Less Than JOURNAL

女には向かない職業

レッチリについてこんなに長々と書くのは初めてだが

 毎年グラミー賞の時に発表される“Musicares Person of the Year”。カンタンに説明すると「音楽えらい人グランプリ」みたいな。音楽的な功績はもちろんのこと、社会貢献などの活動も含めての評価で決まる名誉あるアワードだ。2005年には『SMiLE』で待望のグラミー・ウィナーとなったブライアン・ウィルソンが受賞した。その受賞式を兼ねた、豪華絢爛なトリビュート・コンサートの模様は日本でもDVD発売されている。が、このDVDについては多くの知人より「買ったほうがいいんですかね?」との質問を受けた。いわく、以前にNYのラジオシティミュージックホールで開催されたブライアンへのトリビュート・コンサートに比べるとパッと見はビミョーな人選に思えるからだと。

 確かに、パッと見はビミョーだ。

 いくら有名ったって、ブライアンにゆかりのなさげな人たちも多い。

 しかし。いちど見れば納得する。買ったほうがいいも悪いもねぇ。買うしかねぇ。ブライアンのやることに間違いはねぇ。つか、ぜんぶが間違いという風にも解釈できるが。

 わたしとしては、現時点、今までに出たブライアン関係のカバーでいちばん好きなカタログである。

 いわゆる“ペット・サウンズ以降”の評価から生まれたブライアン・リスペクトの流れをあまり意識せず、客観的な評価よりもブライアン自身の本質みたいな部分で共鳴しているカヴァーばかりなのである。斬新な視点であり、かつ原点に肉薄したトリビュート。

 たとえば、ぴちぴちのボーイズ・コーラス・グループとしてのビーチボーイズというものを体現しているのが、バックストリートボーイズの「When I Grow Up to Be a Man」。まぁ、この人たちも、もはやぴちぴちではないが(笑)。それでも、今、この時代にビーチボーイズがデビューしたらどんなふうにキラキラしていたかという想像をかきたてるパフォーマンスができるのは、このグループをおいて他にないだろう。リハーサル映像などを見ると、どうやらブライアン・バンドの鬼軍曹、ジェフリー・フォスケットとダリアン・サハナジャにかなりシゴかれた様子なのも微笑ましく。

 さらには、ほっておいたらセリーヌ・ディオンとデュエットしたいなどと超フツーなことを言ってヲタをガックリさせるブライアンを歓喜させる、シェルビー・リンの「Surfer Girl」とかね。ジョン・レジェンドが張り切ってお送りする、とってもインテリ♪な「駄目な僕」とか。ギターが唄ってるのがオソロシイほどわかって鳥肌が立つジェフ・ベックの「Surf's Up」はもちろん素晴らしいんだけど、何といっても感動的なのは、さらに続けて「Surfin' USA」を弾いちゃうところ。たぶん、アッチを弾いたらコッチも弾かずにはいられないというか、アッチとコッチが両方あってこそビーチボーイズ……という、ブライアンの中のバランスをジェフ・ベックも感じたのだろう。そういう意味では、もう、脳内回路までトリビュート。そしてダーレン・ラブの「素敵じゃないか」があったり、ベアネイキッド・レディースが自分たちの曲「ブライアン・ウィルソン」を本人の前でやってみせるという“ペット・サウンズ以降”らしい場面もあり。
 と、すべてが納得づくの人選、選曲である……と言いたいところだが、アース・ウィンド&ファイアーの「Don't Talk」だけはわからん。というか、モーリス・ホワイトはいるのか? フィリップ・ベイリーは……声はすれども、姿がわからん。どう考えても影響の受けようがないと思うのだが、ま、これは「ファルセットつながり」なのか。

 そして。いちばん素晴らしいのが、オープニングを飾るレッド・ホット・チリ・ペッパーズさんである。思わずさんづけしてしまうほど素晴らしい。

 なぜレッチリなのか。ま、ある種、考えオチみたいな人選ではあるが。
いちど気づいたら、あとは電信柱が高いことより郵便ポストが赤いことよりもアタリマエのことに思えてくる。60年代、きらめくスーパーアイドルグループのビーチボーイズ(のブライアン)が唄っていた、カリフォルニアにおける喪失感。その精神を、ポジティブな意味もネガティブな意味もひっくるめて現代に継承している者たち。それはレッチリレッチリしかいない。そう思ってレッチリの轟音ロックを聴いてみると、その奥底には『ペット・サウンズ』の悲しみの音色が静かに漂っているような。そんな気がしてならない。

 と、そんな理論武装に自己陶酔しながら、初めてDVDを見た時の感動は忘れられない。

 アンソニー・キーディスとフリー、どっちかがブライアンで、どっちかがマイクに違いない。

 と、見る前には信じて疑わなかった。バンド内の黄金バランスとは、そういうものだから。まぁ、言い換えればどっちかがジョンでどっちかがポールともいえるし。どっちかがミックで、どっちかがキースとか(これはわかりやす過ぎるか)。

 しかし。演奏が始まったとたん、わたしは悟った。

 どっちがどっちとかいう問題ではない。

 レッチリ、それは……

 全員がマイク・ラブの凄いバンド!

 しかし、こればかりは、拙い文章力では説明しきれない。なんか、いくら説明してもうまく伝わったためしがない。しかし、百聞は一見にしかず。DVDを見れば、わたくしの感ずるところをおわかりいただけるだろう。

 ま、カンタンに言えば。

↑ここに、ひとりだけハダカの人がいますね*1
そういうことです。

 全員、脱ぎキャラ。みたいな。

 といっても、別に実際にハダカかどうかって問題ではない。ま、脱ぎ系なのは確かだが。

 精神としての脱ぎキャラ(なんだそれは)。
 精神としてのモンキーダンス(なんだそれは)。
 精神としてのエロガッパ(なんだそれは)。

 つまり、そういうものをひっくるめてブライアンが持ってなくてマイクが持ってるものをレッチリは持っているということである。しかも全員が、ね。

 ああー、これは気づかなかった。
 なんか喪失感とか何とか机上の屁理屈だけ並べても、ぜんっぜんカリフォルニアに近づけないのだ。やっぱ、脱ぐって大事。どれだけ頭で考えてもわからない『スマイル』でさえ、脱いでみたからわかったよ……ということもあるかもしれない。
太陽の国、カリフォルニアだもん☆

 あ、精神としてのロゴ入りベースボール帽というのもあるな。

 マイクのビーチボーイズ帽は、西海岸ロックTの歴史にもつながるのかー(無駄に感動)。

 そして、逆に言うならば、当然、ブライアンが持っていてマイクが持ってないものも持っている。

 心はブライアン、肉体はマイク。

 それがレッチリだとしたら。

 うーむ。無敵だ。

 だから、ホントだったらコンサートのクライマックスで『駄目な僕』あたりを選曲してもよさそうな感じ……というか、このコンサートにレッチリが出るといったらフツウにそーゆー流れを想像するわけだが。オープニングで『I Get Around』を唄ってしまうあたりが、レッチリさんが「ブライアンでマイク」であるゆえん。だって、これは、さしずめ前述ニューヨークでのブライアン・トリビュートにおいてはリッキー・マーティンがやった役まわりですよ。

余談だが。リッキーの場合は「ヤングでハンサム&セクシー」という意味でのマイク・ラブ(笑)。あのライブビデオについて語る時、今や「リッキー」と呼ばずに「あそこでマイクがさー」とかゆっても話が通じるくらいマイク・ラブが憑依してましたもの(「いやー、照れるな」byマイク)。

 で、話は戻る。
 いやー、本当にすごい。出演依頼をしたほうもすごいし、出演したレッチリもすごい。ロックンロールの歴史がどこから来て、どこへ向かおうとしているかを知っている。そして、自分たちが今、その歴史の一端に身を置いていることへの感謝と喜びを音楽で表現しているってわけだ。レッチリっつったら、日本でいちばん人気がある洋楽とゆっていいわけで。洋楽を聴かない若者とお話をしていても、レッチリだけは聴いてるっつー人は多いし。そんな人たちが、こうしてブライアンをたたえ、歴史の中でビーチボーイズと確かにつながっていることを自らすすんで証明しているなんてね。やっぱアメリカは深いわ。アメリカン・ミュージックの奥深さというものは私なぞがいくら想像したところで想像の範疇を超えることはないのだ。

 さて。そして、驚くべきことに。ここからが本題である。

 なんと、そのレッチリアンソニー・キーディスさん。
 先日、44歳にして初めての子供を授かった。

 そして。
 彼は、その子に自らの大好きなバンドの名前をつけたのです。


命名エヴァリー・ベア

 そう。エヴァリー・ブラザーズからとったのだそうです。

 星の数ほどあるバンドの中から、エヴァリーとは。

 しかも、レッチリエヴァリーとは。

そういえば、レッチリはディオンの「ティーンエイジャー・イン・ラブ」のカヴァーもやってるし! しかも、ヤングなリスナーたちの手前なのか何なのか、シングルのカップリングでこっそりとやってるところがまたキュート☆ いかにも、ホントに好きなんだなーって感じで。

 深いぞ。アメリカ。深すぎる。

 アメリカという国の奥深さ、いくら頑張っても永遠に理解できないであろうロックンロール史の縦糸というものをあらためて見せつけられた気がした。

 ちなみにベアというのは、奥さんがつけたのだそう。

 で。「BARKS」に掲載されたニュースによると、アンソニーは自分のことを「クマの仲間」だと思っているから、ベアという名前も気に入ったぜ……とゆってると書いてあったのですが。もしかして彼は自分のことを「Bear Family」と思ってると言ったのかも!!

 エヴァリーでベア・ファミリー!! てか、レッチリがベア・ファミリーか?

 ああ、もう、それだけで泣けてきます。
 エヴァリー・ベアちゃん、ハッピー・バースデイ♪

 ところで。
 おめでたい話に水を差すのもナニだが。
 エヴァリーって、名字じゃん。
 ちょっとエヴリンとかベバリーとか、おされっぽい名前なのか?
 しかし、そもそもエヴァリー・ベアちゃんって男の子? 女の子?

 この方式の命名、日本で考えるとどんな感じなんだろう。

「田中 菊地原」

 みたいな名前ってことか? そんな名前、ねーよ。

「山田 福留」

 みたいな?

 阪神の真弓だったら成立するけどね。て、ストライクゾーン狭すぎ。


トリビュート・トゥ・ブライアン・ウィルソン [DVD]

トリビュート・トゥ・ブライアン・ウィルソン [DVD]

*1:先日、瀬竹誠氏の指摘により初めて気づいた。マイク以外、全員着衣。いやん、ひとりだけハダカ。さながらマネの「草上の昼食」状態である