Less Than JOURNAL

女には向かない職業

PANDA GROOVES!!〜大阪ストラットPt.1〜

【長らくおつきあいありがとうございます、じぶんメモシリーズ最終ラウンドです。しかしながら、虚実いりみだれたじぶんメモですのでコンサートレポートの体裁は見せかけだけです。ご了承のうえ、ご覧くださいますよう】



新装フェスティバル・ホールに来るのは、これで2回目。
最初は5月3日。そう、あの、山下達郎こけら落としスペシャル!*1

まぁ、あの時から、こうなることに決まっていたのかもしれない。
昔からフェスティバル・ホールには“フェスの神様”がいる、と言われてきた。
ただ、旧フェスが閉館した後、新しくなったフェスにも神様は戻ってきてくれるのかどうか…。音楽ファンの間では、ずっと話題になっていた。でも、あのライヴを見た時に、やっぱりフェスの神様はいる!と誰もが実感した。達郎さんもライブ中のMCで、ステージ上から客席を眺めると何か良い“気”があるのを感じると語っていた。大丈夫、これから時間をかけてさまざまなミュージシャンと観客とで新しいフェスが育っていくに違いない。と。

ああ、やっぱしフェスは特別だな。思えばブライアン・ウィルソン初来日公演の初日もフェスで、そこで起こったミラクルも凄かったし。音楽を愛する人たちを、こんなにも祝福してくれる“箱”は日本にどれだけあるだろう。なんてことを考えながら帰京した翌日が、このミラノ・スカラ座公演のフェス会員先行前売の開始日だった。でね、ホントは末席を買おうと思ってたのだ。プログラム的にも、東京のNHK音楽祭と同じだし。が、フェスの神様の力を目の当たりにしたばかりの私は、なんだか、なんだか、ちょっとトランス状態だったのかもしれないけど、何か予感があって、妙な胸騒ぎがこみあげてきて、エイッ!と特上S席セットを押さえてしまったわけです。

そしたら、なんと10列目(2日とも同席)!
これまで座席指定なしの先行で良席が当たったことがないんですが。ふつうに一般申し込みで10列目って。
フェスの神様……ありがとうございます(゜´Д`゜)。
しかも『アイーダ』の日は、合唱団のぶんステージが広くて実質5列目。
いや、もう、開演前から気絶しそう。死ぬかと思いました。
ステージ・フライトっつーのは知ってるけど、まさか“客席フライト”もあるなんて。
たぶんこの先、ここまで近い場所でドゥダメルを見られることは二度とないだろうなぁ。

つーわけで。

ヴェルディアイーダ』(全4幕・演奏会形式)

9月24日(火)18時30分 フェスティバルホール
《festival hallオープニングシリーズ》
ミラノ・スカラ座ヴェルディ生誕200年祭〕大阪特別公演
グスターボ・ドゥダメル指揮/ブルーノ・カゾーニ合唱監督/
ミラノ・スカラ座管弦楽団・合唱団


今回、ドゥダメル指揮の全9公演とハーディング指揮の『ファルスタッフ』と演奏会と全11公演を観た。どの公演もそれぞれに特筆すべき見せ場があった。歌劇場のツアーで、こんなにも毎日違う面白さがあるというのは本当に驚きだった。でも、自分が観た公演でベストを挙げるならば、間違いなくこの夜の『アイーダ』だ。

本当にすごかった。まさに熱狂。
前奏曲が始まった瞬間から、ドーンと足下から気迫が響き伝わってくるような雰囲気。情熱の『アイーダ』にフェスが揺れる。
彼が伝家の宝刀を振り下ろせば、オーケストラが咆哮する。



PANDA GROOVES!!

※たいへんわかりづらいですが、これはMAHLER GROOVESのもじりです。ちなみに、パンダはレニー先生の楽譜をバーンスタイン家のご厚意により所有しています(すげぇ)。


ここにきて、ついにパンダ全力投球。パンダ全力疾走。
ステージに姿をあらわした時から、すでに髪も広がりまくっていたし。
(それはまぁ、さすがに大阪の湿度にギブアップしたのかもしれんが)

最初から、今までとはちょっと違う。ファイナルのスペシャル感たっぷり。

リゴレット』や、最初の演奏会となったNHK音楽祭ガラコンでの「笛吹けど踊らず」状態でもどかしそうだったパンダや、ガツンと思いきり指揮棒を振り下ろしたのにフワフワーっとソフトランディングでかわされて背中が寂しそうだったパンダが、もはや懐かしく思えてくるほど(笑)。

ハリウッド・ボウルでの、野外イベントらしい華々しいスケール感とはまた全然違う方向性の迫力だ。たおやかさと猛々しさが複雑に絡み合いながら加速してゆく。緻密に計算された美しさが、なぜか同時に野性的で恐ろしかったりもする。ああ、そういえば、イタリアってフェラーリの国だものね。なんてことを、ふと思ったり。

今、思い出しただけでもトリハダが立つような瞬間が何度もあった。

いやぁ、ホンキ出したパンダはすごい。
ていうか、ホンキ出したスカラをパワフルに牽引し、おおらかに操るパンダはすごい。

いや、ていうか、こわい


「オレにさわるとやけどするぜ!きらっ☆」


激しいアクションとか、シモン・ボリバル響の若さいっぱいの演奏のイメージから、わりとドッカンドッカン爆演主義みたいなのが「ドゥダメル」だと思われがちだったりするが。

実際には、むしろ爆演とは逆の、ちょっと意外に思えるほど落ち着いていて丁寧なところのほうに耳を奪われることが多い。時には冷徹なほど冷静だったり。パーカッションや管楽器が派手にどかーんとハジけがちなところは、あえてぐっと押さえたり。でも、思いっきり行くべき時は、やりすぎるくらい思いっきり無茶させるし。
そうやってあちこち瞠目の瞬間を散りばめつつも、もっとも驚くべきは、
際だった音色だけでなく、つねに、どんな瞬間もすべての楽器がずっと美しいということ。
そのことに気づくたび、今この時間は、自分と音楽が同じ空間に生きているんだという嬉しさをしみじみ実感する。


つまりそれが、ドゥダメルの指揮なのかもしれない。
というのが、今回ずっと思っていたこと。
て、とてもボンヤリした文章でわかりづらくてすいません。


ひとつの曲のなかで大きな絵を描いてゆくように、本当に美しいバランスをきっちりと保ちながらためらいなく前に進んでゆく。
天上から地上を眺め、慈しむような。その視点こそが「ドゥダメル」なのだと思っている。



でも、まぁ、パンダなんだけどね。




バルチェッローナねえさんが、開演前にツイッターで「今日はアイーダ最終日、思いっきりがんばろーぜ!おー!」(イメージとしての超訳です)みたいな檄を飛ばしていて。なんかもう、それだけで「今日はかなり気合い入ってるなー」って思っていたのだが。どうやら本当に、たった2回とはいえパンダ/スカラのチーム・アイーダはものすごいことをやってのけた。


パンダもすごいし、オーケストラもすごいし、合唱団もすごいのだけど、何よりすごいのは歌手チーム。
個々の力量も、歌手8人のチームワークも、おもしろくなってしまうほど全員パワーアップしていた。


あくまで雰囲気的な意味であって、音楽的な意味ではないのだけれど、このコンサートのことを思いだそうとするとザ・バンドの映画『ラスト・ワルツ』が思い浮かぶ。『アイーダ』というひとつの大きな物語ではあるのだけれど、1曲1曲が独立したセッションのような濃さだったせいだろうか。それぞれの歌い手が自分の出番でマックスの力を出し、オーケストラも全力で応戦する。
歌い終えると、パンダがひとことふたこと声をかけているのが見える。それじたいは珍しい事ではないのだが、なんか、雰囲気がね、これまたスペシャルっぽかった。歌い手たちが全部出し切った感でホッとしている表情も素敵だったし、それを讃えるように笑顔を見せるパンダの穏やかな表情はまるで年上の教師のようだった。

特に、今回の文句なしMVPを決めたアムネリスのバルチェッローナさん、アモナスロのマエストリさんという『ファルスタッフ』コンビは今回の日本ツアーのファイナルということもあって、余力はまったく残さず!の勢いだったし。アイーダ女王のホイ・へー姐さんも、他の歌手との関係もぐっと踏み込んできた感じで強かった。ラダメスのホルヘ・デ・レオンは、この機会にナマ声を聴けてよかったなぁ。ああいう華のある歌声は、得がたい。前回よりもぐっと堂々とした押し出しで、今のアラーニャよりもラダメスとしてはセクシーで素敵かも(*´∀`*)。これだけの顔ぶれの中で、ちょっと精彩を欠いた感もなくもなかったエジプト王のロベルト・タリアヴィーニさんも、この日はここぞの大熱唱でかなりいい見せ場を作った。


いやー、この日は、ちょっとパンダ的にもすごい日だったと思う。
パンダもすごいんだけど、とにかくスカラ側の〈やりきった感〉がハンパなかった。
全員、前のめり。みたいな。
ロックンロール的な情熱で“死ぬ気で弾けー!”みたいな前のめり感がめちゃくちゃカッコよかったし。
その激しいうねりを、全身全霊の凄まじい集中力で的確にドライブさせていくパンダにも圧倒された。
やっぱ5列目っつーのはすごくて、クライマックスのところでブイブイ唸るパンダの声までしっかり聞こえる。もう、その手で操るぶっといエネルギーのうねりが目に見えてくるような。ほんとに、GROOOOOOVES!

特に、その前の「武士は食わねど高楊枝サウンド」というか「やればできるのにやらない子サウンド」(*´∀`*)を聴いてただけによけいにビックリした。
そして、演奏が終わった瞬間の燃え尽き感といったらもう。

首席チェロの男子などはもう、曲が終わったとたん「あしたのジョー」よろしくガックリと脱力。マエストロのほうから手を差し伸べて握手を求めるもだらりと腕をたらしたままなので、仕方なく、その手をパンダが近づいてそーっと握るという(笑)壮絶なありさまに。
ねぇねぇ、本当に、名古屋からここまでの間に何があったんですか?と訊きたくなるくらい。

オレが主張しているのは、

「大阪到着後、パンダが道頓堀で買ったタコ焼きを持って各ミュージシャンの部屋を訪問して夜の個別指導」

という説である。
これだと(1)各パートすべてとの、実にテンポよく滑らかなツーカーぶり(2)「グルたん」の愛称にふさわしい、日本滞在中の増量疑惑……というふたつの謎の説明がつくわけだが。はい、個人の妄想です。


それまでは、もっと!もっと!とパンダのほうから楽団を奮起させようという意識、さらに何かを引きだそうとする貪欲さを感じていたけれど、この日はむしろ楽団の熱情に対してパンダが丁寧に誠実に応えていったようなところがある。




あ。



なるほど。



つまり、どうやら、調教されてたのはパンダでなくスカラのほうだったわけだ。









「キミたちは、やればできる子!きらっ☆」




わらわらわらわらわら……


みたいな。

調教されるふりして、調教してたのか!



「こたえは、ないしょです」


パンダ、おぬしも悪よのぉ……。
(※個人の推測です)


大阪のお客さんの明るい雰囲気もよかったのだと思う。聞けば、スカラ座の来阪は25年ぶりだとか。会場全体がワクワクしているような、そんな空気感がとても心地よかった。いちばん静かなところで「へーっくしょん」とか、これがもし東京文化会館だったら一斉に1000人くらいがあからさまにイヤな顔をして振り返ってにらみつけそうな場面もありましたが。みんな全然平気で、なんかほっとした。細かいマナーよりも、楽しもうという気持ちのオーラのほうが大事なのだ。と、しみじみ。

ついでに余談ですが、アムネリス役のダニエラ・バルチェッローナさんが登場した瞬間、隣のおじさんが奥さんにプログラムを見せて「おいっ、ぜんぜん違うやないか!20年前くらいの写真出してるんとちゃうか、卑怯やなー」と囁いてるのが聞こえてきて思わず笑ってしまった。これがもし東京文化……(以下略
このグッド・ヴァイブレーションも、演奏によい影響を与えたのだろう。
これもまた、フェス魔法?

東京の『アイーダ』でも、自然とわき起こったスタンディングオベーションに感激したと書いたけど。
大阪はもっとすごかった。演奏が終わった瞬間にものすごく多くの人々が立ち上がって拍手と歓声を送った。どれくらい続いていたのか、かなり長かったし。
興奮していたのは観客だけでなく、ステージ上にいる人たちもWe Did It !みたいな高揚感でずーっと盛り上がっていた。今日で残業終了の合唱団のみなさんも、最後まで歓声に手を振ったり投げキッスをしたりとても楽しそうだった。
パンダも、しっかりと真ん中に立って(それでも、またもじもじしておねえさんたちに真ん中に押し出されていたが)自分たちへのアプローズをしっかりと受け止めて味わっていた。
なんか、ふつうにニコニコ立ってるだけで、すごい威厳があったなぁ。
やっぱり彼は謙虚というより、とても正直。
本当に素直にうれしそうだったし、期待にこたえて見事にやってのけたオーケストラの中心で誇らしげだった。
印象的だったのは、何度も何度も客席を見渡していた表情。いちばん最後には額に手をかざして、2階、3階をまぶしそうに目を細めて見上げていた。日本公演でそんな風にするのは、初めて見た。
なんでそんなことが印象に残ったかというと、その瞬間、やっぱりフェスには何かあるんだなぁと妙に納得してしまったから。

まぁ、それはけっしてオカルティックなことではなくて。
世の中の、目に見えないものの中でもいちばん不思議な「音楽」を仕事にしている人ならば、ふつうの人が天気や湿度を感知するように当たり前に感知するものがあるわけで。前述の“気”だったり、その日の観客が醸し出す期待感だったり。という意味で。

無邪気。
邪気のない、無邪気なムードが心地よかったんだなきっと。



あ、続きはまた明日。





【おまけ】


りーんりーん。

「はろー。あ、ハルディングおにいさん\(^O^)/」


「パンダ、今なにしてんの?」


「オープニング・ガラの準備です。4分33秒っていい曲ですねー(*´∀`*)」


「オレは今日、ベルリンでマラ10振ったぜ」


がちゃん。


以上。



【感想】今、ベルリンフィルのデジタル・コンサート・ホールの生中継でハルディングおにいさんのマーラー10番(クック版)を見たもので。素晴らしかったです。でも、ベルリンなぁ、ナマだと中継ぶっちぶちに切れるのをなんとかしてほしい(ノД`)。

*1:手前味噌でございますが……5月3日 山下達郎ライブ・レポート@ぴあhttp://t2.pia.jp/feature/livereport/yamashita-tatsuro.html