいっぽ進んでいるのだなぁということを、今さらながら肌身で実感させられる。
でも、"Personal File"のほうはビルボード108位どまりだったみたい。グリール・マーカス大先生も、気合い入りまくりのライナーを書いておられるのに。やっぱ、アメリカ人としては70〜80年代の未発表音源というのは、ちょいマニアな懐かしアイテムなのかね。

さすがに、これで未発表音源シリーズは終わりかなぁ。いや、しかし、ハウス・オブ・キャッシュにはまだまだ宝がザクザク残っているようだし……。