Less Than JOURNAL

女には向かない職業

星の王子さま

ハンカチ王子。ハニカミ王子。今、日本では空前の王子ブーム。次は何王子だ? 今日のニュース番組では、13歳のゴルフ少年が「自分は何王子と思いますか?」とドアホな質問をされて困っていた。新聞に《ぽっちゃり王子》とか書かれてた王子もいた。年頃の少年なのに……かわいそうすぎる。

しかし、今年われわれポップスファンがいちばん注目せねばならない王子はコイツだ!

星の王子さま

ええ。あれですよ、サン=テグジュペリの「Le Petit Prince」。
ぜんぜん新しくも何ともないじゃん、むしろ元祖・王子じゃん。と、フツウ思いますよね。でもね、フツウじゃないんですよ。後述しますけど、今回はちょいとこみいった事情がありましてね。
なので、えー、もうちょっと正確に表現してみると……

星の王子さま」王子。

……かな。

とにかく、いちお、念のため、「星の王子さま」はちゃんと読んでおいたほうがいい。

2005年からは日本での著作権保護期間満了にともない、内藤濯のオリジナル翻訳の他にもビックリするほどたくさん新訳が出ている。いろいろ読み比べてみると、この物語は本当にいろんな読み方があって、深く読み解こうと思えばいかようにもできるし、しかし、浅く素直にファンタジーとして読むこともまたひとつの《解釈》なんだなーと興味は尽きない。全部は入手できなかったけど、とりあえず手あたり次第に読んでみたところ、わたしが好きだったのは倉橋由美子、池沢夏樹、稲垣直樹、藤田尊潮……あたり。文章の丁寧さと、愛情深さ、そして原作者への敬意が感じられる翻訳だった。感性は人それぞれなので、翻訳とはいえ、読む人によって相性がある。なので、いいとか悪いとかは断定できませんが。こうやっていろいろと読み比べられるというのは、めったに味わえない贅沢な《選択の自由》でうれしい。
でも、いろいろ読んだ末、内藤濯の翻訳というのは確かに、もはや日本語としてはわかりづらい部分も多々あるのかもしれないけれど、やっぱり内藤訳でないと「ぐっ」と来ない場面もたくさんあるのだと再認識した。あの古めかしい、美しい独特の言い回しというのはもはや古典文学の美しさと言ってよいわけで。そういう面でも、新訳との読み比べは楽しい。

で。肝心の、なんで「星の王子さま」なのか? という件。

コトの真偽は全然定かではないので、今のところは話半分、憶測の域を出ない妄想ストーリーみたいなものと思ってお読みいただければ幸いである。というか、わたし自身、ホントは事実はどーでもいいのです。こうして妄想を許されている時間が大好きなので★

数日前、アメリカの地方紙に、ブライアンがミスター蝶ネクタイことヴァン・ダイク・パークス大先生とコンセプト・アルバム作ってて、それは「リトル・プリンス」のお話で、たくさんの歌と共にブライアンが朗読をしてる……という話をブライアンに聞いたっつー記事が載ってたっつー情報がファンサイトに載っていたのである!

た、た、大将、そういうことだったんスか!?

わたしは、キャリフォルニアの方角に向かって叫んだ。
今ごろは元気にキャリフォルニア・ツアーに出かけているであろうブライアン大将。それが終わると、休む間もなく夏のヨーロッパ・ツアーへと旅立つ予定になっている。
今夏〜秋のヨーロッパ・ツアーの目玉は、もはや大将にとって《心の故郷》と申しても過言ではないロンドン、ロイヤル・フェスティバル・ホールにおける6夜限りのスペシャル・ショウ。

このショウはロイヤル・フェスティバル・ホールを擁する、ロンドンの再開発地域で文化産業の中心地=サウス・バンクのアニバーサリー・イベントの一環として開催される。で、サウスバンク・センターの依頼により、ブライアンは特別に書き下ろした新曲を演奏するということになっている。

今年はじめの公式発表によると、それは《That Lucky Old Sun》と呼ばれる組曲になるだろうとのことだった。ブライアンの説明によると、その組曲の「語り手」として登場する人の名前が「Lucky Old Sunさん」ということになっているらしく。
なので、つまり、アメリカの古いスタンダード・ソング《That Lucky Old Sun》*1をモチーフにした組曲仕立てのプログラムで、ブライアンのナレーションで進んでゆくよーな感じではないかと想像していた。
音楽によってアメリカを縦断しながら、過去と現在をも往来してみせた『SMiLE』の次の作品として、古いアメリカの歌を題材にした物語を編み上げる……という展開になるとしたら、それはそれで非常に説得力のある話ではある。

やはり、ブライアンの心には勇壮な《内なるアメリカ》が広がっているのか。この混沌とした時代を生きる現実の肉体とは別に、彼の心は開拓者の勇敢さをもって誰も触れたことがない《内なるアメリカ》へと旅立とうとしているのか。かつてオーネット・コールマンが、フリー・ジャズという魂をもって《内なるアメリカ》を描きあげた『アメリカの空』のように。しかしオーネット・コールマンと違うのは、ブライアンにとってのロンドンは何よりも心強い《友》として存在していることだ。コールマンは、ロンドンという地でレコーディングしたことが結果的に大いなる誤算となり、結局、自らの思いを完璧に描きあげることを断念せざるを得なかった。しかしブライアンの場合、ロンドンとは、世界中のどんな場所よりも熱狂的な歓迎をもって新たな冒険を支持してくれる街なのである。

↑と、そんなことをつらつら妄想していた。《SMiLE》から《That Lucky Old Sun》というのは、とても辻褄の合う話なので。入試問題の小論文ばりに、出されたお題を眺めているだけでいくらでもホイホイ話がつながってゆくのだ。

ところが。
いきなりサン=テグジュペリと言われてもなぁ……。
フランス人だよ。まぁ「星の王子さま」は作者がニューヨーク在住の時に書かれ、英語・仏語の両方がほぼ同時に刊行されているアメリカの文学とも言えるわけだが。

ひょっとして《That Lucky Old Sun》はヤメっつーことになって、かわりに出てきたのが「星の王子さま」だとゆー可能性が急浮上。つか、あの過密なツアー・スケジュールの中でいつ新曲を書けるのかということはフシギな位だったし、やるとしたら絶対に蝶ネクタイが関わってくるだろうなと思っていたし。長年、ブライアンの構想にあるもののカタチにならない《That Lucky Old Sun》が今回もカタチにならなくて、で、蝶ネクタイの入れ知恵か、娘さんの愛読書か何かかわからないが、朗読入り組曲という当初の発想は生かしつつ題材は「星の王子さま」になったとゆー可能性はかなり高そうな気がするよ。ひょっとしたら、舞台はネバダの砂漠かなんかに設定されて。で、《That Lucky Old Sun》が「星の王子さま」の物語と合体するのか。それはそれで、なんだか物凄いものになりそうな気がするし。よりによって、あえて「星の王子さま」を取り上げるってことは《何かある》のは間違いないわけで。秋まであれこれ妄想する楽しみが増えたってことで。

ま、いいか。

でもなぁ。
CDが出るくらいの話だったらいいけど。
ひょっとしたら、ブライアンが『星の王子さま』を朗読するのを聞くためにわざわざロンドンまで行くことになるんだろうか……と思うと、ねぇ(T_T)。
大枚はたいて飛行機に乗って、今、地下鉄の初乗りが900円近くて、ホテル代はニューヨークや東京の二倍(イメージ)で、グルメ・ブームとゆっても、それは金に糸目をつけなければって話だよ……と言われる地獄の物価高タウンに、サン=テグジュペリというよりむしろ円楽師匠に近い我らが“星の王子さま”が、

「ねーねー、ひつじの絵を描いておくれよー」

なんてかわいらしい声で朗読するのを、わざわざ聴きに行くことになるのか。
ロンドンまで。
マニアックだなー。

だとしたら、それは深い愛だよねー。ブライアン愛、ここに極まれり!だ。

でも、そしたら、愛の深さという意味では誰もかなわぬジェフリー・フォスケットさんがひょっとして《飛行機乗り》の役で、

「しょうがないなー、今回だけだよー」

と、もう、王子さまっつーよりも、のび太の面倒を見るドラえもん状態になって大将をフォローする姿も見られるかもしれません。ああ、もちろん美貌のバラにはテイラー・ミルズ嬢かぁ。あ、そういえば、公式によると7月からビリー・ヒンシュが加わるかもしれないとの話。冗談じゃなく、王様とか実業家とか……それぞれ配役があったりして。

ああ。ブライアンには王子さまのカッコをしてもらいたい。

スマイル王子

または、

ノックノック王子。

みたいな。

それにしても。
かつてはあんなに飛行機が嫌いで途中で降ろせって暴れてた人が、歴史に残る伝説の飛行機乗りの物語とは。どーゆーアイロニーじゃっつーの!

待て、続報!

*1:ジョニー・キャッシュレイ・チャールズ、フランキー・レイン、ルイ・アームストロングなど多くの有名バージョンがある。日本では久保田真琴が、この曲のカバーを収めた同名のアルバムを発表したことも